♰♰♰ 生きるべきか、死ぬべきか。♰♰♰
反対意見が多くでるだろうと黒川は予測していた。むしろ自分の意見に賛成される事を期待していない方だった。だが、丸之内がプリンキュアちゃんのフィギュアを手にとってプリンキュアの片手をあげさせた。
「ぼくもプリンキュアちゃんと共に戦う。」
丸之内が一緒に戦うと言ってくれたのは予想もしていない嬉しいサプライズだった。ようやく失った物が自分の元へと戻ってきた。
「有難うコウちゃん。それとプリンキュアちゃんも。」
堀田は馬鹿を見るような目で黒川達の事を嘲笑った。
「おいおい、戦うだなんてアニメの見すぎじゃないのか?現実を見ろ!現実を!」
「嫌になるくらい現実は見てきたさ。だから僕はもう現実とか先の事なんて考えるのはどうでもよくなった。現実に惑わされて逃げる人生に疲れた。」
今まで散々いじめてきた丸之内が初めて堀田に反論してきたから堀田は脚本が違う!と思わずたじろいだ。
「お前らに何が出来る?まだ隠れて酒を飲んだりタバコを吸ったり誰でも出来る程度しか自慢出来ないクソガキだ!黒川や丸之内なんて放っておいて俺らは大人しくジェンガをしようぜ!」
堀田は皆なら自分の言葉についてきてくれるだろうと思っていた。
「わかっているじゃん!とことん暴れてやる!」
黒川と丸之内の提案に賛成したのは意外にも何かと黒川や丸之内の言う事にうるさく噛み付いてばかりいたみきだった。
「なっ、何だってー!?????」
堀田は自分が聴いた言葉が信じられなかった。
「私もこのままやられっぱなしで引き下がるなんて絶対にしたくない。」
神宮西も黒川達に同意した。
「フンッ!そんなリスクを背負わなくても自衛隊か警察が助けに来るまで大人しくして待っていればいいじゃないか!」
「でも電波が圏外になっているよ。どうやって救助を呼べばいいの???」
真由がスマホの圏外表示を皆に見せた。
「でもよ、ここで待っていればいずれは救助がくる筈だろ?学校なら生存者がいるかもしれないと誰でも思い尽くし・・・・」
「自然災害なら二次災害はあってもいつかは止まってくれる。けど、ゾンビは自然災害のように自然に止まってくれないぞ。むしろ増え続けるものだ。」
上社の考えはもう理科室から出る方針のようだ。
「別に問題は理科室の外だけにあるとは限らないぞ。」
名城が鼻血を拭いた堀田のハンカチをゴミ箱に捨てた。
「はい???名城まで何言っている!?」
堀田は名城だけは間違いを起こさないだろうと思っていたら逆だった。
「俺は黒川が言うまでもなく最初からあの気に食わない連中をぶん殴る気だ。話を元に戻させてもらうがゾンビから隔離した理科室だってずっと留まっていれば新たな問題が出てくるだろ?食料はどうする?ここにいるエゴが強い連中といつまでもこんな場所で閉じ込められたままだといずれ何が起きる?」
丸之内はアニメで蓄えられた想像力で未来を予想し顔が徐々に青ざめていった。
「食料のの奪い合いだ・・・!」
「さらに最悪な事に・・・・」名城の顔が深刻そうな顔に変わった。「理科室にはトイレがない。約30名もいる出した物をずっとここにストイックしたまま救助が来るまで待つつもりなのか?」
「もういいっ!頼むからこれ以上汚い話を想像させるのはよしてくれ!」
堀田はなんだか自分だけ皆から取り残されているように感じて焦っていた。
堀田じゃなくても汚い話題を逸らしたい人は少なくなかった。その一人である家庭科部の部長が話を逸らそうと別の話題に無理に変えた。
「では話を逸そっ!ここから出るのはいいとして、何処へ行くかよね。ニュースで放送していたように何処に行ってもゾンビだらけだろうし。」
「おいおいっ!どうしてここから出る前提で話を勧めている???」
堀田が皆を正気に戻させようとした。
「確かここから車で10分以内にある場所に消防署があったハズ!そこまで行けば無線もあるだろうし何とかなると思う!」
麻子はまるで友達と繁華街でショッピングしに行く計画を立てるように意見を述べた。
「ふんっ!いいさっ!馬鹿共はゾンビの餌になってしまえっ!」
しかし堀田の言葉はまったく届いていないかのように次々と理科室から脱出する計画の話が立案者である黒川から話を進めなくても勝手に進んで行った。
「問題は移動手段よね。ゾンビがいる中で歩いて向かうのはリスクが高すぎるから車で行くのがベストだけど、車を持っている人ってこの中にいるの?」
夏樹が尋ねたが、誰も答える人はいなかった。3年生はとっくに18歳を迎えて免許を取った人はいるが、車までは高校生のアルバイトで稼いだ金では買えやしない。
「車ならある。」
名城だけが返事をした。
「そりゃああんたにはバイクがあるからいいわよね。」
皆が人目置いている名城でも臆する事がないみきの度胸だけは皆、感心していた。
「俺は新瑞橋が持っている車を借りて勝手に運転していたおかげでバイクの免許を取った。まだ、仮免だけどな。」
皆は名城が失礼な態度をとっているみきに対して怒らないのが不思議だった。名城もみきの無礼で生意気な態度に腹を立てていたのだが、ゾンビを相手にする以上にみきを相手にする方が面倒なだけだった。
「つまり、先生達が利用する駐車場に行って『先生達の車を借りれば』いいのか。だが、君は車を今まで勝手に借りてよくばれずにすんだな。」
上社がかぶっているヘルメットに付いている二つの触手までもが気になるのか名城の方に向いた。
「ここは田んぼしかない田舎だ。人の数よりカモの数の方が多いだろ?新瑞橋も買って来たばかりの新車を自慢していた割には俺が勝手に乗り回して何回か肥溜めに車を突っ込んだ事に一度も気づいていなかったのだから気付かれていない限り俺は無罪だね。」
初対面同士で初めて会った頃はぎこちなかったのに共通の目的が皆をひとつにしたのか皆、黒川の周りに自然と集まっていった。
「おい?皆どこへ行く?どうせ黒川なんかに何も出来やしないのに・・・オレ達が何をしてもどうせ無理だ・・・・。」
堀田は自分が出来ない事を皆も出来ないはずだと思っているが、もはや未来へと前に進んでいる生徒達に後ろにいる人の声なんて聴こえやしない。人が集まりだすと自然と議論が始まった。
「俺はここから一歩も動かないぞ!!だから、お前らがどうなってもオレは知らないからなー!泣き叫んでも助けに行かないからなー・・・・・・・・・・・・・」
堀田の声はむなしく学校を抜け出す作戦を立てる複数の声によってかき消されて行く。
「だから・・・だから・・・・・・・・頼むから俺を一人にしないでくれよぉぉぉ!!!!」
堀田も遅れながら慌てて皆が集まっている所へと向かった。




