♰♰♰ 伝説のユーチューバーになった男② ♰♰♰
「いってぇええええええ!!!!!!いてぇええええよぉおおおおおお!!!」
荒畑の悲鳴は先程の笑い声よりも数倍大きかった。
「くそっ!コスプレをしているだけだとか、上社のいつもの妄想電波に違いないとか、いくら悲惨な現実を否定する事を思いつこうが、この痛みだけは逃れられねぇぇ!!」
荒畑がふと、周囲を見渡して見ると365度何処を見渡しても自分の周りにはゾンビッ!ゾンビッ!ゾンビだらけっ!
「ゾンビだらけのバーゲンセールじゃえぇか!!」
気づいた時にはすでに遅く、ゾンビ達は緊張がとれた途端いっきに貯めていた物を爆発させたようにいっせいに荒畑に飛びついた。制服ごと噛みつき、食べられる所ならば何処にでも噛みついた。肉を切り開き、中にある内蔵を犬のように口で捕食した。
「ぎゃああああーー俺はもう駄目だぁああーーーー!!!!!!!!!!!」
階段の一番高い段の壁の奥にある映写室にある映写機から出ている光の線とスクリーンの間にちょうど荒畑とゾンビ連中がはさんでいる為に映像を映す丸之内の背後にあるスクリーンに巨大な影が出来上がった。無数の蠢く影が一つに集まり、交じり合ってまるで一つの影のモンスターが出来あがっていた。
モンスターから無数の手が伸び出て今まさに荒畑の影を襲っている。それはまるで食虫植物がフェロモンを出して虫をおびき寄せ食虫植物の口の中へと飛び込んだ蟲を尖った歯で捕食しているかのように見えた。けして狙ったわけでもないのにヒッチコック映画のような恐怖と芸術の2つが揃った偶然が起こった。実物よりもスクリーンに映された影の方がおぞましい怪物の本質の姿を現しているように見えた。
「助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「荒畑ッ!!」
黒川は荒畑を助けに行こうとしたが、荒畑はもうゾンビ共の地獄の底なし沼へと引きづり込まれて飲み込まれてしまった。
「たすけ・・・・・」
荒畑の叫び声が完全に止むと荒畑はゾンビ共に次々と覆いかぶさられた。つい一分ほど前までは仲良くスリラーを踊って親友とまで呼んでいた仲が今や親友は単なる肉だけとなり、親友の肉を食べている。
丸之内の眼鏡は映写機から放たれる光に反射してチカチカと瞬きをしているみたいに光り、丸之内は口をぽかーんと開けたままスマホの画面に写る荒畑がゾンビ達に食べられている光景を見ていた。黒川は丸之内がショックを受けているのを見てこれでゾンビを受け入れてくれるだろうと思った。
「受け止めたくない気持ちはわかる。俺も最初は理解できなかった。だが、残念ながらこれが現実だ!今は現実を受け止めてゾンビから逃げるしかないんだよコウちゃん!」
「・・・これってきっと新手のアプリなんだよねっ!最近の技術はすげぇよ!」
丸之内は黒川の非難を呼びかける声よりもにスマホの画面の方を信じた。自分の声が丸之内に届いていないのは丸之内との距離が思っていた以上にかけ離れていた事を黒川は実感した。突如、上社の驚いた声がした。
「荒畑っ!生きていたのか!!」
「なんだって!?」
荒畑がゾンビ達に捕食される光景をこの目で見た黒川は上社の言葉が信じられず再びゾンビの大衆に目を向けた。するともはや肉の固まりとなった荒畑の所へと群がるゾンビ達の足元からスマホを持った片手が蛇のように伸びてきた。まるで土から芽が出てきたかのように頭がひょっこりと現れた。荒畑の頭だ。
「信じられないッ!!!」
みきは開いた口がふさがらないほど驚いた。
「奇跡だ!奇跡が起こった!!」
黒川は荒畑が生きていた喜びで胸が破裂しそうになった。
「やっぱり僕が言っていたとおりこれはスマホの新しいアプリだ!」
ゾンビの足元から荒畑の頭が出てくると次はスマホを手に持った片腕が出て、ひじを杖のように器用に使い這いつくばりながらゾンビの群れから離れようと荒畑は階段を一段降りた。
「きゃあ!!!!!」
神宮西は驚いて思わず消火器を手放した。ゾンビの足元から脱出した荒畑に片腕と頭はあっても下半身から下がないのだ。あるのは千切られた上半身から垂れ出ている腸としっぽのようにはみ出ている背骨のみ。
荒畑の下半身は今、ゾンビの大軍の餌となっていた。それなのに荒畑がまだ生きているのが不思議だ。荒畑はスマホを片手で高く持ちあげてスマホの画面に全世界に注目されている輝かしい今の自分の姿が写るようにした。
「はははっ!これで俺はついにユーチューバーになれたっーーーー!」
ついに悲観のユーチューバーになる夢が実現したが世界中から反響があったのを見る事もなく、荒畑の上半身を見つけた3匹のゾンビによって荒畑は上半身も捕食された。
「すごい。ユーチューバーって命がけなのね。」
みきがカバンの中に入ってあったあんぱんを取り出してまったく他人事のようにあんぱんを口にふくみながら言った。
おぞましい光景に見とれていたが黒川の本能に危険を知らせる電流を流してきた。荒畑が食べ終えたら次は俺らだ。黒川は雷にうたれたように丸之内に向けて叫んだ。
「コウちゃん!スマホから目を逸らして前を見ろ。荒川の現在の姿を!」
丸之内はスマホから目を逸らしてその目で確かめてみた。それはまるで動物のドキュメンタリー番組で見るサバンナに生息する野生動物が餌を捕らえている弱肉強食の世界そのものだった。
シマウマの子供を目掛けて猪突猛進するライオン。その凶暴な牙は皮を破り、肉を切り裂き、牙は骨まで達する、口が血で汚れても百獣の王は気にもとめずにただひたすら捕食し続ける。そしてライオンのおこぼれに群がるハイエナ達。ひとつの肉の固まりに2匹のハイエナがかぶりつき取り合っている。捕らえられたシマウマは為す術がないのに哀れに手足はもがき、その瞳はいったい何を察して映しているのだろうか?シマウマの瞳は黒く潤っている。
そして背後のスクリーンには巨大に映された死霊の影がこの世の者ではない声で俺達を嘲笑い続けている。それはまるで「次はお前達だ。」と自分達に訴えているように思えた。現実でもスマホが写したエグい動画通りの光景だった。もはやこれ以上、今見ている光景が現実ではないという言い訳が思いつかない。丸之内はようやく現実へと引き戻ってくると今度はスマホの画面ではなく、横でずっと自分を心配して警告してくれた黒川の方へと顔を向けた。
「コウちゃん!ゾンビ達が荒畑に夢中になっている間に逃げろ!」
丸之内はもう一度、荒畑を見たがもう二度と見たくいないと気持ちを再確認した。スマホをズボンのポケットに入れると黒川達がいる視聴覚室のドアへと向きを変えた。
「よしっ!それでいい!こっちに来るんだコウちゃん!」
黒川が一安心し、丸之内が逃げ出す為の一歩を着地したその時、丸之内のお尻から音が鳴った。
『プリンキュア~プリンキュア~♪』
その場にいる全員がまずいと描いてあるような顔になった。丸之内のケツのポケットにしまったはずのスマホからプリンキュアの主題歌の着信音が視聴覚室中に鳴り響いたのだ。丸之内は日々の慣習でスマホを耳に当てた。
『コーズィーだよぉ!助けて!プリンキュアちゃぁぁん!ママと電話が通じないんだよぉ~~!!!』
丸之内はスマホを耳に当てながら恐る恐るゾンビ達がいる階段の方を向いた。丸之内のスマホからプリンキュアの着信音が流れた事で荒畑を捕食するのに夢中だったゾンビ達に階段の下にもごちそうがあるって事を思い出させてしまった。




