31 山登り(内側から)
特殊なスキルはロヴェンテさんにも秘密にしてもらわなくては。
「ど、どうした」
彼に後ろからすり寄ったらギョッとされてしまった。
「私たちのスキルは隠して欲しいの。この世界でどう反応されるか分からないから、あなただけの秘密にしてくれない?」
「あ、ああ。俺だけ、か‥」
耳元でこっそり洗脳をかけただけなのに、ロヴェンテさんは顔を赤くしている。
そんな作用はなかったはずだが?
大人冒険者はまだ夢中で食べているから、生徒全員に伝言を回す。
スマホも音を切らせて使用禁止にした。
テントを張り、中に入ってから転送陣を起動させた。
「私は拠点に戻るから、あなたたちはここで寝ているふりして」
同室の女子に頼み、下層へ。
「えええ、ロヴェンテさんの仲間が現れたんですか!」
待機組に、今日の急展開を伝えた。
全員ビビっている。
「そう。で、私たちのスキルは特殊でしょ。いつどこで悪用されるか分からないから、物を出すスキルは見せないで欲しいの。スマホも緊急の時以外は使用禁止。メッセージは時々チェックするから」
私はそれだけ伝えてシャワーを浴びると、テントに戻って寝袋に入る。
5人いるときつきつになるから、1人拠点に送った。
翌日は干し肉とまずパンを出してみた。
「あのうまいのはもうないのか‥」
「あれは特別ですよ。MPに余裕がないと」
お弁当を出すスキルを隠しておくのは私たちも大変すぎるので、それだけは見せておくことにしたけど、全部なんて教えないわ。
(お弁当は数日に1回でいいか。女子は夜寝る時に転送陣で拠点に送るとして男子は‥)
食後は歩く歩く。登ったり下りたり延々と。
人数は多いし、ベテラン戦士のおかげで戦闘は簡単だ。食べやすい小型の獣は時々捕える。
それでも寝袋や武器は重い。
靴は佐藤さんが体育館シューズを出せるようになっていて本当に良かった。以前の生徒は上履きで私はサンダルだったからね。
「移動用のスキルがあればいいのに。みんなで空を飛ぶとかさ」
ついグチがこぼれる。
「魔物をテイムして乗せてもらうとかね」
テイマーのジョブを持っているのは森さんだったか。彼女がテイムに成功したのは小型の虫くらい。すぐ逃がしていたけど。
彼女は魔物の行動を予測するのが得意な子で魔法がなくても戦闘に加わる努力家だ。
「魔物かぁ。やってみたけど、無理でしたよ。ペットくらいは欲しかったのに」
「じゃあしょうがない」
努力家テイマーが無理ならあきらめよう。
食事時は毎回点呼を取る。誰1人置き去りにしないようチェックだ。
「俺たちだけなら今日中に大空洞にたどり着くんだけどな」
大人冒険者はゆっくりペースに不満の様だ。
たっぷり食休みをとると嫌味も言われるが、気にしなければ良いだけさ!
しかし干し肉とマズ固いパンと肉だけでは体が持たない。
その日の夜はテントに転送陣の出口をはると、まず女子全員を送り出し拠点で食事と入浴をさせる。
その後で出口を解除し男子のテントに様子を見に行った風を装って男子テントに転送陣を張った。
全員が入浴をすませるまで、付近を警戒していると、ロヴェンテさんと目が合った。
「色々お世話をかけて、ありがとうございます」
あいさつするとロヴェンテさんは食事を終わらせたようで、頭をガシガシかきながら私に近づく。
「ここから少し行くと大空洞なんだ。空を見に行かないか?」
「いいですね」
私は同行することにした。
しばらく歩くと、ふいに頭上が開ける。私たちはロヴェンテさんが降りて来た大空洞の底にいた。
半径2メートルくらいの縦穴。足元は悪い。上に行くにしたがってドンドン穴は広がるようで、遠近感がおかしくなる。
はるか高みにはオレンジ色の光が。
「地上は夕方だろうな。大空洞の魔獣は強い。明日は気合を入れよう」
私は彼のためにお弁当を出した。
「秘密を守ってくれて、ありがとうございます。これ、お礼で」
「助かる」
洗脳状態にするのはすまなかったから頭を下げる。
ロヴェンテさんは気にしていない様子でサンドイッチをぱくついていた。




