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♰♰♰ 届かなかったチョコ① ♰♰♰

新瑞橋先生は今、自分がもっとも評価していた服装の乱れがまったく見られない模範的な生徒である日比野に自分の手を噛まれていた。


「ぎゃあああああああっっっっ!!!!」


今までの狭い社会の縮図のような学校の秩序は毎日学校に来て月に1回は行われる身だしなみチェックの日にはヘアスタイルと服装を整える規則さえ守っていれば誰にだって難なく暮らしていけた。たが、その安全神話も今日で終わった。秩序は崩壊し、社会ルールが通用しなくなった。安全で守られた場所は地獄へと変わったのだ。新瑞橋先生は自分の片手を噛んでいる日比野を引き離そうと日比野の頭を手で押した。だが、日比野は犬のような唸り声をあげ新瑞橋先生の片手から口を引き離そうとしない。日比野に噛まれた新瑞橋先生の手からは噴水のような血しぶきが岩塚由里の化粧直しをした顔に鮮やかに飛び散った。


「きゃあああああああああ!!!!!!!」


岩塚由里が感じた恐怖と悲鳴は廊下中に響き渡った。モンスターと化した日比野は噛みついた新瑞橋先生の手をついに噛み千切り、新瑞橋先生は失神して床に倒れた。日比野は噛み千切った新瑞橋先生の手を放り投げると新瑞橋先生の手は宙を飛びたまたま日比野の横を通り過ぎた女子生徒の頭に乗っかった。


「きゃあ!誰か取ってぇぇえええええ!!!!!!!」


女子生徒は恐怖と混乱でパニックを起こし、思わず隣にいる男子生徒にしがみついた。男子生徒は冷静な態度で女子生徒の頭に乗っかった千切られた新瑞橋先生の手を取ってあげた。おかげで女子生徒は落ち着きを徐々に取り戻して行った。呼吸が落ち着いてくると顔を上にあげて先程、自分の頭についた手を取ってくれた男子生徒に感謝の気持ちを伝えた。


「あ、ありがとう。」


顔をあげて男子生徒の顔を見た瞬間、女子生徒に再び恐怖と混乱が襲ってきた。自分を助けてくれた男子生徒の顔が新瑞橋先生を襲った日比野と同じモンスターの顔をしていた。気付いた時にはすでに遅く、今度は助けを呼ぶ声も挙げる暇もなく女子生徒は男子生徒に右顎を噛まれた。安堵した時もわずかな間しかない。野蛮な世界で秩序ほど無意味な物はない。


岩塚由里は目の中に新瑞橋先生の血が入ってしまい、目に入った異物を洗い流そうと目から涙が溢れ出た。目の周りにこびり付いた血を払おうと目を瞑って手で目の周りにある血をこすり取っている為にまったく周囲が見渡せない状態でいた。その隙をモンスターと化した日比野が餌である岩塚由里を襲おうと近づいていた。


両手を前へ突き出した日比野の手があと少しで岩塚由里に触れる所まで来た時、果敢にも偶然、後ろを歩いていた男子生徒の一人が素早い動作で岩塚由里の元へと駆けつけて、そばに置いてある掃除道具入れの扉を開けて中からホウキを取り出すと今にも岩塚由里に牙を向けようとしている日比野の背中に向けてホウキで殴った。日比野は横へと吹き飛ばされた。


その間に岩塚由里は目がうっすらと開けられるまでになった。ぼんやりとした視界から徐々に世界が見渡せるようになると自分の目の前には化物の顔とは違ってまるで家族に会ったような安心できる人の顔があった。


「君、大丈夫?」

「うん、ありがとう。」


男子生徒は岩塚由里が無事な事に安堵して次は床に仰向けに倒れている新瑞橋先生の所へと向かった。男子生徒は新瑞橋先生の前でしゃがみこみ、新瑞橋先生の安否を確認しようと先生の名前を呼んだ。


「先生ッ!大丈夫ですか?先生っ!」


何度も呼んでも返答がない。男子生徒は口を閉じて新瑞橋先生の口元へと耳を寄せ、耳を澄ましてみた。岩塚由里が恐る恐る訪ねてみた。


「大丈夫かな?」

「大丈夫。呼吸音は聞こえてこないが、かすかに「あーあーあー」と声が聞こえてくる。先生はまだ生きている!」


男子生徒の輝かしい未来が希望に満ち溢れている笑顔を見て岩塚由里も安堵し、お互いに顔を見合って微笑み合った。しかし、男子生徒が聴いた声は希望の兆しではなく、むしろその反対であった。男子生徒は新瑞橋先生に背を向けて岩塚由里の方に顔を向けている為に自分の背後で失神していたはずの新瑞橋先生の上半身がゆっくりと起き上がった事に気が付かなかった。だが、男子生徒と向かい合わせの岩塚由里には男子生徒の背後で蠢いた新瑞橋先生を目撃していた。


「新瑞橋先生、もう大丈夫なのですか?」

「え?」


男子生徒が後ろを振り向いたその時、起き上がった新瑞橋先生がゾンビに噛み千切られていない方の手で男子生徒の肩腕をつかんだ。男子生徒が驚いている間に新瑞橋先生が男子生徒の肩に噛み付いた。


「うわあああああああああああああ!!!!!」


男子生徒の肩からまたもや噴水のような血が飛び出た岩塚由里はまた血しぶきを浴びて悲鳴をあげた。肩を捕食されている男子生徒はまるで電撃を受けているかのようにピクピクと体を動かしていた。男子生徒の肩を噛み肉を引き裂いている新瑞橋先生から放つ死臭のような腐った臭いと死人のような青白い顔を見た岩塚由里は以前におバカちゃん達に最高傑作だとかラブコメだとか騙されて一緒に見たホラー映画に出てくるとあるモンスターと似ている事に気がついた。


「これってもしかして・・・・ゾンビってやつ???」



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