♰♰♰ スリーアウト ♰♰♰
恐怖のあまり正常に動かなかった神経がようやく正常へと戻らせると内田と岡崎はやっと慌ててこの場から逃げだそうと出口へ向かいだした。それに気づいた逆さまの男はぐったりとして動かなくなった井上を岡崎にぶつけてきた。
「わっ!」
岡崎の上に井上が覆いかぶさって共に床に倒れた。
「早くどかしてくれぇー!」
内田が岡崎の上に覆いかぶさった井上をどかそうと血だらけの井上の体操服の袖を引っ張って体を横にずらそうとしたら逆さまの男が自分の背後へと着地した。男は四つん這いになり、まるで毒蜘蛛のように手足を動かして内田の所へと向かって来た。その人間とは思えない異様な姿に内田は今すぐに逃げようとしたら足元に何か冷たい物が触れた。内田は足元を見みると床に落ちたラケットバッグの中から青白い腕が伸びて内田の足に触れていた。ラケットバッグがもぞもぞと芋虫のように動くと中から口の周りが血で汚れている女の子の頭が出てきた。
「どうしてこんな小さなラケットバックに人間が入れるんだ???」
内田の疑問に答えるかのようにラケットバッグから女の子の上半身が出てきた。だがなぜか女の子の上半身から下がない。背骨と腸が外にはみ出しており、まるで上下が引きちぎられた後のように女の子の下半身がないのだ。これでラケットバッグに人が入れた疑問は解決した。だが、もうひとつ疑問が残る。
「おかしいっ!?どうしてコイツは下半身がないのに生きていられる???」
下半身がない女の子は内田が躊躇している隙に二つの腕で内田の片足をがっしりとしがみついた。
「しまった!」
内田が身動きが取れなくなってさらに四つん這いの男までもが内田の足元まで来ていた。そして井上の血で真っ赤に染まった口を開いてニカーと内田に井上を捕食する前に見せた笑みを浮かべた。そして四つん這いの男は内田の太ももにかぶり付いた。同時に上半身しかない女の子も内田の足首に噛み付いた。
「内田っーーーー!」
岡崎が呼ぶと内田の噛まれた二つの箇所からジェット噴射のような血がどばっと外へ溢れ出た。死んだ井上に覆いかぶされて床に倒れていた岡崎の顔に内田の血しぶきがかかった。岡崎は慌てて血で濡れた目を腕で拭きとって目を開けた。すると自分の顔の横には床に倒れて青ざめた顔をしている内田の顔があった。
「内田ぁぁぁぁぁ!!!!!」
いくら叫んでもその声はもう内田には届かない。化物二匹は内田の肉にかぶりつくのに夢中だった。その様子を間近で見た岡崎は思った。
「内田が終わったら次は自分の番だ・・・。」
嫌な直感が脳裏に一瞬でもよぎると体を身震いさせて今すぐにでもこの場から逃げ出さなければとその為にはまず恐怖で凍りついてしまった体を温め直さないと。岡崎の生き延びたい本能が冷たい恐怖を溶かす体のエンジンが温まってきて力をふるい出すと自分の上に覆いかぶさった井上を横にずらしてそこから這い上がる事ができた。
だが、井上をずらした時に聴こえた音で内田を食いつぶしていた化物二匹は岡崎が立った事に気付いてしまった。化物達は岡崎を逃すまいと内田を食いつぶすのを途中で辞めて岡崎に向かって来た。
「何とかしねぇと・・・!」
するとすぐそばに倉庫の中に雑に放り込んでおかれたテニスラケットが目に入った。岡崎はラケットを手に取ると上半身しかない女の子の化物の頭をラケットで殴った。女の子は床に倒れた。もう一匹の四つん這いで移動する男の化物が岡崎に向かってきたが、岡崎はラケットを8の字を横にめちゃくちゃに振り回して化物を自分に近づけさせないようにしながら徐々に後ろに下がって行き、なんとか倉庫の外へ出ることが出来た。岡崎は外から扉を締め、化物を倉庫の中へとしまった。岡崎はすぐにテニスコートの出入り口へと一目散に走っていった。
「なんだよっ!今のっ!」
人気が多い運動場へ向かう為に雑草が伸び放題に放置されている体育館の横へと曲がった。
「ああっ!よかった!人がいる!!」
目の前に男子生徒が一人で歩いていた。人に遭遇する事が出来た岡崎は安心感を得られた。岡崎はさっそく目の前にいる男子生徒の背後まで駆けつけると男子生徒の肩を叩いた。
「ああ!人がいてくれてよかった!大変だっ!テニスコートの倉庫に化物が現れた!まるでゲームや映画に出てくるゾンビその者が出てきて俺の友達が二人も襲われた!!俺の話を信じてくれないだろうけど、とにかくあなたも早くここから逃げろ!
・・・あれ?そういえば貴方はなんでテニス部の服装のままなんだ?テニス部の朝練はもう終わったハズなのに?口に何か加えているようだけど、一体何を口にくわえている?」
男子生徒はゆっくりと後ろを振り向いた。男子生徒の顔を見た途端、岡崎は驚いた。
「なっ!なんでさっき現れた化物と同じ顔をしているんだっ!」
男子生徒の口には血だらけの片腕をくわえていた。
「ぎゃあああああ!!!!」
岡崎が叫びだしたと同時に化物が岡崎に両手を伸ばしてきた。だが、岡崎は手に持っているラケットで化物の頭を殴った。化物が地面に倒れているその隙に岡崎は慌てて来た道を戻って逃げていった。
岡崎は走りながらまるで自分自身を安心させる為に暗示をかける呪文のような言葉を何度もつぶやいた。
「これは夢だ。夢なんだ。現実にはあり得ない事なのだから夢に違いない。きっとそうだ。これは夢なんだ。夢夢夢・・・・」
すると、呪文が通じたのか先ほど出て行ったはずのテニスコートの出入り口の前に死んだはずの井上と内田の二人が肩を並べて立っているじゃないか。
「井上!内田!」
岡崎は嬉しさのあまり目に涙を貯めて二人を抱きしめようと手に持っているラケットを地面に放り投げた。そして両手で井上と内田をもう二度と離さないかのように抱きしめた。
「よかった!生きていたのだな!やっぱさっき見ていたものはすべて悪い夢なんだっ!」
だが、二人を抱きしめた時に手が何か濡れた物に触れた。岡崎は自分の手を見た。赤いものがべったりと手についている。岡崎は2人から離れようとゆっくりと後ろに下がって井上の顔を見た。井上の顎がかみちぎられたかのようになかった。
「おかしい・・・!井上がまだ生きているのはどう考えたっておかしい!」
岡崎は自分の都合のいい夢から覚めて、悪い夢がまだ終わっていない事に気がついた。
「なのになんで生きているんだぁぁぁぁぁーーーー!?」
気づいた時には首に生暖かい物が流れていた。岡崎の首から今まで見たことがない血の量が流れ出ている。岡崎はもう一人のかつての友人の内田に首を噛まれていた。そして、岡崎の周りにテニス部の服装のままの男子生徒や四つん這いになってこっちに向かってくる男子生徒に上半身だけの女の子の化物達も次々と岡崎の周りに集まっていた。食べられる!為す術がなくなった岡崎は最後に渾身の力を込めて叫んだ。
「誰かぁぁぁーー!!!!助けてくれぇぇえええー!!!!!!!!」
岡崎は助けを求める声に全ての希望を託した。その頃、運動場では真由と麻子と夏樹の3人がグラウンドを走らされていた。運動部ではない真由はグラウンド一周を走る前にすでにヘトヘトで夏樹と麻子にどんどん離されていた。いつも部活で走らされている夏樹は余裕で走りながらもタイムウォッチを見ている原先生に質問できるくらいだ。
「原せんせーい。なんかテニス部の辺りから悲鳴が聴こえませんでしたー?」
「なんか、岡崎くんの声っぽかったような?」
夏樹に遅れてやってきた麻子も運動部ゆえに走りながら原先生に話しかけた。
「断固無視。岡崎達はどうせさっきのようにふざけているだけでしょ。ほっときましょ。」
原先生は岡崎達の事よりもタイムウォッチを気にしていた。
「それもそうですねー。」
後から遅れてやってきた真由が息を切らして苦しそうに言った。こうして岡崎は永遠の夢の世界へと旅立って行った。自分達の事で頭がいっぱいでいる間にも悪夢の病原体は静かに身を潜めて悲劇の感染を増殖して行った。




