♰♰♰ 理科室は地獄だった③ ♰♰♰
神宮寺はザコ二等兵を軽蔑するかのような眼差しで見ていたが、ザコ二等兵の前歯が何本かかけているせいでザコ二等兵の頬が死人のようにげっそりと痩けている事に気がついた。だが、金山先生の言う通りにしたら余計もっと痛い目にあう。
「いずれ金山先生の感情を抑える事よりみきの感情を抑えなかった事の方が後悔するからね!」
「もう十分わかっている。」
神宮西が言うと金山先生がなぜかニコニコ笑顔でザコ二等兵に近寄り、ザコ二等兵の肩に片手をおいた。
「ほほぅ、ザコ二等兵はよーくわかっているようだなー喜べぇ~偉いぞ。お前こそが我が校の模範となる生徒だぁ~」
ザコ二等兵の頭を先程の骸骨の頭をむしり取るように激しく頭を撫で回した。
「は、はい!嬉しいですぅ~!」
「さっそく出来損ないのクズ共らに良いお手本を皆に見せてやれ!」
「はいっ!わかりました!」
金山先生はザコ二等兵の頬を殴った。
ザコ二等兵はまた歯が一本取れて床に倒れた。金山先生は倒れたザコ二等兵の髪を掴むと皆の前でザコ二等を見せびらかすように痛がるザコ二等兵の顔を無理矢理、上に立ち上がらせた。
「ほら、先生に殴られて嬉しいだろ?なぁ?笑え。」
もう一発ザコ二等兵を殴った。
「あひゃひゃ!ぐひっ!殴られてぇ~とてもうれひぃですぅー!あひゃ、あひゃ・・・」
ザコ二等兵は無理に口を開けて喋るものだから口の中から血反吐が混じったものが流れ出た。口を大きく開けてかけた歯を見せびらかしているからまるで見世物小屋のピエロのように笑っているのか泣いているのかよくわからない顔をしていた。
「報告ご苦労。ご褒美は欲しいか?」
ザコ二等兵は何度も顔を頷いた。
「じゃあ、お前が望んでいる物をやるよ。」
そう言うと金山先生は微笑みを浮かべてザコ二等兵の腹を蹴った。
「ゲフッ!」
ザコ二等兵は腹を抑えた。
「ハハハ!蹴られるのが大好きだってさっき自分で言っていたよな!」
金山先生の反吐が出る笑い声はさらにエスカレートしていった。
「よくこんな状況で楽しめるなんて羨ましい頭!」
神宮西はゾンビを相手にしている時以上にキレていた。金山先生は神宮西の方を向いた。
「笑えるね。この面白さが理解出来ないお前らにもわけてあげたいくらいだ。」
「わけてもらえなくて結構。」
みきの言葉を無視して金山先生は自分の話を続けた。
「とくに一番笑えたのが、」
金山先生がいきなり思い出し笑いをした。
「あははっ!廊下の窓から化け物達から逃げ回るうちの学校の生徒を見た時だね!」
「悪趣味だ。」
上社まで冷静で居続けようとしているにもそろそろ限界がきていた。金山先生は丸椅子にバットの先端を当て、縦にしたバットのグリップに両手を載せてその上に顎を載せてゆらゆらと振子のように体を揺らして天井を見ながら嫌らしいニヤけた笑顔で舌を舐め回しながら言った。
「いやぁ~実にあれは愉快な光景だった!今、思い出しても笑えるさ。逃げ回っても無駄だと悟って絶望した時の表情、誰も助けに来やしないのに何度も命乞いをしている奴、人間の首が思っていたよりも簡単にぐにゃりと曲がって、血がまるで噴水のように飛び散り、今まで教室で席を並べた奴らはつまらない奴らだと思っていたが、次々へと化物へと変わっていく様子を見て初めてあいつらの事を面白いと感じたね!いやぁ、腹がよじれるほど笑わせてもらった!今まで生きてきた中でこれほど笑えた事はなかった!」
金山先生は自分の言葉を聞いている生徒達が引けば引く程に自分を強く感じエスカレートしていき、先程、威勢よく自分に歯向かっていた神宮西に顔を向けて言った。
「けど、俺がもっとも残念に思っている事はなんだと思う?」
神宮西は後ずさりをしてしまったが不愉快に思っていてもプライドが金山先生を睨むのだけはけしてやめなかった。
「生徒を追い詰める側に参加できなかったことさ!」
一人勝ちをしたような悪魔の高笑いが理科室中に鳴り響いた。生徒達は哀れな役者。この世はまるで金山先生の為に作られた舞台のように舞台を想像する人によって役者は何を演じるのか決まってしまう。
「笑えねぇよ。」
金山先生の高笑いが止まった。
声がした後ろをゆっくりと振り向くと金山先生の顔がまるで幽霊でも見たかのように青ざめていった。神宮西が真っ先に声をあげた。
「黒川っ!」
頭から血を流し、その血が目に染みたせいで片目を開けられずにいるが、片方の目はしっかりと金山先生を捉えて逃がすまいとする黒川の姿があった。
「先生の退屈な話はいつ終わる?待ちくたびれてあくびが何度も出た。先生のいつもの授業みたいに拷問だったな。」
金山先生は無言でしかめ面をしながら片手に持った血のついたバッドを持って黒川のそばまで近づき冷たい沈んだ声で黒川に言った。
「別に笑わなくたっていい。」
黒川の頬と首元に冷たい物が触れた。黒川の鼻からかすかに鉄と血生臭い匂いがした。
「笑えなくしてやる。」




