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♰♰♰  理科室は地獄だった②  ♰♰♰

金山先生は黒川の手首を踏みつけた。かろうじて腕時計を身に着けているが黒川の口から悲鳴をあげた。真っ先に理科室へと逃げこんだのはサイコ野郎だからと言って先に入った人が理科室の主人となり、後から入って来た人達は客人扱いになるという法律はない。だが、今やもう今までの社会の法律とかは全くの無意味なのだ。力こそがこの世界を支配する。


「言うことをきかない糞ガキに先生の言う事を従わせる!」


二発だけでは足りず何度も黒川の腹に蹴った。神宮西や上社は黒川を助けに行かなきゃいけないとわかっているハズなのにショックでその場から動けなかった。ゾンビの存在を信じるよりも人間が人間を攻撃する方がは受け入れるのに時間がかかるのかもしれない。


「それがっ!」


教室の隅ですすり泣きをあげる生徒達の声が聴こえて来た。


「教育ダッ!」


トドメの一発で黒川の頭を強く踏みつけた。黒川の口から悲鳴がやんだ。

声の代わりに黒川の口からにはどろっと赤くて生暖かい物が流れていた。黒川はびくとも動かなくなってしまった。


テレビのスイッチを付け、たまた放送していたニュース番組で今日起きた悲惨な事件をそんな事は自分には関係ない。自分には到底起きないだろうという楽観的な現実逃避で今まで被害者の声をすっかり忘れて生きていた。時には忘れないと人間はすべてを抱えて生きてはこられない。だが今は悲惨なニュースをたまには思い出さない報いを受けていた。


理科室の隅で何もしないで固まっている生存者達も堀田やザコ二等兵も金山先生に逆らう事で自分に被害が及ぶ事を恐れていた。自分が黒川や丸之内にならなくってよかったと思っている者もいる。金山先生の行為を止めなければと心では思いつつも面倒くさい事に巻き込まれたくないから他人任せな者もいた。


この世界を狂気と暴力と絶望に陥らせたのはいったい誰なのだろうか?ゾンビなのか?サイコ野郎の金山先生なのか?沈黙こそがサイコだ。自分達の方こそ意志のないゾンビだ。


神宮西と上社は握った拳だけはまだ緩まないでいた。どうする?返答しだいで黒川がまた攻撃されてしまうかもしれない。肉体的な疲れからは開放されても今度は精神的な疲れが重力をかけてくる。単純に逃げるだけですむゾンビを相手にしていた方がまだ楽だったのかもしれない。だが、ゾンビが大勢いる中で空気を読まない非ゾンビも中にはいた。


「それのどこが教育っていうの???」


神宮西の背後からパシャッとカメラのシャッターの音と共に白い強烈な光が金山先生の目に焼け付くように当てられ金山先生は腕をかざして強烈な光を遮ろうとした。


「ただの暴力じゃん。」


みきが今写した写真をSNSで全国にアップしていた。

神宮西は団体行動に対して協調性のないみきをずっと邪魔者扱いをしていた。だが、たった一人になろうとしても力を持っている人や集団の海にけして流されないみきの頑固な意志はこの乱れた世には頼もしくも映る。


金山先生は無言のままバットを持っていない手でちょうど隣に置いてある骸骨の模型の後頭部の部分を掴むと、まるで木の実のりんごをむしり取るように骸骨の頭を取った。生々しい光景を見た周囲がひやっとした。


堀田やザコ二等兵は頼むから金山先生を挑発する余計な言葉を言うなとみきに対して無言の挑発を送ってきたが、この世界で自分しか見えていないみきにとっては堀田とザコ二等兵なんてまるでいないのも当然だ。神宮西もみきに後足されてようやくいつものスイッチが入った。


「初めてあんたと意見が一致したわ。私達が若い者だからなんて関係ない。黒川に攻撃するのをやめて。」


金山先生は自分の思い通りにならない事に気分を害した顔を浮かべた。


「お前たちも俺に逆らうのかっ?」


金山先生は手に持っていた骸骨を放り投げた。骸骨は丸之内の腹に当たってリバウンドして奇跡的に丸之内の口と骸骨の口が重なった所で止まった。もし、ゾンビ騒動が起こらずにこれが授業中での出来事ならば自分に非がなくても素直に先生に従う方が簡単だからと従っただろう。だが今の状況ではみきと神宮西はけして引き下がる事はできないし、しない。するとザコ二等兵の一人が神宮西につめよってきた。


「お前よぉ~まだガキの俺らに何が出来る?ここはまず大人の言う事を効くべきだろっ?なっ?頼むから大人しく金山先生の言うことを効いてくれよぉ~じゃないとお前らのせいで俺らに迷惑がかかる。」


ザコ二等兵が口に出した『俺ら』という言葉が気になり、理科室の周りを見渡した。堀田にその後ろで固まっている生存者達。恐怖で何も出来なくなるのも理解できる。だが一部は余計な事をしてくれるなという刺すような視線をひしひしと感じた。古くから権力者達は無知な民衆を従わせる為に暴力と恐怖を利用し続けていたが、神宮西は無知な民衆ではない。経験上、従ってはいけない人間がいる事を理解している。


「嫌。」



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