♰♰♰ ワンアウト ♰♰♰
日当たりが強くなってきたお昼前の体育の時間。肌寒い風がこれから体育の授業の為に運動場に集まろうと下駄箱で靴を履き替えている一年生女子のうら若い肌に残酷にも襲いかかった。
無慈悲な風のイタズラに真由と麻子に夏樹の3人も襲われていた。3人は学校に余計な物を持ってきた罰を受けて前髪をぱっつんにされた刑罰を受けて不自然となった前髪を誤魔化す為に麻子は前髪をちょんまげヘアにし、夏樹は元々ボーイッシュヘアの為、ぱっつんされた前髪をワックスでなんとか斜めに向けて似合わせる事ができた。真由は元々、ボブスタイルで前髪をぱっつんにしていたが、眉毛よりもさらに上にアーチ型にぱっつんにされてそれをオシャレだと思っているごく一部のサブカル好きな人がいるが、どう見たって奇抜なだけのきのこヘアになっていた。
「きゃ~」
「さっむ~い~~~!!」
「体育館でも体育の授業はできるじゃんかよー」
「あんた達、まだ運動場に行ってないの?早く行かないと授業が始まっちゃうわよ。」
「んげっ!原先生!!」
夏樹が思わず先生の前で嫌そうな声を表に出してしまった。ただでさえいつも不機嫌な原先生の表情がさらに険しくなった。これ以上、原先生を怒らせるとさらに重い刑罰をくらわされるかもしれない。
「先生に前髪を切られたせいでオデコのあたりが寒くて体が動けませーん。」
毎日お洒落に気を使っている麻子は前髪をぱっつんにされた宛て付けを言った。
「私もでーす。」
ボブヘアの真由は前髪をぱっつんにされたせいで、まるで火垂るの墓の節子のように一昔古い時代の少女になってしまった。
「あ、そう。それなら体を温めるにはまず運動が一番よ。あなた達だけ特別にランニングの周を何倍にも増やしてあげる。」
「あれ~なんだか急に体が温まってきたよーな。」
麻子がおとぼけた調子で言うと真由もそれに合わせて言った。
「奇遇だね~私もなんだか体が熱くなってきちゃった。」
原先生は体中に溜まったガスを吐き出すかのようにため息を吐いた。
「ハァ・・・あんたらね、尾崎豊に触発されて窓ガラスを割る勘違い連中なの?校舎の窓ガラスを壊して許されるのは学校にいられる時だけよ。社会に出たらあんた達は自分達が勤めている会社の窓ガラスを磨くつまらない大人側に回るのだから。学校にいられる今が守られていて自由でいられる時なのだと今のうちに自覚して感謝しておくべきね。」
「ぎゃあああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あーーーーー!!!!!!!」
いきなり運動場の方から悲鳴らしき叫び声が聴こえてきた。
「何?今の???」
些細な事でも過敏に怖がってしまう真由は体を縮こまらせて臆病なうさぎのように鼻をひくひくと動かしていた。対する夏樹と麻子は冷静な態度だ。
「どうせ誰かがふざけているだけでしょ?うちの学校じゃ馬鹿騒ぎで悲鳴が聞こえてくるのはいつもの事じゃん。」
「そうそう、以前にいきなり叫びだした生徒がいたでしょ?それから毎日叫び続けていたけど皆もうすっかり馴染んできて今も叫び続けているし。」
「でもっ!でもっ!朝練に来ていたテニス部の男子生徒が行方不明だとか聞いたよ!」
「どうせうちの高校の生徒がいつもサボりに行くファミレスにでも行っているのでしょ。ほっときましょ。」
原先生もさっさと授業に向かいたいようだ。
「先生が無視していいのですか!?こうしている間に最悪な事態が起きているかもしれないのに!」
夏樹と麻子は真由のいつも過剰に反応しすぎてしまう所に『またかよ』とうんざりしていたのだが、またもや雄叫びが聴こえてきた。
「ぎゃああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!!!!!!!!!!!!!!!!」
夏樹と麻子は今度こそ真由の言葉を無視できない何か危険なニオイを感じた。
「ヤバイ。この悲鳴はうちの学校で起きている通常の叫び声じゃないよ。」
「きっと何か起きた。」
そう感じたのは夏樹と麻子だけではなく原先生もだった。
「すぐに確認しに行きましょ!」
原先生と真由と夏樹と麻子の3人は叫び声が聞こえてくる運動場へと駆け足で向かった。叫び声はやまずに続いていた。しかし運動場にいるのは中央で集まって叫び声に騒いでいる同級生の女の子達だけで後は何もない。夏樹は正体が見えないのに耳に痛く聞こえてくる叫び声に動揺した。
「一体なんなのよ?どこから叫び声が聞こえてくるの!?」
麻子はカラオケで鍛えた聴覚で悲鳴が聴こえてくる場所を特定した。
「先生っ!倉庫です!野球部の倉庫から悲鳴が聴こえてきますっ!!」
「でかしたっ!」
原先生は野球部が利用する倉庫へと向かうと真由と夏樹と麻子も原先生の後を追った。」
「どうしよっ!どうしよっ!通り魔とか強盗とかお化けが出たらどうしよー」
「真由。お化けだけはないって。」
夏樹も内心はパニックを起こしているが真由の異常なパニックぶりを見ると『真由みたいになっては駄目だ。』と不思議と冷静にならなければというスイッチが入った。そして4人は野球部が利用する倉庫へとたどり着いた。原先生の手が倉庫の引き戸に触れた。
「きゃああああああ!!!!!!あああああああ!!!!!!!」
「ちょっと真由っ!まだ倉庫の中を見てないのになんで叫んでいるの!」
真由は目を開けて麻子の方を振り向いた。
原先生は扉に手を触れただけでまだ開けてなかった。
「あれ?まだ扉を開けてなかった。」
「じゃあ何でさっきは倉庫の中を見もせずに叫んだのよ?」
麻子が尋ねた。
「どうせ叫ぶ事になるだろうから前もって叫んでおこうかなって。」
「あんた達、コントをしている場合?扉をあけるわよ。」
原先生が扉を開けてみたが、中には野球部が使う道具しかなかった。
「何もない。でもまだ、叫び声が聴こえてくる。」
運動場で叫び声がした場所を言い当てた麻子が言った。
「わかった!倉庫の方向から声がするって麻子が言っていたじゃん。」
夏樹に言われて麻子がうなずいた。
「叫び声がした先にたまたま倉庫があっただけで倉庫の裏から叫んでいるんだよ!」
この場にいる全員が倉庫の奥を見つめた。倉庫の奥は壁1枚だけしかない。その壁1枚を隔てた奥に今も恐るべき恐怖の正体がいる。
「とにかく、確かめに行くしかないわね・・・・・。」
原先生までもが怖気づいていた。恐怖の正体を確かめるべく倉庫の中から外へ出て、倉庫の裏へと向かった。叫び声に近づくにつれておぞましさも増していく。
そこにどんな恐ろしい魔物が住んでいるのだろう?
そしてついに4人は倉庫の裏にある野原までやってきた。すると目の前に野球部が利用するバッティングマシーンがあり、そこから揃い縫い目のボールが飛び出してきた。4人はあっけらかんとなってボールの行方を見た。
「いてっ!いてててててててててててっっっっ!!!!!」
バッティングマシーンから飛び出してきたボールは坊主頭で左右の眉毛がひとつに繋がっている1年生の男子生徒の井上が後ろを向いて突き出しているお尻に当たった。
「いってータマにタマがぶつかったー!!!!!!」
バッティングマシーンの横には同じ1年生の内田と岡崎が原先生達に背を向けて腹を抱えて笑っていた。原先生はけして笑えなかったが。この男子生徒3名は真由達と同じクラスメイトで体育の授業が始まるまでの退屈な放課の時間をバッティングマシーンから飛び出してくる野球のボールを尻で受け止められるかどうかふざけたゲームをしていたのだ。
「息子バットでぶちかませー!」
「ぎゃっはははっははっは!!!!・・・・・・・はは???」
内田は腹を抱えて笑っていたが、背後で何か巨大な負のオーラを感じとり後ろを振り返ると背後に般若のお面のような顔つきをしている原先生と自分達の事をまるで変態でも見ているかのような痛い眼差しを向けてくる真由と麻子と夏樹がいる事に気がついた。
これはまずいと内田は隣にいる岡田の腕を軽く突っついた。
「はははっ!ったくなんだよ!」
岡田は軽くキレながら内田の顔を見ると内田が非情に気まずそうな顔をして後ろを指した。岡田は内田が指した方へと目を向けると腹を抱えて笑っていたものも笑えなくなった。原先生と同級生の女の子の前で下品なジョークを披露してしまった事に気づいてしまったのだ。そして、井上も内田と岡田の反応がいきなりピタリと止まった事に気がついてようやく尻を原先生と3人の女の子の同級生に向けるのを止めて正面を向いた。
「なんだよ~いきなり黙り込んでどうした~??」
井上が内田と岡田がいる方を見るとその背後にいる原先生と3人組の存在に気がついた。
「あれ?放課ってもう終わっていたの???」
「終わったのはアンタ達の人生の方よ。罰として今からテニス場に行ってテニス部が片付け忘れた用具を片付けてきなさい。」
「えっー!!!!!!!」




