♰♰♰ 放課後の生徒指導室② ♰♰♰
その頃、生徒指導室では真由が真っ青な顔をして夏樹と麻子の背後にいるソファーに座って眠っている原先生を指した。
「ねぇ、ちょっと。今、原先生が動かなかった?」
「ええっ!?」
夏樹と麻子は背後を振り向いた。だが、原先生は依然として動かないままだ。夏樹は一瞬だけ焦ったがほっと胸をなでおろした。
「真由の思い過ごしだよ~原先生はまだ寝ているじゃん。」
麻子も緊張が晴れた喜びのせいか気分が高めに言った。
「そうそう!ほんと、ピクリとも動かないよね~。まるで本当に死んでいるみたい!」
「そうかな~私の思い過ごしなのかな???」
「そうそう。真由の思い過ごし!」
麻子が自分のチョコを探す作業にとりかかるとさっそく怨念の海の中から身に覚えのあるチョコを見つけた。
「やった!!私のチョコみっーけっ!」
麻子はまるで宝物を探し見つけた喜びを周りに見せびらかしている子供のように自分のチョコを高々と上げた。
「わーすごーい!まるで高級デパートのような高級チョコだね!」
真由に褒められた麻子は嬉々と調子をこいた。
「でしょー!ベルギー王室御用達のチョコなのー。高畑先輩の為に私は高い金を払ってまで貢ぐ都合のいい便利な女なのよー」
麻子の口から高畑先輩の名前を告げたその時、夏樹の顔が面白くもなさそうなしかめっ面になって荒い鼻息を出して言った。
「へぇーまるでヤリチンアイドルやホストに貢ぐ女みたいー」
夏樹に屈辱を言われた麻子は有頂天の気分から機嫌が悪くなった。やがて夏樹もダンボールのチョコの海から自分のチョコを見つけ出した。
「よっしゃー!!見てっ!私のチョコすごいでしょ?なんせ、ラッピングからチョコまでぜぇーんぶ手作りで深夜の2時まで手間暇を掛けて作ったからー大好きな人の為にここまで愛情をかけてやるのは当然よね!私ってなんて男に都合のいい便利な女っ!金をかけただけで愛情を誤魔化した誰かさんとは大違い。」
夏樹の余計な一言で麻子の眉毛がピクリと上に上がった。真由は2人の間の微妙な空気を感じ取ると今すぐにでもこの場から逃げ出したくなった。
「手作りってまさに金をケチった人間が安っぽさを誤魔化す為に便利な言い訳よね~私も今度、その言い訳を使わせてもらおっーと!どうせ夏樹のチョコなんて包みは100均で済ませたでしょ?そんなケチだから彼氏に捨てられるのよ。」
「ねぇ~ここでケンカしたら原先生や職員室にいる先生達に気づかれちゃうよ~」
真由の説得ももはやオスを取り合うメスネコ同士の耳には届かなかった。
「もうっ!頭来た!」
夏樹はチョコレートが入っていたダンボール箱を高く持ち上げるとダンボールの中身のチョコを麻子にめがけてぶっかけた。麻子の顔に好きな男に届かなかった大量の怨念が籠ったチョコが当たった。
「いったーい!!何するのよーこのメスゴリラ!!!」
麻子がバイトで稼いだ金でネイルアートを塗ってもらった爪で夏樹の頬をひっかいた。
「よくも顔に傷を!」
真由は二人の争いで原先生が起きるんじゃないかともう生きた心地がしなかった。
「ふんがっー!!!!」
「ふんがっー!!!!」
夏樹と麻子の手からチョコが離れて原先生の顔に二つのチョコが当たった。そして二人の取っ組み合いが始まった。二人共、チョコの事よりもオスを取り合うメス猫同士の争いの方が重要になった。麻子は両手で夏樹の口の端を強くひっぱった。夏樹も負けじと麻子の自慢のセットした髪をもみくちゃにした。
「やめなよぉ~二人共みっともないよ~。」
真由は二人のケンカが怖くてオロオロとその場で立ち尽くすしかなかった。そういえばと原先生が起きてないか心配になっておそるおそる原先生に目を向けた。すると真由が恐れていた事態が起こっていた。
「ね、ねぇ・・・麻子に夏樹。二人のチョコが・・・・」
麻子も夏樹も真由の『チョコ』という言葉でようやく忘れかけていたチョコの存在を思い出した。二人は一時だけケンカを中断して真由が指す方を見た。二人のチョコは原先生の足元に見つかった。そして上を見上げると原先生が立ち上がっていた。




