♰♰♰ 放課後の保健室と廊下 ♰♰♰
保健室では池下は参考書を暗記していた
「ひとよひとよにひとみごろ・・・」
「あーあーあー・・・」
池下は今日で何度目かのため息を吐いた。今はギャル男が眠ったからようやく静かに勉強が出来ると思っていたのに次はもう片方の隣のベッドから勉強の妨げになる喘ぎ声が聞こえてくるとは。
「またかよ・・・」
隣を向くと薄い敷居のカーテンから隣にいる生徒の上半身だけが起き上がっているシルエットが見えた。そして人間とは思えぬ声で「あーあーあー・・・」と喘ぎ続けている。
池下は一言、隣にいる生徒に注意しようと自分と隣の生徒の間にある敷居のカーテンを勢い良く開けた。
「なっ!なんだよ!!コレ!」
♰♰♰
岩塚由里は先程、教室に忘れ物を取りに行くと言って友達と別れた後に下駄箱で靴を履き替えて廊下に足を踏み入れていた。
「おいっ!いったいどういう事だ!?」
「げげげっ!」
突如、岩塚由里の目の前に現れたのは新瑞橋先生だった。新瑞橋先生は岩塚由里の右腕をいきなり掴むと頭から火を吹きだしそうなほど怒った。
「右袖のボタンが締まってないじゃないか!なんだこの服装の乱れは!」
この学校ではボタンひとつ締めていないだけでまるでA級戦犯扱いだ。岩塚由里は普段は学校にいる時だけはボタンを締めていたのだが、学校が終わった時間になると息苦しさから解放しようと制服のボタンをはずし、スカートの袖を短くしていた。
「あららー?どうしてか、とめていたボタンがはずれている?不思議!?」
「とぼけるのじゃない!」
「チッ!」
「チッとはなんだその態度は?服装の乱れは心の乱れ。服装の乱れは世界の乱れ。近頃の若者が非行に走るのも、犯罪者やテロリストが増えるのも、性犯罪、環境破壊や貧困、経済問題、少子化、デフレ問題、食料困難、引きこもり、政治家や警察の汚職問題、脱税、労働問題。ハリウッドセレブの整形失敗これもこれもこれもすっーべて!服装のみだれからきておるっ!学校が終われば服装が乱れてもかまわないと思っておる生徒が多いが、断固して許さんっ!外にうちの学校の評判が悪くなる!」
「放課後くらい別にいいじゃないですか~先生。いくら外見を整えるのに力を注いでも中身を成長させてこなかったからうちの学校はいつまでも偏差値が低いままですし、こんなど田舎にある高校なんて服装以前に存在時代が知られていないのに評判を気にしても無意味ですよっー!」
「いいかね。君達が服装の身だしなみをきちんとしなきゃいけない理由は生徒の為でもなく、君たちの親御さんの為でもありません。俺たち教師の給料の為にやるのだ。君たちのような粗悪品は安くてまずい豚肉を外見だけは国産だと産地偽装し、安っぽい大学に売りまくって大学の進学率が上がる事によって私達、学校職員の金儲けになるからやらなきゃいけない事なのだ。」
「私たちは豚なの!?」
「ほーら、日比野を見習え。日比野の服装には乱れがまったく見られない。先生を出世させてくれる立派なお手本のような安い豚肉だ。」
新瑞橋先生はちょうど自分の横を通り過ぎようとしていた岩塚由里と同じ3年生の男子生徒である体型が豚のように太っている日比野の腕をひっぱって服装の乱れのない見本を岩塚由里に見せつけた。
「でも先生。日比野君は服装より顔色の方を見てあげた方がいいじゃないですか?」
日比野の顔は死んだように真っ青で目は白目を向いていた。そして口からだらーっとヨダレのような血をたらした。日比野の横を通り過ぎようとした放課後に委員会の仕事をしようとしていた女子生徒が隣にいる同じ委員会の同級生の男子生徒に顔を寄せて小声でなにやら話しかけた。
「ねぇ、あの人やばくない?」
「ああ。あきらかにいっちゃってるな、あの目。やべぇ・・・」
小声と言っても新瑞橋先生や岩塚由里にも二人の話している内容が聴こえて来たが新瑞橋先生にとっては今の日比野よりも重要な事があった。
「体調の悪さなんて服装の乱れに比べたら重要な事なのか?」
「質問するまでもないじゃないですか!日比野君の目が白目になっていんですけど。」
「この程度で体調が悪いだなんて近頃の若者達はたるんどるっ!」
「そんな古臭い精神論でこの前、熱がある生徒を無理矢理部活に出させたから、熱が出た生徒は救急車に運ばれたじゃないですか!」
「それは倒れた生徒にもっと精神論が足りないせいだ。とにかく、この世の問題はすべ服装に現る。服装の乱れを直せばこの世の乱れも治る。見よ、これが我が校が目指すべき模範的な生徒を・・・・」
新瑞橋先生が日比野の肩に手を置いた。すると我が校が目指すべき模範的な生徒の日比野が自分の肩に手を置いた新瑞橋先生の手をおもいっきし噛みついたのだ。




