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♰♰♰ 救世主はギャル男 ♰♰♰


その頃、保健室では池下がゾンビと初のご対面をしていた。池下は素早く隣の敷居のカーテンを閉めてすぐに布団の中へともぐった。


「なんだ今の!?あれはひょっとしてひょっとすると映画に出てくるゾンビなのか??いや、ゾンビがこの世に存在するなんて生物学上ありえない!これはきっと悪い夢に違いない、そうだ。きっと高熱のせいで見た幻だ。」


池下は手に持っている歴史の参考書のページをめくった。


「参考書にはゾンビなんて乗ってないじゃないか。よしっ!これが夢か幻なのか確かめてやるぞ。ぼくは天才だ!だから天才の頭を使って夢かどうか確かめるっ!」


池下は手に持っていた歴史の参考書で自分の頭を殴った。


「いっ、痛い・・・と言う事はつまり・・・先程見たゾンビは幻じゃなくて現実ッ!?」


池下は布団をめくって上半身を起こし、隣を見ると敷居のカーテンから黒い影がもぞもぞと蠢きながら「あーうーあーうー」と不気味な唸り声が聞こえてくる。そして黒い影がだんだんこっちへと近づいてきている。近づくたびに黒い影は大きくなっていく。


「しまった!こっちから隣の影が見えるという事は隣からも自分の影が見えているという事じゃないか!」


池下は自分の迂闊な行動を後悔した。慌てて再び布団の中へと戻った池下はお願いだから僕の事に気付かないでくれー!と心の中で強く懇願する事しかできなかった。だが、その願いも虚しく敷居のカーテンが開かれる音がした。池下はゾンビに殺される前に今までの人生について考えてみた。



今思えば、自分の人生は後悔する事の方が多かった。短い人生をなんて無駄な事に過ごしてきてしまったのだろう。こうなる事なら自分のやりたかった事をもっとやっておくべきだった。どうせなら、もっと、もっと、もっーーと!勉強しておけば!




と、今までの人生を振り返っていた。そうこう考えている間にとうとうゾンビは池下がいるベッドの掛け布団へと手が触れた。この布団をめくられたら最後、池下はついに死を覚悟した。そしてゾンビは掛け布団をめくった。だが、布団の中にある物は参考書や教科書だけで布団の中にゾンビの餌となる池下は寝ていなかった。



ゾンビは首をかしげていた。ゾンビの足元のベッドの下では池下が息を殺して体を縮みこませていた。池下はゾンビが敷居のカーテンを開けるよりも早くベッドから転がり落ちて、ベッドの下に潜って逃げていた。ベッドの下では池下の顔のちょうど目の前にゾンビの両足があった。ゾンビは向きを変えるとゾンビのつま先が池下の鼻の前に向き、池下は思わず心臓が飛び跳ねて体が飛び上がりそうになった。叫び出そうになるのを池下は声を出さないように両手で自分の口を抑えて息さえ殺した。池下はもう生きた心地がしなった。だが、幸いにもゾンビのつま先は池下の鼻から向きを変えてベッドの敷居から外へと足が向かって行く音を聞いた。ゾンビの足音が遠のいていくのを聴いて「助かった・・・」と池下は心の底からほっと胸を撫で下ろした。


だが、池下は・・・さあ、もう心配をする必要はないのだから勉強でもしようと池下はベッドの下から顔を覗かせた。幸いにもベッドの周りにゾンビはいなかった。敷居のカーテンが開かれ、隙間から保健室が見渡せるがゾンビの姿は見えない。ゾンビはもう保健室から出たに違いない。根拠よりも願望が上まわってしまった池下は自分が寝ていたベッドの上を覗いて見た。枕があった場所の横にベッドからはみ出している参考書が見えた。池下は参考書を手に取ろうと手をベッドの上へと伸ばした。人差し指の先が参考書に触れた。だが、触れるだけで参考書を掴めそうにない。


「よし、行ける!」


腕が千切れそうになる程に伸ばした。そして、ようやく参考書を手に掴むことが出来た。


「やった!」


だが、安心したせいかつい気が緩んでしまい参考書を掴む指が滑って参考書が激しい音をたてて床に落ちてしまった。その音で保健室から廊下へと出ていたゾンビが保健室に餌かいる事に気づき、ゾンビは再び保健室へと入ってきた。



しまった!ゾンビに気付かれてしまった!



と池下は咄嗟に落ちた参考書を素早く手に取るとベッドの下へ潜り込んだ。そしてゾンビは池下がいるベッドへと戻ってきた。池下は慌てて参考書のページを捲った。



えっーと、ゾンビの対処方。ゾンビの対処法・・・乗ってないっ!!どうしよう?参考書に乗っていない事は僕にはどうしようも出来ないじゃないか!



と池下が心の中で嘆いている間にゾンビの足が再び池下の顔がある前で立ち止まった。池下はゾンビに気付かれないように音を立ててはいけないとわかってはいても恐怖で歯ぎしりの音が鳴り止まなかった。氷のような冷たい風が池下の頬をかすった。ゾンビの顔がベッドの下にいる池下を覗いていた。


顔が痩せこけているせいで大きくなった両目が池下の事をじっと見つめていた。池下は絶対にゾンビと目を合わせちゃダメだ!と思い、目が潰れるほどぎゅっと閉じた。ゾンビの口がゆっくりと開き口の中からこれから餌にありつこうとする歯を覗かせた。ゾンビの舌は手よりも速く餌へと伸びた。池下の生まれたての赤ん坊のような体制で死を覚悟した。が、その時。いきなり安っぽい歌詞のポップミュージックの着信音が鳴り響いた。


「『愛している~お前の事を愛している~愛している~世界で一番、愛している~愛している~愛している~世界で一番、愛している~愛している~ピッ!』あっ、こーずぃ??ああ、ゴメン~ゴメン~さっきまで俺、寝ていたからさっ!ところで聞いてくれよ!俺がマジ惚れした女の話をさっ~」


池下がいる真ん中のベッドから窓側の方の隣のベッドで眠っているギャル男の着信音がいきなり鳴ってギャル男は電話に出た。池下がギャル男の声に気を取られていると、いつの間にか自分の所にいたハズのゾンビの顔がいなくなっていた。ギャル男の喋りはさらにエスカレートして行った。


「いやいやいやっ!マジっ!今回だけはちょ~マジでその女にべた惚れしているの!って、わっ!!!なんだこれ~?あひゃひゃひゃっ~~~すっげーいや~ごめんごめん~。いきなり、俺の目の前にちょ~~イカスゾンビのコスプレをしたおもしろい奴が現れたからさ~こーずぃ~にも見させてやりたいよ、ほんと、コイツおもしろい奴でさ~えっ!?なんだって?こーずぃ~の所にもゾンビのコスプレした奴がいっぱいいるのかっ!ひょっとして今日はハロウィンなのか~って!何をするのだよ~!今の痛かったぞ。おいっ!聴いているのか!??やめろっ!痛いだろ!!ぎゃあああああ!!!!」


ギャル男はゾンビのコスプレだと勘違いをする残念な頭のせいでゾンビに捕食された。池下はゾンビがギャル男を食べている間にゾンビに気付かれないようにそっーとベッドの下から抜け出して、すぐに立ち上がるとベッドの上に置いてあるすべての参考書を手に持ちゾンビにばれぬように静かに歩きながら保健室から抜け出て行った。


「かわいそうな気もするけど、本物のゾンビとゾンビのコスプレの区別もつかないアホのおかげで助かった。アホも時には役に立つ事があるのだな。」


こうして池下はひとつずつ参考書には乗っていない事を学んでいった。








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