♰♰♰ 助けに来てくれる王子さま ♰♰♰
生き残っている生徒が黒川のアナウンスを聴いて理科室へと向かっていったその頃、理科室の場所がわからなくて困り果てていた中村みきはいまだに理科室に向かおうとはせずに図書館の入り口から立ち尽くしたままだった。
「どうしろって言うのよ!理科室ってどこにあるのぉぉぉぉ!!?ちょっと!誰か助けに来なさいよッ!美少女が困っているのよっ!」
その叫びは誰もいない遠い壁に向かって叫んでいるだけにすぎなかった。子供の時から聞かされた待っていればいずれ王子様が現れて王女様を助けに来てくれるというおとぎ話や少女漫画のヒロイン神話を信じている少女は年を取るだけで自ら王子様を探そうと茨の道へとは進まないでいた。
「みきは王子様が助けに来るまでここから絶っっっ対に動かないからねっ!」
「言っても無駄よ。」
壁に話しかけているだけだったみきの言葉にやっと返事が帰って来た。みきは期待して後ろを振り返った。だが、そこには化粧もせずに美容院へ行って髪を切ってもらわずに伸び放題のもっさりとした髪を一つに結んだだけのヘアスタイルに肌の手入れをまったくしておらず顔中が思春期ニキビだらけの見た目はゾンビのようでゾンビではない女の子が立っていた。
「どうして言っても無駄なの?」
「グフフッ!だってみーんな。滅ぶもん。うふふふふふふ!」
女の子の顔はみきとは同い年には見えず、まるで何十年も王子さまを待ち続けて疲れた中年女性のように見えた。
「あのーもしもし?あなた大丈夫?お医者さんに診てもらった方が・・・」
「ついに!」自分の世界にすっかり入り込んでいる女の子はみきの言葉を遮って自分の話を続けた。「この日が来た!私の妄想が現実になる日がぁぁぁ~!!!」
女の子は両手を合わせて祈りのポーズを取り、恍惚した表情をして天井を見上げながらミュージカルのように歌いながら先程のみきと同じく暗くて言葉が跳ね返るだけの壁に向かって歌っていた。まるで大げさすぎる演技をしている舞台役者みたいだ。近くに人がいる事もすっかり忘れて自分の世界に入り込んでいる。
「長い間、待ったかいがあった!」
「ちょっと、気をつけて歩いた方がいいわよ。」
もはや女の子にはみきの声が届いていなかった。女の子は上の空で自分という演劇の舞台を歩き回り出した。
「やっと私の事をずっとイジメてきた人達に神が天罰をお与えになさって下さった!」
「妄想を見るのじゃなくて前を向いて現実を歩いた方が・・・・。」
女の子はみきの忠告を効かずに右足を一歩前に出した。右足が踏んだ所は先程、みきやゾンビを滑らせた片付け忘れていた濡れ雑巾がある事も知らずに・・・・
「黙示録がついに起きたのよぉおおってギャアアアア!!!!!」
女の子は濡れ雑巾に足を踏んで滑ってしまい、バランスを崩して体が横に倒れた。倒れる先にはちょうどゾンビが入った掃除道具入れがあった。女の子は掃除道具入れに体を激しくぶつけて床に仰向けに倒れた。すると女の子がぶつかってきた衝撃で掃除道具いれの扉が開き、先程みきに掃除道具入れの中に入れられていた男子生徒ゾンビが勢いよく外へと飛び出していき仰向けに倒れている女の子の体の上に覆いかぶさった。女の子は体をピクリとも動かなくなった。こうして女の子は雑巾によって自分という演劇の舞台からころげ落ちた。一部始終を見ていたみきは片手で口を抑えて唖然としていた。
「やだっ!うそでしょ!???死んじゃったの!!!????こんなあっけなく???やだー雑巾は危険すぎっ!」
みきは3人も転ばした危険な雑巾をつまむと洗い場に投げ飛ばした。
「天罰とか黙示録のせいにするよりもちゃんと前を向いて歩かないと。おかげで大事な事を思い出した。みきは待たされるのが大ッ嫌いって事をね。王子様を待っているより、自分から進んで行った方が早く王子様に辿り着けるわ。さ、みきちゃんはちゃんと前を向いて理科室へ行こうっと!でも、理科室っていったいドコ???」
今度は言葉が跳ね返るだけの何もない壁に向けて言ったのではなく、自分自身に向けて言葉を言った。




