♰♰♰ 放課後の生徒指導室 ♰♰♰
職員室の出入り口の扉の前で先生達が次々と職員室の中に入って行った。やがて職員室に入ろうとする先生がしだいに途絶えていき、しばらくすると何やら会議が始まったような校長先生の声がした。その様子を職員室から少し離れた所にある壁越しから麻子と夏樹と真由とみきの4人の顔がまるで串刺し団子のように縦に並んで見ていた。
「先生達はもう中に入って行った?」
麻子は声が漏れないように小声で尋ねると真由も小声で返事をした。
「そのようだね。これで生徒指導室に忍び込める。」
「用務員さんから賄賂を出して受け取ったこの鍵さえあればね。」
そう言ってみきは生徒指導室の合鍵をポケットから取り出して一番近くにいた夏樹に渡した。夏樹は感謝の言葉をみきに伝えた。
「ありがと~生徒指導室の鍵までうちらに渡してくれるなんてなんか悪いよ。」
「別に気にしなくていいの。みきが親切なのは事実だから!おっと!みきちゃんがいい事をしたこの瞬間を撮影していいねボタンを稼がないとっ!」
みきは満面の笑みでスマホに笑顔を向けたが、自分の背後ではトドとメス猫二匹は浮かない顔をしていた。そして夏樹と麻子と真由の3人は時代劇に出てくる泥棒のように腰を曲げて足音も立てずに静かに生徒指導室へと向かって行った。3人が生徒指導室へと向かうのをみきは見送ると口の両端をあげてニコリと笑みを浮かべて呟いた。
「むしろ感謝しているのはこっちの方。有難う、簡単に騙されてくれて。あのおバカの3人が生徒指導室に行っている間にみきがあんた達よりも先に図書室で高畑先輩にチョコを渡すのだから。」
そう言ってみきは3人とは背を向けて角を曲がった所にある階段を登って行った。
ガチャリと鍵が開けられる音を最小限に留めさせてドアノブがゆっくりと周りだした。そして静かに戸を引いた。
「おじゃましまーす。」
真っ先に電気がついていない真っ暗な生徒指導室へ入った麻子は音を立てないように気を付けていたのに部屋に入る時の礼儀の言葉をつい言ってしまった。麻子の後ろにいる夏樹と真由はここまできた途端に何か後悔しろうな不安な気持ちでいっぱいになり生徒指導室へ入るのをためらっていた。
生徒指導室は教室の半分程の狭さで部屋の中央には先生と生徒の対談の為に座らされるソファーが向かい合わせに二つ置いてあり、その間にガラスのミニテーブルがある。そしてそれらを囲むように壁の両端に資料がぎっしりと詰まった棚が置いてあった。麻子が後ろを振り向いて生徒指導室へ入るのをまだためらっている夏樹と真由に向けて手招きをしながら自信たっぷりに言った。
「大丈夫。電気がついてないのなら誰もいないって!」
「それもそうだね」
夏樹が隣にいる真由に顔を向けて言った。
「なら、入ろうかな・・・」
二人は生徒指導室の中に入り、最後に入った真由が扉を閉めて夏樹が扉の横にある電気をつけた。ぱっと部屋が明るくなった時、ソファーの背から後頭部が見えた。
「ぎゃあ!」
真由が咄嗟に叫んでしまったが、ソファーに座っている人物が動いた気配はない。
「やだ、人がいたんだ。」
麻子がソファーに座っている人がいったい誰なのか確かめようとソファーの中央へと向かった。
「ちょ、やめておきなよ~麻子。」
夏樹が小声で麻子を静止せようとした。
「そうだよ。今なら気づかれずに逃げられるって。」
真由は体をそわそわと動かして落ち着きがなかった。
「大丈夫。大丈夫。原先生が寝ているだけだから。」
「えっ!原先生がいるの???」
夏樹は真由と共に原先生が本当に座っているのか確かめようと麻子がいるソファーの中央へと回って来た。
「うわ!本当だ。原先生が寝ているや。しかも口を大きく開けて。」
夏樹がそう言うと麻子と真由は寝ている原先生の顔を見て思わず吹き出しそうになった。般若顔の原先生が路上で寝ている酔っぱらいみたいに寝ている。しかも手には没収したチョコが握られてあり、ミニテーブルの上には没収されたチョコが大量に入ったダンボール箱が置かれてあり、ダンボールの周りには甘い香りのする包み紙がいっぱいテーブルの上に放置されていた。麻子は間抜け姿となった原先生の顔をスマホで写した。
「こらこら~何やってるのよ~麻子ぉ~!」
「この画像。学校中の皆に広めてあげなきゃ!」
「しっかし、ひどいよねー。学校にチョコを持ってきちゃダメだと生徒からチョコを没収しておいて自分は生徒から没収したチョコを独り占めして食べるなんてさー。」
夏樹は原先生が目覚めるかもしれない心配を忘れて原先生に怒っていた。
「今は文句を言うよりも原先生が起きる前に私達の没収されたチョコを取り戻そ。」
麻子がそう言うと3人は自分達がここに来た目的を思い出し、眠っている原先生から目を背けてチョコが詰まったダンボールの中をあさり始めた。3人がチョコをあさっているとき、片手にチョコを握っている原先生の薬指がかすかに動いていた。




