11 悩み
地下に閉じこめられている、と言うこと以外は生活の基盤が整ってきた。
しかしそうなると新しい問題が生まれる。
「あんたのスキル、なんの役にも立たないじゃない」
他人のスキルに対し陰口が増えた。
閉塞した空間に閉じこめられているのだ。みんなイライラしている。
(これはまずい)
逃げようのない環境で、30人も人間がいて問題がおこらない方がおかしいのだ。
私は心を鬼にして、洗脳スキルを発動させる。
「みんな、ストレスなんて忘れて。お互いを思いやって穏やかに過ごして」
ほとんどの顔からストレスが消えていった。
(このスキルヤバい)
支配階級とかが使ったらとんでもないことになりそうだ。
今はどうしても必要だからかけるけどさ。
「ごめんねみんな、洗脳しちゃって」
「あ、別にいいっすよ。スッキリしましたし」
それはうらやましい。
「先生、私のストレスも消してください」
かからなかった数人も、1人ずつかければちゃんとかかる。
「うわ、マジできもちいい。ヤバい薬使ったら、こんな感じなのかな」
マジか。
ちなみに自分にはかけられないので、私自身には分からなかった。
私は全員を3班に分ける。探索班と家事班と休養班に。
これならみんな3日に1度は休めるから。
「やっとマンガが読めるよ」
江崎さんが本棚から単行本を引き出している。
彼女のスキルで出しているのに、読む時間が少ないのは申し訳なかった。
探索班に地図作りは任せた。鈴木君がスキル『探索』を使えば、マップ画面が広がって見える範囲が広がるし、大型の獣の場所も表示される。
虫や小型の獣は敵にならないからなのか、表示されなかった。
地形が分かれば動ける範囲も広がる。
みんな生き生きしているから、洗脳でスッキリ♪は毎日発動しなくても大丈夫かもしれない。
レベルアップしてMPが増えたから、私は格安弁当を1日10個は出せるようになったし、仕立て屋の佐藤さんはスキルで出した服を工夫して、簡単な防具を作れるようになった。
彼女のジョブに『防具屋』が加わっている。
スキルだけじゃなくジョブもレベルアップで増やせるみたい。
「先生、俺のスキルに合宿所が出ました!」
剣道部員の日暮君が大喜びで教えてくれてから、運動部員は次々と合宿所のスキルを獲得した。
衣食住問題はほぼクリアじゃないか。
娯楽も読書だけだったが、遊び人の江崎さんがゲーム機にソフトを出せるようになったから休養班は合宿所などでゲーム三昧だ。
「洞窟から出られない以外はヌルゲーになったよね」
帰れないし助けは来ないけれど、みんな誰1人欠けることなくここにいる。
ご飯は食べられるしケガも病気も魔法や薬ですぐ治る。
異世界に送られたとしても上々であろう。
ある日、探索組が崩落現場を見つけた。
高さ3階くらいの崖から、モンスターが落ちて来たそうだ。
「気絶してたので楽に仕留められました」
冒険者の鈴木君が持ち帰った光る角や爪を見せてくれる。
私も確認しに向かった。今は生徒に余裕があるので、私が1時間くらい離れていても大丈夫だろう。
「登れそうにないねえ」
とても暁家の脚立で登れる高さじゃなかった。
土魔法の園村さんに階段を作ってもらおうとも思ったが、半分も行かない内にMPが消えたようだ。
「上層階に行ける方法はないのかな」
願いは数日後にかなった。
「上層に向かえそうな場所があったのですが‥」
いつもハキハキ坂本君が、言葉を濁している。
「そこに人間の骨が落ちてたんです。たくさん」
そこには人間が暮らしていた形跡があった。
ならしてある地面、水が湧き出る泉、さびた食器。そしてボロボロの布をまとった人骨が数体。
盛り土にささる虫食いだらけの杭は墓のようだ。
「多分、ここに落とされた人間はこれ以上先に進めなくて命を落としたんだろうね」
広い空間の先には穴が上向きに伸びている。角度はあるが、手をつけば登れそうだ。
(ここから先に進むかどうか)
もちろん目的は地上。だけど未踏破の部分が大きい今、危険なルートを選んで良いのだろうか?




