25 地竜
「ここを登ればボス部屋だろう」
強敵を倒し、帰還のために転送陣を設置する。それをくり返すこと十数度。
「俺もこれ以上の敵には遭遇したことがない」
つまり、ロヴェンテさんが落ちたゾーンと私たちの到達した間が、最強になる予定。
「そう言えばボスってどんな形態でしょう」
「言い伝えによると、羽がない竜らしい」
「ってことは地竜ですね。今の私たちに勝てるかどうか‥」
不安はあるが、相手と対峙してみてみなくては分からない。
この世界に攻略本などないのだ。
私たちは上げられるだけのレベルを上げ、武器や装備を最上のものにする。
職人の野上君と仕立て屋の佐藤さんだけじゃなく、全員で。
革の防具はけっこう本格的なのができ上った。
「いつ地竜と遭遇するか分からないから、気を引きしめて行こう」
武器は手作り感満載でショボいが、私たちは強い。
集団でかかればなんとか、と思ってはいた。
「先生、向こうがすっごい広いです」
鈴木君の探索スキルで、未踏破の地がある程度分かる。転送陣の出口を設置した場所から、200mほど行った場所だ。
「いよいよボス戦か」
しかし鎮座する敵を見て、勝利への希望はすぐに打ち砕かれた。
(だめだ、勝てない)
私は無力感に襲われる。
そこはドーム球場くらい広い空間。つまりそんな場所を住処にしている生物が巨体でないわけがない。
竜は細長い姿で、蛇やトカゲに似ていた。まっ黒い鱗のすき間から赤いマグマみたいなのが輝いている。
胴体は巨大で、直径だけで3メートル以上あった。全長は50メートルを超えるんじゃないか?
こんなのとどう戦えばいいんだ!
竜がこちらを向く。首を動かすだけで音がきしむ。
『ヒトか』
竜は口を開いた。
「さすが竜。話せるんだ」
男子の誰かがつぶやくと。竜は軽く炎をはく。
離れていても熱い。
『我のなわばりに侵入した下等生物が、何をほざく』
竜からはイメージの奔流が押し寄せてくる。テレパシーか?
ともかく私はそれで悟った。
今まで探索して来た洞窟の迷宮は、この竜が掘った穴であることに。
「俺たちは女神に落とされただけだ」
坂本君が叫んだ。さすが勇者、勇気あるな。いや蛮勇か?
『最奥で大人しくしていれば見すごしてやったが、ここまでくるのなら逃がしはしない』
竜はにぶい音を立てながら、ゆっくり体を持ち上げる。
本気で炎とかはいたら、絶対ここまで届く。こわいこわいこわい。
「足を踏み入れてしまい、申しわけございません」
私は決意した、人語が通じるなら、徹底的に下手に出てしまえ!
「こちらの通過を許可していただければ、満足いくまでごちそうを用意いたします」
私は手から名物駅弁をポンポン出しながら頭を下げた。レッツ土下座!
あの巨体では満足しないかもしれないが、打てる手は打たないと。
『そんなもの、我は食わぬ』
ぐふ、速効で断られてしまった。
『しかしそちらが何でもするというのなら、魔力を寄こせ。それこそが我の贄じゃ』
良かった。代替案を出してもらえた。
「魔力ですね分かりました。‥ってどうやればいいですか?」」
魔力をそそぐのは構わないが、竜の近くには行きたくない。
ちょこっと体を震わせるだけでつぶされそうだ。
『大地に手を当て、魔力をそそげば良い』
あ、良かった。
私は土下座態勢のまま、ステータス画面に流す時と同じように魔力を流す。
『うまい、だがたりぬな』
「み、みんなも、ほら」
その場にいる全員で魔力を注入する。
『これくらいか』
やっと地竜が満足したようだ。
私の魔力はほぼ空。
どうにかこのエリアから立ち去りたい。
『我の鼓動が‥そうだな、100打つ間は見逃してやろう』
「みじか!」
それじゃ転送陣にたどり着く前に殺されちゃうじゃん。
『ふふ、我の鼓動はお前たちより遅い。そうだな、5倍くらいか』
それでも10分弱じゃん!
『逃げ帰るくらいはあるだろう』
たしかに。
急ぎUターンして下層に向かえば、転送陣まで十分もった。




