♰♰♰ 選ばれしエリート② ♰♰♰
恭一は息が荒れながら机の中の物をすべて床へと落とすと教科書や参考書にノートを両手でかき集めていた。
「出てやる。出てやる。こんな底辺学校で妙な化物だらけな高校なんてブツブツ・・・・」
やがて両手ですべての教科書やノートを抱えて立ち上がった。
「さあ、これからこの底辺高校を出てやるぞ!」
後ろを振り返って足を進めようとしたその時、恭一は何かとぶつかった。
突然の出来事でバランスを崩して床に尻もちをつき、その衝撃でメガネと両手に抱えた物がすべて床に散らばってしまった。
恭一は突然ぶつかってきた何者かを気にする事もなくメガネを拾うのさえも忘れて床にへばりついて尻を高く突き上げ、顔を地面すれすれまで床にへばりつくと床に散らばった教科書やノートに参考書を両手でまた一生懸命にかき集めて念仏を唱えるかのように何度も同じ言葉を繰り返していた。
「・・・・勉強しなきゃ、勉強しなきゃ、勉強しなきゃ、勉強しなきゃ、勉きょ・・・」
突如ガチャンと何かガラスのような物が割れた音がした。その音は勉強の事でいっぱいの恭一の頭を一発で現実に目覚めさせてくれた。恭一は床に目がつきそうなほど近づけていた目を恐る恐る上げた。メガネの無い状態で日が沈みかけているわずかな光だけを頼りに黒くて太い棒のようなものがぼやけて見えた。
「こ、これはいったいなんだ・・・?」
その質問に答えてあげるかのように黒くて太い棒のような物がグチャリと細かいガラスのような破片を踏み潰しているような音がして恭一は電撃に撃たれたかのようにビクッと体が動いた。目の前にある物をよく観察してみた。するとはっきりとはしないがその輪郭は毎日見ている物である事に気がついた。
「足?」
そして眼の前にある足の下で踏みつけられている物の形にも見に覚えがある物だった。
「あれは・・・!ボクのメガネじゃないか!」
足から上へと目を追うと両目が外に飛び出している男子生徒ゾンビが飛び出ている両目で自分を見下ろしていた。
「うわあああああ!!!!!!!!!!!」
しかも一匹だけではなく、黒板の前や教室の入口付近にも十匹程のゾンビが教室にいた。
恭一は参考書の問題を解くよりも早く本能がすぐにここから逃げろと答えを導き出している事に気付いてはいるが、恭一はまだ眼の前よりも遠くにある保証もない未来に対する未練を断ち切れない。
逃げる事よりも床に散らばった教科書やノートをかき集めていた。急いで掻き集めた為に整頓する暇もなくごちゃごちゃと無秩序なままに両手に抱え込み、持ちきれないノートは口に加えて立ち上がろうとしだが、両目が飛び出たゾンビの影が恭一の体を覆いかぶさった。恭一は慌ててゾンビから逃れようと床に尻をつけたまま足を使って後ろへと後付さって行った。
だが、逃げ道にも限度がある。恭一の背中がいきなり背後の壁にぶち当たった。もうこれ以上の後ろはない。あるのは前にある絶望だけ。両目が飛び出ているゾンビが徐々に自分に近づいてくる。だが、逃げ道は後ろだけではない。横がある。教科書やノートを両手で抱えたまま恭一は立ち上がり右側を向いて出口のドアに向かった。
が、恭一が逃げようとした扉の前にまたしてもう一匹の女子生徒ゾンビが現れた。いや、まだいる。恭一はひしひしと多くの冷たい視線を感じて辺りを見渡してみた。気がつけば複数のゾンビ達が恭一を囲むように集まってきている。ゾンビ達はまるで腹をすかせた犬が目の前のごちそうを見て興奮して荒い息遣いに血が混じった長いよだれを垂らしている。叫び声をあげて誰かに助けを呼べばいいのだが、口に挟んだノートを離すわけにはいかない。かろうじて僅かな口の隙間から「フンガッ!フンガッ!」と静かな恐怖の叫び声と激しい鼻息が漏れているだけ。
ふと横を見ると眼の前にゾンビが口を大きく開けて中にあるするどい牙を恭一に向けて迫ってきた。恭一は耐えきれなくって顎がはずれるほど口を大きく開けノートが虚しく床に落ちた。そして恭一は今まで貯めていた恐怖を叫び声にあげた。
「助けてくれっっっっーーーー!!!!!!!!!!」
今まで同級生達に僕の将来は東大に入り官僚や外交官、医者に弁護士になると今の実力よりも遠い未来についての偉業ばかりを語っていた。現在や過去は自分の実力を誤魔化せないが未来についてだけは自分の実力を誤魔化せる空想がいくらでもできる。他人に自分の実力を膨張して語る恭一は本当の所、自分に自信がなかった。




