♰♰♰ ゾンビ放送② ♰♰♰
その頃、放送室では神宮西が黒川の放送についてとやかく文句をついていた。
「1年の時に酷い放送の音を出していた奴がいたけど、あれって黒川だったのね!」
「なんだよ!俺以外で機材を扱える奴がここにいるのか?」
「まぁまぁ二人共落ち着いて、鍵は持っていなくても放送室には入れた。放送を校舎に流せる奴がいた。都合がいい出来事は小説か映画でしか起きない奇跡が僕達の身に起きたのだから素晴らしい事じゃないか。しかし、神宮西君はドアの鍵を壊しちゃったのだよね?」
「そうだけど。」
「ぶっ壊したのだよねっ!?」
「ああ!そうだけどっ!?」
「壊したんだねッッッ!」
「だからさっきから何度も同じ事を言っているッッッ!!!」
「ドアの鍵を壊したって事はつまり、外からゾンビも放送室の中へ入れるって事じゃないのかね?」
「あっ!」
神宮西は慌てて自分達が入ってきたドアへと駆け寄ってドアを押さえようとしたらわずかな隙間から青白くて腐った指が外の廊下から飛び出してきた。
「わぁぁぁぁーっ!!!」
ゾンビの手がドアに挟まってしまい、神宮西が力強くドアを押した。わずかに出来た隙間から女子高生ゾンビの不気味な形相をしている顔が除いた。鋭い牙を神宮西に見せつけるように大きく開いた。上社もドアに駆け寄り、ドアが完全に閉まってくれるように二人の力でせいいっぱいに押した。
「ねぇ!廊下でドアを押しているゾンビって一人だけ?なんだかやけに力強くない?」
上社はドアの隙間を覗いてみた。するとドアの隙間からいきなり無数のゾンビの手が飛び出してきた。
「やっぱ一匹だけじゃないのね・・・」
廊下にいるゾンビ達が力強くドアを押してくるとドアに押しつけている上社の背中がたびたび宙に浮かんだ。神宮西は消火器を手に持ってドアの隙間から消火器の煙をゾンビ達に向けさせるとドアの隣に置いてあった掃除道具入れの中からモップを取り出し、モップの先でドアの隙間から今にも餌に飛びつこうとするばかりのゾンビ達を突いて追い払っていた。いかにも力仕事に不慣れな上社が苦しげに言った。
「黒川っ~!何、スマホで僕達を撮っているのだ!さっさと放送を始めないか!!」
「いやぁ~ゴメン。お前らが戸惑っている姿が面白いから皆で共有したくってさ!」
神宮西が黒川を目で殺すように睨みつけて隣にいる上社に顔を向けた。
「黒川をゾンビ達の囮にしてさっさとここから逃げる?」
「同意見だ。」
「わかった!わかったよ!じゃあ放送を続けるから!!!」
※※※
実は黒川達の会話が学校中のスピーカーから全校放送されていた。ゾンビに襲われている黒川達の会話を聴いていた家庭科部員達は先程の希望に満ちた状況と打って変わってまるで葬式のように静まり返っていた。部長が最初にこの絶望を言葉にした。
「・・・・・・ダメかもしれない。」
※※※
黒川は再びマイクに向き直すと緊張した顔付きになって喋り始めた。
『えぇーっと、こんにちは初めまして俺は黒川亮といいます。高校3年生。年は18歳。誕生日はタキシード仮面と同じで星座は獅子座。好きな食べ物はヤーコン。』
黒川が呑気に自己紹介している間にも廊下にいるゾンビ達は扉を押して中に入ろうとしていた。神宮西と上社は顔を真っ赤にしながらゾンビ達に抵抗していた。
「こんな時になに呑気に自己紹介なんかしているのっ!!!」
「さっさと要件を言い給えー!」
「まずは知らない相手に自分の事を知ってもらうようにって放送係の先生が言っていた!今は俺が放送している時だっ!俺の放送だ!俺だけのっ!だから邪魔をするな!」
「今はそんな事をしている場合????」
「やはり黒川を囮にして逃げ出そうじゃないか神宮西君。」
「そうね。」
「あぁっーもうっ!わかったよ!」
黒川は仕切り直してマイクを再び自分の口に寄せた。
『生き残っている人がいたら是非聴いて欲しい。気がつけば学校中がゾンビだらけになっていたけど、皆はけして一人じゃない。俺もいるし、ここには二人の心強い仲間もいる。化物に比べたら俺らは少数派なのかもしれないけど、一緒に生き残ろう。それで、集合場所なのだけどー、映画だとゾンビは人間だった時の習性で人がよく集まってくる場所に群れるからなるべくゾンビが来なさそうな人が集まらない場所はないかなー・・・・』
※※※
廊下で黒川の放送を聴いていた中村みきは目を閉じて両手を合わして神に拝みながら何度も同じ言葉を呟いた。
「頼むから図書館と言って図書館と言って図書館・・・」
『図書館っで。』
「やったー!!みきの祈りが通じた!!」
みきは思わずゾンビに気づかれる心配も忘れて声を大きくあげて喜んだ。
「さっきまでは大っ嫌いな場所だったのに今は初めて図書館が好きになりそう!」
※※※
すると神宮西の声が聴こえてきた。
『ちょっと待って。うちの学校の生徒に図書館の場所を知っている人っているの?』
『ていうか図書館ってこの学校に存在していたのか?図書館って都市伝説かと思っていた。』
『オイオイ、なんだよ~神宮西も上社も図書館の場所さえも知らないのかよー』
神宮西と上社は首を大きく左右に振って知らないと返答をした。黒川は二人に激しく落胆したがやがて何もない放送室のすみっこの角をなぜか呆然と見つめながら言った。
『そういえば俺も図書館がどこにあるのか知らなかった・・・・・。』
「うそでしょ~!今日、初めて図書館に入ったみきでさえ場所を知っていたのにぃ~!」
※※※
みきはまるで一年分の疲れがどっと押し寄せて来たかのようにひどく落胆した。
※※※
所変わって放送室では扉を開けようとしているゾンビ達に上社と神宮西が必死に抵抗していた。
「黒川!早く待ち合わせ場所を決めてっ!」
「黒川、僕達はもう限界だ・・・。」
上社の足は後ろからの激しい抵抗に押されて勝手にずるずると前に向かっていた。
「せかすなって!今考えている最中だからさー」
黒川はうつむいて額に手をやって考えた。そうは言っても何処へ行けばいいのか見当がつかない。そうこうしている間にゾンビ達はここの突破口を開けようとしている。上社と神宮西の二人だけじゃ限界だ。早く俺が助けにいかなければ。悩んでいる黒川に上社が助け船になる助言を告げた。
「黒川!つまり僕達が行きたくない場所を選べばいいだけなのだ!」
「だったら女子トイレなんてムリね。女の子はなぜかトイレに群れたがる。」
黒川はめったに使った事がない頭を使いすぎて頭が爆発しそうだった。
「ん~俺達が行きたくない場所・・・」
「もう、もたん・・・・。」
上社がそう告げると上社は前へと吹き飛ばされて神宮西は一人で支えきれずに神宮西も前に押されてドアが全開に開いた。ついに防壁がゾンビ達に突破された。ゾロゾロと複数のゾンビ達が放送室の中へと侵入してきた。神宮西が黒川を見て叫んだ。
「黒川ッ早く決めて!」
窮地に立たされた時にピリッ!と僅かな電流が脳にある神経を駆け巡った。
「そうだっ!理科室だ!!」
黒川はこの底辺学校の生徒達が勉強をしたがらない事をよく知っていた。黒川はマイクの向こう側にいる生き残っている仲間に伝えた。
『生き残っている諸君!理科室で会おう!!あ、それと俺がさっき撮影した上社と神宮西のおもしろい動画が見たい人は俺のSNSに見に来てね!』




