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♰♰♰  理科室は地獄だった  ♰♰♰

 耳元でどこか懐かしい遠くへ行ってしまった人たちの声がした。


「起きろ、黒川。早く自分の教室へと戻れ。」








次の瞬間には真っ赤な海が目に入った。


「まるで血の海ようだ・・・・」


頭が熱い。顔が火傷のように痛む。激しい心臓の鼓動が鳴り響いている。胃から熱いもが激しく逆流してきて黒川は口の中から液体を吐き出した。手で顔についた汚れを取って見ると自分の手に赤いドロドロしたようなものがついている。


「何だコレ?」


疑問を解きたいと思ったら頭がようやくエンジンを回転し初めた。鼻血だ。よーく見渡してみると先程口の中から吐き出した液体も血と吐物が混じっていた。


「いったい自分はどうしちまったのだ?」


黒川はゆっくりと自分の身に何が起こったのか思い出そうとしていた。そうだ、自分は廊下でゾンビに追われて希望の光があふれている理科室に入った。そしてようやく長かったゴールテープを切ったと束の間の幸せを喜んでいた。だが、ゴールした後で見た光景は床でうずくまっている親友の丸之内の姿だった。


「コウちゃん・・・?」


そうだ、あの後でいきなり何か金属のような硬い物で強く頭をを打たれて倒れたのだ。やっと今の状況が見えてきた。だが地獄も見えてきた。


「黒川ぁ~駄目じゃないか廊下を走っちゃあ~。」


その言葉をいい終えられた後に腹を一発蹴られた。


「ゲフッ!!!!ゲフッ!ゲフッ!」


黒川は再び胃の中の物を外へ吐き出した。ずっと横になりたいくらい苦しいが不意打ちに自分を攻撃してきた卑怯な奴がいったい誰なのか正体を確かめてやろうと顔を少しだけ持ち上げた。驚いた。そこにまるで自分の事を犬でも見ているかのように見下ろしているのは人間をただの餌として見ているゾンビではなく、血の通った人間であり、大人であり、自分が通う学校の教師なのだ。


「金山先生・・・ゲフッ!ゲフっ!うぅ、まだゾンビの方がマシだった・・・」


 突然の金属音がして何事かと後ろを振り向いた神宮西と上社が見た光景は鼻血を出して床に倒れている真っ先に理科室へと入った丸之内に血反吐を出して床に倒れている黒川にすっかり黙り込んでしまった中村みき。理科室に入った時からみきが妙に大人しかったのが不自然だった疑問がこれでようやく解けた。


そして複数の血がついたバットを肩に抱えていながらニヤついている金山先生。

血がついたバットで今まで何をやって来たのか考えたくもない。金山先生の背後には片目にお椀ほどの大きい青あざをつけて怯えている堀田に口の中の歯がかけて震えているザコ二等兵の姿があった。


部屋の真ん中の机の上には一人で利用するには多すぎるほどの包丁やらミキサーやら大根やらの武器が積もってあった。そしてその背後にある理科室の教室の後ろの隅に集団で固まって怯えている自分達と同じく学校の生徒である15~20名ほどの生存者達がいた。その殆どが部活のユニフォームや三角巾にエプロンを身に着けているのが殆どだ。


「先生!何やってるのっ!?」


神宮西の言葉には力強い批判が篭っていた。この非常事態にお互いに協力しあわなければならないという教えは親と教師である大人から今まで教わってきた事だ。


金山先生は学校の教師だ。どうして金山先生はおかしくなったのか?元からおかしかったのか?それともこの類もない危機的状況が金山先生をおかしくしてしまったのだろうか?上社も普段はゾンビやオカルトの世界に触れて、世界がゾンビだらけになってもすぐに適応したのに今はオカルトよりもおぞましいものを見ているかのようだ。


「何をやっているかだって?これこそが・・・」


金山先生はまるでゴミ袋を蹴るかのように再び黒川の脇腹を蹴った。


「教育ってもんだよ。」


黒川は口の中が血でいっぱいで喉を詰まらせそうになって激しくむせた。


「それのどこが教育なのっ!!!」


神宮西はゾンビよりも金山先生に怒っていた。信じていた教師に裏切られたのと、悲しさが同時にあふれ出たのだ。安全であるはずの理科室に入って事態は好転したかと思いきや化物のお次はサイコ野郎がお相手だ。歓迎してない先客の登場により、理科室の中は不穏な空気に包まれていた。


「私達が理科室の外で苦労していた所を理科室の中で聴いていたでしょ?じゃなかったら犬のようにキャンキャン騒いでいたこの・・・・・」


神宮西はみきを指していた。


「犬に例えないでよ!!それに私はみきっていう名よ!」

「さきっていう子の声に気付かないなんてどう考えたっておかしい!!」

「わざとでしょ!!!」


みきはさっそくうるさい犬のように反論した。金山先生は片手で頭をかいて必死に思い出そうとしているかのような演技臭い動作をした。


「いやぁ~知らなかったな。なにやら外で楽しそうにしているなとは思っていたけど。お前らのいつもの先生の言うことを聞かずに廊下で騒いでいるだけだと思っていたぞ。」

「言い訳にしても最悪。」


神宮西が今にも怒りを破裂しそうになり上社が神宮西の背後に近寄って神宮西の背中を軽く2度も叩くと小声でささやいた。


「落ち着け。騒ぎを起せば外にいるあいつらを寄せ付けてしまう。」


神宮西が振り向いて「わかった。」としぶい顔で無言の返答メッセージを送った。ゾンビから身を守れる安全な場所にいたい。だが、サイコ野郎とは共にいたくない。サイコ野郎に比べて人数が多い黒川達の方が優位だが、黒川達には武器がない。消化器は廊下に置きっぱなしだ。だが、サイコ野郎は武器を持っている。


「そう、私たちは廊下で楽しんでいた。そういう事にしてやる。けど、先生の言う事を聞かずに廊下で騒いでいる生徒を叱りに来るのが教育ってもんじゃないの?」


神宮西は怒りをストレートにぶつけたい気持ちを押さえて冷静を保とうとした。黒川達はゾンビを攻撃出来ても同じ人間を攻撃するにはまだ心の準備が出来ていない。だが、金山先生には出来るのだ。


「まいったな~最近の若者は教育を勘違いしとる。」


金山先生は片手を額に当てて悩んでいるようにポーズを取り体が動いた。金山先生が動くたびにこの部屋の空気も変わる。いかにもこの部屋を支配しているのはいったい誰なのかがよくわかる。やがて金山先生の動きが止まると神宮西の方に向き直して言った。


「じゃあ、教えてあげるぞ真の教育ってものを。」



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