↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/143

♰♰♰ 悪魔が立ち去った後の理科室② ♰♰♰ 

黒川は緊張が溶けたと安心した瞬間にいきなり体がまるで空気が抜けた浮き輪のようにしぼんでいき、近くに置いてある椅子に倒れるように腰をおろすと机の上に両肘をついて頭を両手で支えた。


安定の地へとたどり着いて安堵したのと同時に今までゾンビから逃げなければならない危機感からずっと抑えていた貯まりに貯まった疲労が外に出てもいいと判断したのか体から心に渡って全身に疲労が押し寄せて来た。黒川は新しいクラスメイトとなった面々を見渡してみた。


騒動が起こったのが放課後もあって殆どがユニフォームを着ている部活動をしていた下級生が多い。3年はもうとっくに引退した身である為に学校に残っている者のはごくわずかしかいない。黒川が通う高校ではるとりあえず運動部に入部する生徒の殆どがラグビー部と野球部に入る。だが、この場に野球部のユニフォームを着ているのはわずか2人しかいない。ラグビー部に限ってはゼロだ。ラグビー部も野球部も数が多いのがかえってゾンビを増やす事となった。味方につけば頼もしいラグビー部や野球部の殆どが敵に回り、こっちは約20人か30人ほどしかいない。


さらにこっちは見渡す限り怪我人ばかりだ。重症がいないのが奇跡に近い。無傷で理科室まで来られた者もいるが、目を天上に向け、体を左右に揺らし両手を叩きながら妙な言葉をぶつぶつと唱えている。皆疲れ切っている。理科室に逃れてきたのはいいが、こんな状態でいつまでもつのだろうか?


だが、例外も存在している。家庭科部だ。制服の上にエプロンと頭に三角巾を被っているからすぐに家庭科部の子達とわかった。彼女達もエプロンに血を浴びているが、自分の物というよりも誰かの血を浴びたように見える。ここにいる全員が生きた心地がしないままなのに家庭科部の連中だけは全員無事で家庭科室の冷蔵庫に残した野菜が痛むのじゃないかとかそんな事の方を心配してやがる。


あいつらどうやって生き延びられたのだ?いざという時に飯を作れる奴がやっぱり最強なのか?と、呆然とそんな事を考えていたらいきなり黒川の前に3人の下級生らしき女の子達が現れた。夏樹と真由と麻子の3人だ。



「あのぅ・・・あなたが全校放送をしていた黒川さんですよね?」


どこか緊張と不安気な声が混じっている夏樹が黒川に尋ねてきた。黒川は疲労でまともな返事が出来る状態じゃなかった。


「一応そうだけど・・・」


そう言うと3人はまるでずっと探してきた物を見つけた時のような晴れた顔になった。


「私達を助けてくれた男の人達があなたの事を言っていたの・・・・。」


真由の言葉を耳にした途端、黒川のぼんやりとした意識が張り詰めた。


「俺の事を言っていたって?誰だ???」


3人はお互いに顔を見合わせると何て説明すればいいのやら困ってお互いにアイコンタクトをしている様子だった。すぐに名前が出て来ないという事はこの子達の知らない名前の奴の事なのか?と黒川が思っていた通りの事を麻子が口を開いた。


「それが名前も知らない男の人達だったの。スポーツをやってそうながっつりとした体格のいい二人組で・・・」

「確かラグビーボールを持っていた!」


夏樹が伝えやすい特徴を思い出すと真由も記憶がはっきり思い起こしてきた。


「そうそう!ラグビーボールでゾンビから私達を助けてくれたの!」


ラグビーボールと自分という繋がりでそれがいったい誰なのかはっきりとわかった。


「東山と本山だ!」

「その人達のおかげで私達がここまでこられたの・・・・。」


麻子の口からその先は言わずになぜか黙ってしまった。黒川は期待と不安と両方を抱えてその先について問い詰めた。


「で?東山と本山はどこにいる?」


三人は言葉に出しづらそうにしていたが、本山と東山の知り合いである黒川に二人の事を教えなきゃいけない使命感を感じた麻子は重い口をようやく開いた。


「それが、私達をゾンビから逃してくれた後からは分からないの・・・。」


それが麻子のせいいっぱいの返しだった。しばし黒川は口を開けたままその後の言葉が続かなかった。不思議と本山と東山なら生き残っているハズだとどこか楽観視していた。だが、高畑は死んだ。岩塚さんは行方が知れない。


こういう時に本山と東山なら黒川の事をどうバカにするのだろうか?でもその二人も今はここにいない。黒川にとってはゾンビだらけの世界になった事よりも友達がいない世界の方が信じられなかった。


「そうか・・・・」


黒川の気が落ち込んでいるのを感じとった夏樹が口を開いた。


「あなたの事を言っていた。」

「・・・・・俺?」

「『黒川はいつも俺達の期待を裏切らないからさ。』って・・・」


黒川はしばらく呆然と顔が固まったままでいたから真由達は心配したが、なぜか黒川は笑いだした。


「どうして絶望の縁に立っている人がこっちの心配をしてくれるのだろうな。」


夏樹と麻子と真由はトイレに逃げ延びた時の事を思い起こしていた。黒川は3人に顔を向けて言った。


「教えてくれて有難う。あいつらも可愛い子を救えて本望だっただろうよ。」


その言葉を聴いた3人はどこか胸につっかえていた物が取れてすっきりした表情となって黒川の元を去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。