♰♰♰ 理科室は天国となるか? ♰♰♰
3階の第一校舎と第二校舎を繋いでいる渡り廊下で堀田と3名のザコ二等兵達が安全な逃げ道がないかと探し求めていた。
「いつまで逃げればいい?どこか安心できる場所はないのか???」
堀田の問いの答えを知っている者など誰もいなかった。行動せずに立ち止まっているだけの間に獲物を求めて来た行動力のある奴らが上の階からも下の階からも3階の渡り廊下にいる餌の所へと向かって来た。何処へ逃げればいいのかわからない。だが、時間は待ってはくれない。その時だった。
「あれを見て!金山先生がいる!」
ザコ二等兵の一人が指した方に全員の視線が向かった。渡り廊下の窓の奥に映る左側の第2校舎の廊下に金山先生が生徒達に背を向けて走っていた。
「やったー!先生がいた!先生ならきっとなんとかしてくれる!」
「良し!先生に付いていこう!」
堀田が言うとさっそく渡り廊下から左側の第2校舎へと走って行った。
「先生っ!」
生徒達の悲鳴に近い叫び声はすぐに金山先生の耳元へと届いた。金山先生は走りながら後ろへ振り向いた。まるで母親とはぐれてライオンに追われているシマウマの子供のように自分に向かってくる堀田達がいた。金山先生は大きく舌打ちをした。金山先生は生徒達の声を聴こえないフリをして走って逃げた。だが、まだ自分達で決められない自立していない子供の堀田達は悪人だろうが大人の助けにすがりついた。中年の大人と若い世代だと当然、体力のある後者の方があっという間に金山先生の所へとたどり着いた。
「お前ら!ついてくるなっ!先生の命令は絶対だ!」
「でも、先生、僕らは後ろからゾンビに追われているのです!」
堀田は鼻水をを垂らしながら金山先生に懇願した。
「お前ら普段は自分達をガキ扱いしないで縛り付けないで欲しい!と大人に歯向かう癖にこういう時に限って自分で何とかせずに大人に頼るからまだガキなんだ!!!これだから近頃の若い奴はー!!」
そうこう言っているうちに階段へと辿りつき、金山先生は下の階へ降りようと片足を一段だけ下に降りた。
「ぎゃあ!」
思わず叫び声をあげた。下の階段から十数匹はいると思われるゾンビの群れが上にいる自分達を見てよだれを垂らしながら階段を登って来た。後から堀田達が階段の前に立ち止まっている金山先生の所へ着いた。堀田達も下の階から来る捕食者を目の当たりにして悲鳴をあげた。
金山先生は来た道を引き返すべきか考えていた。だが背後には生徒達を追って来たゾンビ達が自分達に迫ってきている。金山先生は上を見上げた。上の階段にはゾンビはいない。でも、果たしてこの世に安全な場所があると言えるのだろうか?学校の何処へ行ってもゾンビだらけなのに。金山先生は生徒達を見渡した。生徒達は不安とパニック状態になり自分で物事を考えられずにただ恐怖に怯えているだけの子羊だ。そうか、普段は生意気なクソガキ連中でも彼らはまだ子供なのだ。
金山先生はずっと釣り上げていた眉を急に和らげて今までけして見せない優しげな表情を堀田達に向けた。先生の天使のような表情を見たら堀田達は目の前に迫っているゾンビに対する恐怖心が不思議と消え去り先生を頼りにしてもいいと安心しきっていた。
「大丈夫だ。俺に任せろ。」
堀田達は疑う事も知らずに金山先生の言葉を信じきった。すると金山先生は自分の隣にいたザコ二等兵のひとりの背中に手をあてるとザコ二等兵の背中を押し、ゾンビがむらがる階段の下にある酒池肉林へと突き落とした。
「うわああああああああああ!!!!!!!」
階段の下へと突き落とされたザコ二等兵は食虫植物のような無数のゾンビの触手に襲われて捕食されていった。残された堀田と二人だけどなったザコ二等兵はすぐに下から目を逸らしたが突き落とされたザコ二等兵の悲惨な叫び声だけは耳を逸らせなかった。金山先生は捕食されているザコ二等兵から目を逸らさずに笑っていた。
「はっはっはっ!ほーら!俺にまかしておけって言っただろ?」
確かにザコ二等兵を捕食するのに夢中なゾンビ達は堀田達の所へ来なくなった。
「何をぼさっと突っ立っている?俺は行くぞ。」
金山先生は生徒達を残して自分だけ先にゾンビがいない上の階へと向かった。残された堀田は二人だけとなったザコ二等兵と見合わせた。
「ど、どうする?下へ行くのも地獄、上へ行くのも地獄だ!」
堀田の視線は化物がうじゃうじゃといる下へと向かうと二人のザコ二等兵も視線が下へと向かった。ザコ二等兵の一人は後ろに下がり、頭を左右に振ってゾンビに捕食される地獄を拒否した。
「駄目だ・・・見るのに耐えきれない。」
「よし、俺は上に行くぞ。下よりはマシに違いない!」
堀田は二人のザコ二等兵を置いてさっさと階段の上に昇っていった。
「俺も!」
「待ってくださいよ~置いてかないでくださ~い!!」
彼らは幼い時に困った時は大人の言う事を聴けばいい。大人についていけば安全だという安全神話を親に教えられた。だが、間違った判断をする大人がこの世いる事をまだ教え込まれていなかった。金山先生は階段をいっきに駆け上って4階につくと左右を見渡した。すると左側の廊下にはすでにゾンビがいて向かうのは無理だが、右側にある廊下の突き当りにある部屋にはゾンビが一匹も見当たらなかった。
金山先生はさっそくその部屋へと逃げ込んだ。その後から堀田が続いて部屋の中へと入り、ザコ二等兵の一人も部屋へと駆け込んだ。もう一人のザコ二等兵も続いて部屋の中へ入ろうとしたのだが、背後にはゾンビがもうそこまで来ているのが目に入った。金山先生は残るザコ二等兵が部屋へと入る直前で素早く部屋のドアを閉めた。
廊下に残されたザコ二等兵は楽園の扉を目の前で閉められて顔を真っ青にして激しく扉を叩いて部屋の中に入れさせて欲しいと懇願してきた。部屋に入ることができたザコ二等兵はドアに手を伸ばして廊下にいるザコ二等兵を中へと入れさせようとした。だがその時、堀田の手がドアを開けようとするザコ二等兵の腕を掴んだ。
「お前も外でゾンビの餌になりたいのか?」
ザコ二等兵の目線がゆっくりとドアに向かった。廊下に取り残されたザコ二等兵の懇願する声が途絶えた代わりに悲鳴が聞こえてきた。血しぶきが扉の上にあるプレートまで飛び散った。部屋に入れたザコ二等兵の顔の血の気が引いていた。金山先生は声高く笑った。そして突如、部屋の中で響いていたアナウンスが耳に入った。
『生き残っている諸君!理科室で会おう!!』
金山先生と堀田と残る一匹だけとなったザコ二等兵が入った部屋のプレートにははっきりと大きな文字で理科室と書かれてあった。




