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♰♰♰ ライフ・オン・マーズ ♰♰♰


 名城和也は口にくわえたタバコを指に挟むと煙を口からゆっくりと吐き出した。吐き出されたタバコの煙は名城が今読んでいる農業新聞の『牛の堆肥か?豚の堆肥か?』の欄に当たって散乱して行った。名城はいつものように眉間にしわをよせてまるで自宅の中にいるようにトイレ中でくつろいでいた。トイレの外では何やら骨が折れるような音や悲鳴が聞こえているが、名城の耳にはイヤホンをつけており、大音量でデヴィッド・ボウイの「ライフ・オン・マーズ」を聴いていたので名城の耳には助けを呼ぶ黒川の悲鳴はまったく届いてこなかった。届いたとしても放って置くだろう。

 


♰♰♰


 数学教師の金山先生は4階の教室に取り忘れた教科書を取りに帰る為に3階から4階へと階段を登っている最中だった。いきなり叫び声が聴こえてきて金山先生は急いでその声が聞こえてくる男子トイレの方へと向かった。叫び声が聞こえてくる場所らしき男子トイレの前ではザコ二等兵の一人が堀田に誰かに見つかるかもしれないから廊下を見張るようにと言われたのでザコ二等兵はトイレを見張っていたのだが、退屈のあまり暇つぶしにと耳にイヤホンをつけてスマホで無料で見られるAV『あぶない保健室』を見ていた。AVの映像はヒトミ先生とそっくりのメガネをつけた白衣をまとった保険医が白衣をじれったく脱いでいる最中だった。ザコ二等兵の顔がいやらしいにやけた顔になった。ザコ二等兵の背後から何者かがザコ二等兵の肩に手を置いた。だが、ザコ二等兵はAVの動画に夢中で後ろを振り返らずに肩に乗せている手を軽く追い払った。


「ちょっと今、いい所だから~後にしろって。」


AVの映像はすでに白衣を脱いだ保険医が上から一つずつシャツのボタンを外している最中だった。保険医はわざと腰をくねくねと動かし、ボタンが外されるたびに保険医の隠れた白い肌が見えてくる。いまだに実物を見たことがないザコ二等兵にとっては無料動画で楽しむ以外なかった。だが、また再びいい所でザコ二等兵の肩に何者かの手が置かれた。


「だから、後にしろって!」


ザコ二等兵はまだ後ろを振り返らずにAVの映像に目を離せないまま、自身の肩に置いた手を追い払った。だが、なおもしつこく後ろからザコ二等兵の肩に手を置かれてさすがにザコ二等兵も怒ってせっかくのいい所を何度も邪魔する奴に一言注意してやろうと後ろを振り向いた。


「おいっ!いい加減しろ!しつこいぞ!って・・・・・・か、金山先生!!」


ザコ二等兵が後ろを振り向くとそこには口をへの字に曲げてしかめ面をした金山先生が立っていた。ザコ二等兵はあわててスマホを後ろに隠した。金山先生は大きいサイズの額縁メガネをかけて身長が高く、ガッチリとした体型でやや白髪が目立ってきたかりあげヘアをした数学教師だった。生徒に対して理屈や教育ではなく怒鳴って恐怖で自分に従わせようとするから生徒達には尊敬もなく恐れられているだけの存在だった。


「せっかくのお楽しみを邪魔したようだな、いったい何を見ていたのだ?え?」

「やだなぁ~先生。ぼ、僕はただスマホで保健体育の勉強をしていただけですよハハハ。」

「ふ~ん保健体育の勉強ねぇ。数学の授業も肩を何度も叩いても気にしないくらい真面目にやってほしいものだがな、これだから最近の若いものは~。」


ザコ二等兵は冷や汗をかいた。スマホで自分が何を見ていたのか金山先生にバレたらきっと先生にスマホを取り上げられてしまう。それだけではない、反省レポートなり校内清掃やらなんらかの懲罰がザコ二等兵に待っている。ザコ二等兵は仲間がいなければ一人で歯向かう事ができないザコ二等兵ゆえに先生に怒られることに怯えていた。この場をなんとか誤魔化さなければと思っていたその矢先にさらなる危機が起きてしまった。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


叫び声は金山先生が聴いた叫び声に非常にそっくりだった。金山先生はここに来た当初の目的を思い出した。ザコ二等兵の顔色が一気に青白く染まった。今、トイレの中で行われている事が金山先生にばれてしまったらお母ちゃんに報告される!それだけは避けたい。ここはなんとか誤魔化さなければ。


「今の泣き声はですねーきっと・・・・ねっ、猫の泣き声ですっ!」

「ふーん、ぎゃああああって鳴く猫の鳴き声か。そんな人のような鳴き方をする猫がいるならばむしろ余計見たくなった。」

「えっ!」


ますます状況を悪くしただけであった。そして金山先生はトイレのドアを開けた。


「おい!お前達っ!いったい此処で何をしているっ!」

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