26 特訓 1
「あーー、死ぬかと思った」
「生きてる、良かった~」
「は、全員いる? 出席番号1番」
「はい」
拠点に無事戻った私は、大急ぎで点呼を取る。
「あははは、全員無事だね。良かった良かった」
ドリンクバーでお茶を飲み、ちょっとだけ落ち着く。そして何が起こったかを待機組に話した。
「そんな無理ゲーだったなんて」
「ずっと‥ここにいます? 生きていくだけなら問題ないんで」
しかし地上にはどうしても行きたい。かっかした頭で考える。
「鈴木君、あの空間の出口は分かる?」
「えっと、マップを出しますね」
探索スキルを持つ鈴木君のマップなら、あの空間からの脱出法も分かるかもしれない。
「あ、あった。これだと、今日行った場所から400mくらいで‥上層への坂はそこから200mくらいで色が変わります」
私が作ったマップで高低差を色分けしていたら、鈴木君のステータス画面もそれに合わせた表示になったらしい。
彼のマップを消えない内に写し取る。
「それ以上、上に行けば大丈夫なのかな? それとももっと上に行く必要があったり?」
大体、みんな革の防具を身に着けているのだ。10分弱で走りきれるのだろうか?
「竜の鼓動が100か‥俺だけなら、走りぬけるのも可能だが」
ロヴェンテさんはつぶやいているが、転送陣を設置できないことには1人だけ通り抜けられても解決しない。
いくら私たちのレベルがカンストしていても、身体能力はそこまで人間離れしていないのだ。
(レベルが上がったら100mを5秒とか夢見ていたけど、無理なんだよね)
だったら足の速いメンバーを先行させ、転送陣だけ作ってもらえば良いかな?
私は間宮さんと目が合った。
バッとそらされたところを見るに、走りは得意じゃないのだろう。時間内で間に合うかは分からない。
「まあ、どうするかはしばらく考えることにする」
興奮状態で考えていても、ろくな思考はできないだろう。とりあえず寝ることにした。
しかし次の日になっても、画期的なアイデアなど浮かばぬがな。
ま、どうせ時間はある。作戦を立てるのはノンビリで良い。
(素早く移動できるようにした方がいいのは分かっているんだけど)
自分の足だって遅いのだ。人のことをとやかくは言えない。
「特訓、するしかないんだよねえ‥」
それからは訓練の時間を半分、短距離走の特訓にあてる。
土魔法が使える勢を動員し、まあまあ平らにまっすぐならした道を200mほど作ってもらった。
ストップウォッチは陸上部の合宿所にあったやつ。全員のタイムを計った。
レベルが上がったおかげか、運動部はほとんどインターハイで活躍できる速さ。
間宮さんの走る速さは‥高校生女子の平均だろう。
「転送陣のスキル覚えた子がいたら申告してね」
そう言っても、都合よく運動神経の良い子に転送スキルなんて現れない。
「素早さを上げる補助魔法ならありますよ」
「浮遊魔法で浮かせて、風で送れば‥」
色々案は出る。
素早さを強化すると、間宮さんでも200mを40秒で走れることが分かった。
「鎧がなければもっと早く行けそうです」
ジャージだけにしたら34秒のタイムが出せた。
その状態で浮遊魔法をかけてもらい、走らせたら20秒を切る。
絵面は月面を走る感じ。
走る距離を400mに増やしても、1分を切った。
「すごい、これなら時間内に走り切れるよ!」
問題があるとすれば‥浮遊魔法だ。和田さんも高橋さんもロヴェンテさんも、自分にかけるだけで精一杯らしい。
「強風で飛ばすならできそうですけど、危険だし」
風魔法使いの高橋さんはうつむいている。
「まあ、浮かせるだけならできる子いるし、何とかなるよ」
その、他人に浮遊魔法をかけられる才能ある術師は‥江崎さんだった。
「ふ、あたしがクラスで浮いているから浮遊魔法が得意なんだろうって? ウケる―。クソが‥」
ブツブツつぶやく彼女の肩を、私は両手でガっとつかんだ。
「一緒にボス部屋まで行こうね!」




