♰♰♰ ツーアウト ♰♰♰
3人の男子生徒が悲鳴をあげるとちょうどバッティングマシーンから飛び出してきたボールが井上の大事な所に当たった。こうして岡崎と内田と井上の3人はしぶしぶテニス部のコートへと行き、テニス部がコートに置き忘れていったラケットバッグを岡田が持ち、3人はコートの隅にある倉庫へと向かい倉庫の重い扉を開けると暗闇の中から出て来たのはむせるほど舞い上がった砂ホコリだった。
「ゲホッ!ゲホゲホッ!」
「うへ!テニス部の連中は毎日ちゃんと掃除しているのかよ!」
「肺炎になりそー」
テニス部の倉庫の中はカビ臭さと何年も昔からたまってきた砂ホコリが充満していた。
「井上のせいだぞ。バッティングマシーンから出てくるボールをケツで受け止められるかどうかとか変な遊びを思いつくから。」
岡田は愚痴をこぼしながらラケットバッグをアルミ棚の上に雑に放りなげた。
「んなっ!遊ぶのは放課の間だけって俺はちゃんと言ったじゃんか、放課が終わった事に気付かなかったお前らはどうなんだ?」
「岡田があまりにも笑いすぎるから放課が終わるチャイムに気づかなかった。」
「んな!内田だってゲラゲラ笑っていたくせに!」
三人がお互いに責め合っていたその時、岡田の背後にある先程アルミ棚にしまったラケットバッグがいきなり動いた。
「わっ!」
岡田は悲鳴をあげて思わず後ろを振り向いたがラケットバッグは何も反応していなかった。
「なんか今、動いたよな?・・・・・」
「きっとかばんの中にある物が落ちたりしたのだよ。もうお互いに責め合うのはよそうぜー昼飯前だからケンカすると余計腹が減る。」
井上がお腹を抑えながら言った。争い事も生理現象により沈静化していった。
「その通りだな。早く飯にしてー」
岡田は背後にあるアルミ棚に置いたラケットバッグの前に腰を降ろした。
「うちの学校は飯の時間しか楽しみがないもんな。」
内田は愚痴をこぼしつつテニスボールが入った籠を倉庫の奥に強引に押した。籠は壁に激突して中に入ってあったテニスボールが数個こぼれ落ちたが内田達は拾う気がない。自分達の部屋も母親が片付けをしなさいと言われるまでゴミ屋敷状態だ。
やがて早めに器具を片付け終えた坊主頭の井上がさっさとこのカビ臭い倉庫から出て新鮮な空気を吸いこもうと扉の外へ出た。堅苦しい思いをしていた狭い倉庫の中から出て晴れて自由の身になり両手を上にあげて伸ばしてみた。新鮮な空気が一番だ。
すると頭上から何か冷たい物が一滴、その薄いハゲ頭に当たって跳ね返った。
「あっ!クソ!降ってきやがった!」
「え?雨振っているの?」
「やべー俺、傘持ってないわー。チャリで通勤しているのにどうしよ。」
まだテニス用具をしまっていた内田や岡崎は井上がいる倉庫の入り口付近を振り向いて雨はどれほど振っているのか確認しようとしたが、外は雲ひとつなく晴れていて、雨が降っているようには見えなかった。
「は?雨なんか振ってないけど?」
内田がそう言うとまた井上の頭を狙って何か冷たい物が一滴、二滴と続けて落ちてきた。井上は雨やどりをしようと慌てて倉庫の入り口の所まで入って来て倉庫の中でまだ作業をしている友人の方に顔を向けて言った。
「でもよ~なんかさっきから頭に冷たい物があたって頭がちくちくするんだよォォ~」
井上の顔を見た瞬間、倉庫の中で作業をしていた内田や岡崎の表情が固まった。井上の頭から顔に落ちてきた雫の色がなぜか無色透明ではなく、真っ赤な血の色をしていたからだ。
「なんだよ、お前らマヌケな犬みたいに口をぽっかり開けて~」
「井上・・・それ、雨じゃない。」
岡崎に言われると井上は自分の顔に滴り落ちた雫を手で拭いて手の平を見た。
「あれれっー?どうしてだ?雨なのに色が真っ赤だー????」
次の瞬間、井上の背後からいきなり全身が真っ赤な血に染まった逆さまになった男の上半身が天井からぶら下がって現れた。岡崎と内田は同時に叫びだした。
「うわあああああああああああ!!!!!!!」
「ああああああああああ!!!!!!!!!!」
「なんだよ~また、原先生でも来たのかよ~!」
「井上!後ろっ!後ろっ!」
「はぁ?岡崎、後ろに何かあるのか?」
井上は後ろを振り向いた。するとちょうど自分の顔を向けた所に逆さまに血だらけになってなぜか片腕がなく、両目を閉じている男の顔があった。
「しっ、死んでいる!?」
その時、血だらけの男は井上の言葉で目覚めたかのように真っ赤に充血した目をカッと見開いた。井上は逆さ吊りの男と目が会うと、男は口の両端を上げて獣のような牙を井上に見せつけた。
「笑っていやがるっ!!」
そして逆さまの男は逃げる隙も与えずに片手で井上の顔を掴んだ。
「うわっ!あああああああああああ!!!!!!!!!!」
人間の牙には見えない獣の牙で井上の顎を噛んだ。牙が突き刺さった顎から噴水のようにアーチを描いた血が飛び出た。内田と岡崎は怯えて後ずさった途端、背後にあったコートに置きっぱなしだったのを倉庫のアルミ棚の上に置いたラケットバッグとぶつかってしまった。ラケットバッグが砂埃を撒き散らしながら床に落ちた。倉庫中に埃が充満してそれ所ではないのにむせた。逆さまの男に顎を捕食されている井上はまるで蜘蛛の巣に囚われて身動きが取れなくなったハエのごとく空中でもがき続けていた。やがて内田と岡崎の耳の中にぺちゃくちゃと音を立てて捕食する鮮明な音が聴こえてきた。
「たっ、食べられている!!」
「うわああああああああ!!!!!!!!!!」




