♰♰♰ ここにてゾンビ専門家登場 ♰♰♰
黒川は机にある蛇口をひねって水道水を口に含んだ。他の皆みたいに堀田に怒りたい気持ちよりも今は心から休まりたい気分だった。だが、ゾンビが休まない限り生徒達に休む暇なんてない。先程の騒動ですっかり耳に入ってこなかったテレビの音が耳に入った。
『ここで、ゾンビ専門家の方に意見を伺いたいと思います。武動芳雄さん。』
再びテレビの映像に注目した。カメラが女子アナウンサーから横に反れて画面に少し小太りで白の長袖のシャツの上にまるでこれから釣りにでも出かけに行くかのようなポケットが何個も突いている緑色のチョッキ姿で丸っこいメガネをつけ、何日もそってない汚いヒゲと何日も切ってない長い髪を後ろに一束に束ねただけの町で見かけたらオタク系の映画監督と見間違いそうな容姿の男がアナウンサー達の隣に座っていた。
「ゾンビ専門家って何それ?偉い人なの?」
みきの質問に丸之内が答えた。
「いいや。オタクなら誰にでも慣れる職業だ。」
『武動さん。ゾンビの特徴について説明して貰ってもよろしいですか?』
『えーあ、ハイ。ゾンビの特徴はですねー4つあります。』
自称ゾンビ専門家はTVにたまに出てくるいかにも大勢の前で喋る事に慣れていない専門家のように口をモゴモゴとしていてはっきりと聴こえない喋り方をしていた。
『まず、一つ。ゾンビは走らずにノロノロと歩く事、二つ目。死んだような見た目をしている事、三つ目。ゾンビに噛まれたら噛まれた人はゾンビになる事。そして最後の四つ目ですがゾンビは人間だった頃の習性がまだ残っている事です。』
「なんだ。ただのロメロ映画オタクなだけじゃん。」
黒川は真面目になって聴いていたのにロメロ監督を知らなくとも吸血鬼には十字架を見せればいいというくらい誰もが知っている知識を披露しただけであった。黒川の隣にいた丸之内も自分の方がゾンビに詳しいと言わんばかりにに口が開いた。
「最近は走るゾンビ映画だってあるのにね。」
『では武動さん。ゾンビの対策についてどうすればよろしいのでしょうか?』
『んまーそーすね。ゾンビに遭遇すれば必ず頭を狙って攻撃してください。これはとても有効な手段で頭を狙えばゾンビは一発で機能停止になりますから。』
『私達になにか注意する事でもありますでしょうか?』
『そうですねーゾンビは人間だった頃の習性がまだ残っていますから、人が集まる所に必ずゾンビが集まってきます。なのでこれを見ている視聴者の方は気をつけてください。人が集まる場所にはけして行ってはいけない。特にショッピングモールには!』
『ゾンビ専門家の武動芳雄さん。視聴者の貴重な時間を奪って頂きまことに有難うございました~。では次に視聴者の貴重な時間を奪って頂くニュースは・・・・・ってきゃあ~~!!』
女子アナは隣にいたゾンビ化した男性アナウンサーに襲われて今度は自分の貴重な時間を奪われた。これ以上テレビを見ても自分達が知りたい情報が得られないと判断した丸之内がリモコンでテレビの電源を切った。子供の質問にいつも答えてくれた大人や教師はここにいない。ならば自分だけで独り立ちをして答えを導き出すしかないと彼らは完全に大人となる自立を始めた。
「で、これからどーするの?」
みきが言った質問の答えを騒動が始まった時からずっと求めていた。なのに妙に黙り込んだままだ。今までは責任がない立場だったから自分で考えずに大人に任せっきりにしていたが、自分達で決めなきゃいけない立場になった。大人と子供の境目に立っている生徒達に責任という言葉が初めて重く圧し掛かっていた。
「なに深刻そうにしている?騒動が収まるまで待てばいいだけの話じゃないか!」
堀田は乾いた笑い声をあげて周りが笑ってくれるのを期待したが笑っているのは自分ひとりだけだと気づいた。皆は自分達が抱えている問題とは無関係な事を言っている堀田に返事をする気にはなれなかった。仕方がなく上社が堀田に返事をしてあげた。
「そういう問題ではない。」
「じゃあどういう問題だよ?」
「つまり俺らが言いたいのは・・・・」黒川がしばらく間を置いて言った。「このまんまやられっぱなしで終われるか。」
「何言っている?お前ら馬鹿か?狂人か?みーんなあのゾンビ達にやられたのを見てきただろ!あの化け物相手に俺達が反撃なんて出来るワケねぇ!」
「狂人だって?俺はもうとっくに狂っているのさっ!俺はこの手でゾンビに変わった友人を殺った。もう帰り道もわからない。何も堀田や皆に同意してもらいたいワケじゃない。押し付ける気もない。ただの自分勝手な自己満足だ。」




