♰♰♰ 夢か、幻か。※虫注意 ♰♰♰
古典の先生が黒板にチョークで文字を書きながら授業の説明をしていた。暖かい日差しが教室に差し込んでくるこの時間がもっとも眠くなる時間だ。黒川は肘を机の上に乗せて手に顎を乗せてうつらうつらと重いまぶたを開けたり閉じたりしながら現実と夢の世界が曖昧になっていた。
先生がいつものつまらない授業をしている。
世界が暗闇へと閉じる。
目を開けるとクラスメイト達が先生の授業を聞いているフリをしながら先生の言葉を耳から耳へと聞き流している。また暗闇へと閉じる。
目を開けると隣の女の子が黒板に書いてある文字をノートに写しているようで落書きを描いている。この学校の生徒は授業中に頭を勉強に使う事よりも授業が終わるまでの退屈な時間をどうやって潰すかに頭を費やしていた。
暗闇へと閉じる。目を開けてみると斜め横の机には落ち武者が座っている
・・・・おい、待て?今何を見た?夢うつつの目を凝らして見ると黒川の斜め前に頭に兜をかぶって肩に二本の矢が刺さっていて顔がドクロになっている落ち武者がいるじゃないか!ひょっとしてこれは夢じゃないのかと疑っていたらいきなり落ち武者が黒川を見た。落ち武者と目があって恐怖で歯ががたがたと音を出し、しばらく体が動けなくなっていると落ち武者は腰につけている刀を抜いた。鋭い刀には血がこびりついており、刀の先は黒川を向いている。やられる!と落ち武者に殺されるのを感じたその時、チャイムがなった。
「キーンコーンカーンコーン・・・・」
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った後で古典の先生が言った。
「えーちなみに来週はミニテストを行いますのでー」
「えっー!!!!!!」
突然の抜き打ちテスト発言で黒川は落ち武者から目を逸してしまった。古典の先生は生徒達からのブーイングの嵐を慣れているかのようにクールにかわして帰りの支度をして颯爽と教室から出て行った。黒川は急に思い出したように再び落ち武者の方へと目を向き治した。すると落ち武者がいた席にはクラスメイトの男子が座っていて机の上に出した教科書やノートを揃えていた。なーんだ単なる夢か、幻か。できれば来週のテストも幻にしたいけど・・・と思いながら黒川も机の上に乗っている教科書やノートをそろえた。
「黒川くん。」
まるでチョコレートのような甘ったるい声と甘ったるい臭いに誘われて目線を上げると目の前に自分に唯一優しくしてくれる女の子の瑞穂さんがいた。いきなりの事で黒川は舞い上がりながら背中を伸ばした。
「み、瑞穂さん!いったいどうしたのですか!?」
そう言うと瑞穂さんが慈母のような微笑みを黒川にかけた。
「あのね、朝は高畑くんにチョコを渡してと頼んだのだけど、本当は黒川くんにもチョコをあげるハズだったの。」
「ええっ!俺にチョ、チョコォ!?瑞穂さんが???」
瑞穂さんはうつむき何やら恥ずかしそうに体をもじもじさせ始めた。
「そう、朝は恥ずかしくって黒川君ではなくつい高畑君に渡すように頼んじゃった。でも、瑞穂が本当にあげたいのは黒川くんだけ・・・・瑞穂からの本命チョコ。受け取ってくれるよね?」
瑞穂さんは首を少し斜めにかしげて黒川の前にチョコを差し出してきた。綺麗な包装紙の正真正銘本命チョコだ。
「も、勿論です!例え、これが夢だとしても嬉しいっ!」
黒川は有頂天になって瑞穂さんからチョコを受け取るとさっそく包装紙を取り、中身を取り出した。瑞穂さんの気持ちが現れているハート型のチョコだ。
「瑞穂からのチョコ。勿論、黒川君は食べてくれるよね?」
「勿論ですともっ!瑞穂さんからもらったチョコならばご飯3杯分もいただけます!」
「喜んでくれてうれし~!是非、口の中で50回は噛んで食べてね!」
「何百回でも噛みますよも~!!」
ああ!ついにこの日が来た!俺にもついに春が!ざぁぁまぁみろ!本山ッ!東山ッ!いつもお前らにからかわれていた俺だけど、お前らより先に彼女を作ってやった!ひゃっーーーはははっ!ははははは!!!ははは、はは・・・はぁ??黒川がさっそくハート型のチョコを口の中に入れようとした時、チョコの中から白い幼虫のような物が出て来た。目にほこりでも入ったのじゃないかと思って目を凝らしてよく見た。
「ウジ虫ぃぃぃ!?」
そしてまたチョコの中からもぞもぞとウジ虫が続けて2匹、3匹も出て来た。
「うわあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
黒川は驚いて思わずチョコを手から離してしまった。ウジ虫入りチョコは黒川の机の上に落ちた。落下した反動でチョコの中からどっと数十匹ほどの蛆虫がうねうねと体をくねらせてチョコから外に出てきた。
「ねぇ、勿論、全部食べてくれるよね?黒川くん・・・・」
黒川は恐る恐る瑞穂さんに目を移した。瑞穂さんの顔はまるで学校中にいる体調が悪い生徒のように青白くて頬がげっそりして、目は白く、目元には深いくぼみができ、瑞穂さんの目と口からチョコの中にいたのと同じ白いウジ虫たちが外に出てきた。
「ぎゃあああああああ!!!!!!!」
「瑞穂からのチョコ・・・勿論食べてくれるよね?ね?ね?ね?ね?ね?」
おぞましい化物の顔をした瑞穂さんが黒川の机の上に落ちたチョコを手に取ると、黒川の口元まで持っていき、黒川にウジ虫がついたチョコを無理矢理に黒川の口の中へと押し付けさせようとした。黒川は涙目になりながら必死に口を閉じていた。
「食べてくれるよね?ね?ね?ね?ね?ね?絶対に残さずよ。食べて。食べて。瑞穂との約束よ?食べて。食べて。食べて。食べて。口の中で50回は噛んで食べて。食べて。食べて。食べて。食べて。食べて。食べて。食べてたべてtabeteたぁbe・・・・・・・・」
「そっ!そんなの無理っすよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
黒川は絶叫の悲鳴を出して叫ぶと急に視界がぱっと白く眩しい光に包まれた。しだいに目が慣れていき、白い光の正体が天井にある蛍光灯の光である事に気がついた。目の前に瑞穂さんの姿はなく、蛆虫の湧いたチョコもなかった。
「あははは~!よかった。全部、夢だったのかー。俺がチョコをも貰えなかったのもきっと夢だよナッ!!」
「何がよかったのだね?先生にも教えて欲しいな黒川君。」
「へ?」
古典の先生は先ほど教室から去ったハズなのにまだ教室にいて怪訝そうに黒川を見ている。いや、先生だけじゃなく、クラスメイト達に見られているし、笑われている。中でも黒川の斜め前にいる本山は後ろの席にいる東山と黒川を指して大爆笑している。やがて授業中にめったに手をあげない本山が手を直立不動で上げて古典の先生に言った。
「せんせーい!黒川くんがもっと熱心に古典の勉強がしたいと言っていました!」
「そんな事言ってないッ!」
「ほーそうかそうか、黒川くん。勉強熱心なのは非常によろしい。わかった。今日は黒川くんの要望に答えて学校が終わったら教室に居残るように。先生とマンツーマンで古典の居残り勉強をさせてあげましょう。」
古典の先生は内心は怒っていてもクールに授業中に居眠りをした黒川に鉄槌を下した。
「そんなぁー!!!!!」
クラスの皆がどっと笑いだした。その中でも本山と東山の声だけが飛び抜けてうるさい。
『キーンコーンカーンコーン・・・・・』
「はい。これで授業は終わりですね。えーちなみに来週はミニテストを行いますのでー」
「えっー!!!!!!!!!!!」
突然のテスト発言にクラスメイト達の黒川を笑う声が止んだ。クラス中にブーイングが出ているが古典の先生は生徒達からのブーイングをクールに無視して帰りの支度をして颯爽と教室から出て行った。クラスメイト達が突然のテスト発言にブーブー文句を言いながら教科書やノートをまとめている中、黒川は自身の頭を机に打ち続けていた。
「くっそー・・・なんだよ、さっきは瑞穂さんからチョコを貰えたかと思いきやおぞましいチョコを貰ったし、古典のテストは夢だと思っていたら現実だったしー、皆に笑われるし、あっーもうなんだよっ!今日は!もうっ!もうっ!もうっ!」
黒川は自身の気が済むまで何度も頭を机にぶつけた。近くにいた女の子二人が黒川の事を異常者か変質者でも見るような目つきをしてヒソヒソと話をしている。上社と東山は黒川の怪しい行動に腹を抱えて笑いながらスマホに撮った動画をネットにアップしていた。その動画は妙な行動をしている黒川だけに注目を浴びていたが、その黒川の横にいるクラスメイトの男の子の背中も映していた。クラスメイトの男の子は黒川が先程、夢で見た落ち武者となっていた生徒であったが、今は白目を向いて顔が死んだ落ち武者のように青白かった。




