♰♰♰ ゾンビタイムの始まり② ♰♰♰
古典の先生ゾンビはゆっくりとした足取りで教室の中へと進んできた。黒川は右と左にもそして教室の後ろにも三方からゾンビに囲まれていた。黒川にできる事と言ったらその場でただ慌てる事だけだ。
上社はゾンビが体の上に覆いかぶさっているせいで床から立ち上がって黒川を助けに行くなんてまず無理だった。両手はもうしびれ初め、今すぐにでも餌に喰らいつこうとしているゾンビの力に押されている。上社は黒川に頼るしかない。だが肝心な黒川は上社とは違い体は自由に動けるのにパニック状態で頭が動いていない。黒川に一番近い左右にいる男女ゾンビの動きは遅いがあと一歩でも前に進めば長く延した手が黒川のやわらかい肌に触れるだろう。上社は黒川に助言を叫んだ。
「黒川!助けを待つのも慌ててもゾンビがお前に近づく時間を与えているだけだっ!」
「で、でもっ!どうやって逃げりゃあいい!」
「他人に頼ろうとするから自分の頭が働かないのだ!常識で考えては駄目だ。今はもう非常識な状態だ。非常識で考えろ!」
上社の言葉が電流となり黒川の体の中を走り、慌てていたのが急に穏やかな川の流れのように静かになった。
「そうかわかったぞ。普通に逃げようと考えていたのが間違いなのだな・・・。」
そして、両側から黒川を挟んでいる男女ゾンビ達が餌である黒川に触れる為に足を一歩前に出した。伸ばした両手を黒川の首筋のうなじに触れようとしたその時、黒川の頭がいきなり下がった。二匹のゾンビは黒川がいる真下を見た。
床にしゃがみこんだ黒川は目の前にある机の下に頭をいれて潜り込んでいた。二匹のゾンビもしゃがみこんでまだ机の下に潜り込みきれていない黒川の足を掴もうと手を伸ばした時にはもうすでに遅く、黒川の体はひょろりと机の下をくぐり抜け、次の列の机の後ろにしゃがみこんでいた。黒川の横には机の下をくくる時に邪魔になった椅子が置いてあった。黒川は堂々と立ち上がった。だが、これで諦めるゾンビではない。男女のゾンビも立ち上がると餌である黒川の方へと向き直した。黒川は机の下に潜るときに邪魔になってどかした椅子の背を持った。
「先に言っておくけどゴメンッ!」
黒川は椅子を高く持ち上げて自分に向かってくる女子生徒ゾンビの頭を椅子で殴った。女子生徒ゾンビの体は後ろに倒れて背後にあった机を巻き沿いにして共に床に倒れた。黒川はすぐさまもう一匹の男子生徒ゾンビにも椅子で殴りつけた。男子生徒ゾンビが床に倒れると黒川はふと誰かの視線を感じて後ろを向いた。
「先生・・・・俺がわからないですか?先生から居残りを命じられた黒川です。」
黒川は古典の先生ゾンビに穏やかな口調で語り掛けた。ゾンビとなった古典の先生は黒川がいる所から縦に机を3つ分挟んだ黒川と向かい合わせになっている所にいた。教師なのにもう生徒からの質問に答える事はない。
「わかるわけねーもんなぁ、先生白目向いているし・・・。」
黒川はどうしようかと迷っていた時に目の前にある机に身に覚えがあった。
「これは本山の机だ。」
本山の机の横にかけてあるカバンが目に入った。黒川はカバンを手に持った。
「そういえば今朝に本山がこのカバンの中からチョコを取り出して女の子からチョコを貰えたと俺に自慢してきたっけ?そうか・・・・その手があったか!」
黒川は本山のカバンを机の上に置くとファスナーを開けてカバンの中に手を突っ込んだ。
「んん~?何か武器になりそうな物があるかな~???」
すると手に何か物を掴んだ。
「よし!何か掴んだぞ!これでもくらえっ!!!」
黒川は古典の先生ゾンビに向けて手に掴んだ物を投げ付けた。それは見事ゾンビの顔に命中し、床に落ちた。だが、古典の先生ゾンビには自分の身に一体何が起きたのかでさえ理解していなかった。なぜなら黒川が本山のかばんの中から取り出して投げ付けた物は駄菓子菓子のスルメイカだったのだ。
「クソッ!スルメイカでどうやって奴らと戦うんだよ!まだ他に投げる物はないのか!??」
黒川はやけっぱちになって本山のカバンの中に手を突っ込んでは中にある物を次々に古典の先生ゾンビに投げ付けた。
暇つぶし用のトランプ、片一方しかない靴下にスーパーボール。1つだけのジェンガに人生ゲームのお札と使う予定が今後一生ないコンドームにパンツと投げられる物ならば何でも投げつけた。だが、どれを投げてもゾンビにはまったく効果のない物ばかりだ。その頃、自分を襲いに来るゾンビを両手で抑えている上社の手に汗が滲み出てきた。
「早くしてくれ黒川!!手の力に限界が来たら僕はもうお終いだっ!!」
「そんな事言ったってよぉ~本山のカバンに投げられるような物がない!」
黒川は本山のかばんを必死にあさった。
「本山の奴は学校にいったい何を持ってきているっ!ゾンビが致命傷になる教科書の一つくらい学校に持ってきていないのかっ!」
上社の顔はもう真っ赤で限界だ。
「いや!今度は手応えがあるぞ!!!!」
吉報を聴いた上社は再び生きる希望を取り戻していった。
「俺の予想だとこの手の感触は紙が何枚も束ねてある硬い物に違いない!喜べ上社!お前が言っていたゾンビが致命傷になりそうな教科書がみつかったぞっ!!」
だが、黒川が本山のかばんの中から取り出して堂々と上社に見せつけた物は教科書ではなくプレイメイトが豊満なボディとうさぎの顔のロゴが一緒に写っている表紙のプレイボーイだった。(しかも本家米国板)
「黒川!そんな物でもいいからゾンビに投げつけろ!いますぐ!!」
黒川はプレイガールとのセクシーな体系を見た。
「いや、非常にけしからんっ!没収だ!」
黒川はプレイボーイをゾンビに投げずに自身の制服のズボンの中にしまった。
「どうしてゾンビに致命傷を与えれそうな物をゾンビに投げつけないっ!!」
「何言ってる!ここは由緒正しき教育の場だ!俺が投げ捨てたプレイボーイが子供の目に入ったら非常にけしからんっ!俺が厳重に補完しておくっ!」
「黒川だって子供だろ!」
「体は子供、頭脳は大人だからいいのっ!」
「単なるエロガキじゃないかっ!」
「無料でポルノが簡単に見られるインターネットに毒された今の時代のガキにエロ本の価値がわかるかっー!」
黒川が上社と犬でさえ食べないようなくだらない言い争いをしていたら、古典の先生ゾンビは黒川がいる前に進もうとして片足を一歩前へと進めた。だが、目の前にある椅子と机にぶつかり前に進めない。その姿を見た黒川はヒントを得た。黒川は片足をひょいっとあげた。
「授業は退屈だったけど、先生の事は好きだったよっ!ゴメンッ!!」
黒川は片足で前の机を蹴った。黒川に蹴られた机はドミノ倒しのように後ろに倒れ、その後ろにある机と椅子に当たり、その机と椅子もまたドミノ倒しのように後ろに倒れ、そのまた後ろにある机と椅子に当たり、そして今度倒れた机と椅子はその後ろにいる古典の先生ゾンビに当たった。古典の先生ゾンビはバランスを崩して後ろに倒れ、背後にある机と共に後ろへと倒れた。
「これで自分の行先を邪魔するゾンビをぜんぶ片付けてやった!」
黒川は緊張感から解放された後のハイテンションになった。だが、背後ですっかり忘れていた人の苦しそうにもがいている声がした。
「くーろーかーわー・・・・」
上社が苦しそうに自分の名を呼ぶ声を聴いて思い出した黒川はすぐに体を前に直した。
「待ってろ!今すぐに助けに行くからな!」
黒川は上社を助けに行こうと足を一歩前に出た。
「ぎゃあ!!」
黒川は何者かに足を掴まれて床にうつ伏せに倒れてしまった。二本の腕だけで前に進もうとするのだが片足が何かに引っ張られて思うように動けない。黒川は後ろを振り向くと黒川が先程椅子で倒した男子生徒ゾンビが床の上で黒川の片足の襟を掴んで黒川が上社を助けに行こうとするのを阻止していた。
「なんでまだ生きているんだぁぁぁぁぁーーー!!!!」
「ゾンビだから生きているというより死んでいる。」




