♰♰♰ 自由への逃亡 ♰♰♰
神宮西と黒川も職員用玄関へと向かった。
その途端、背後からいきなりパシャーン!と何か割れた音が聴こえてきたから黒川達は一斉に後ろを振り向いた。
4階から徐々に下へとくだって行った炎はついに黒川達がいる一階の天上まで達し、後ろの廊下の突き当りの所にある蛍光灯が炎で燃えてガラスが割れて先程の大きな音がしたのだ。
天井の使っている木材もマシュマロのように溶けていき炎で焼かれて落ちた木材の一部が片足のないゾンビの上に落ちて来た。黒川達はあまり見たことがない炎の勢いに息をするのも忘れて見とれているとめずらしく名城から言った。
「早く抜けるぞ。」
返事をする必要もなく職員室用玄関へと走りだした。炎が今まで起きた苦しみや悲しみをすべて飲み込もうとする勢いで次々とゾンビ達の頭上に炎が落ちてきた。丸之内や金山先生の残骸も炎に飲み込まれて行った。
「これでよかったのだ・・・。」
黒川も先に進んでいった神宮西や名城の後に続いて職員室用玄関へと向かった。
上社とみきと神宮西は持っていたハンカチで口を塞ぎながら腰をしゃがんで走って行ったが、ハンカチなんて持っていない池下と名城に黒川は腕で口を抑えながら腰をしゃがんで職員室用玄関へと向かった。
背中でひしひしと痛むような熱さが背後から迫ってくる炎の存在を感じさせた。後ろを二度と振り返らずに突き進んで行ったら職員用玄関へと到着した。
玄関のドアはまるで黒川達を歓迎しているかのように全開に開き、すぐに校舎の外へと出ると黒川達は一旦、自分達の背後にある校舎を振り向いた。校舎を燃やす炎の音がまるで校舎に取り残された燃え盛る亡者達の叫び声のように聴こえた。感慨深くなっている暇はないとすぐに前を向き直すと、神宮西が左右を見渡して言った。
「あらら・・・・どうやらうちらは豪華なパーティに乗り遅れちゃったみたい・・・」
駐車場へと向かう右斜の一本道は先導を進んだ生存者達が校舎の外にいたゾンビ達を派手に蹴散らしてくれたのか道のあちこちには炎が燃えており、全身が炎にまみれたゾンビが燃えている自身の体の灰を撒き散らしながら徘徊していたり、ラグビー部のゾンビ達が車に轢かれて体が伸びていたり、体の一部がなかったり、電灯の天辺にお腹を突き刺さって息絶えていたりしていた。
「掃除が楽になった。」
名城が駐車場へと向かうと後に続けと黒川達も駐車場へ走りだした。道端には倒れたゾンビや火炎瓶によって全身を燃え尽くされたゾンビを避けて進まなければならなかった。しかし、まだ生き残ったごくわずかなゾンビ達が黒川達の進む道の前に現れた。
そこで皆の先頭に立ち、ゾンビの前に立ち向かったのは猛突進型の神宮西や名城ではなく、なんとみきだった。
みきの手にコードレス脱毛器を手に持ってスイッチをオンにすると自分達に向かってきたゾンビの頬に熱々のコードレス脱毛器の熱でゾンビの顔をドロドロに溶かして脳みそまで溶かした。池下も三角定規でゾンビ達を殴ったり足蹴りを食らわしたり、頭突きをしながらゾンビ達を追い払っていた。
ゾンビとの格闘の最中にみきと池下の目が合うと言葉の代わりに目だけで愛を語り合う愛し合う者だけの独自のコミュニケーションを交わしていた。その一部始終を見た名城がおえっ!と吐きしそうな動作をした。
池下とみきの後ろを走る後の4人はみきと池下の二人だけの世界に距離を置いてわざと池下とみきに追いつかない程度に走っていた。
「何か無性に早く終わらないかなと思う。」
上社の表情がもう死んでいるような顔になった。こうしてなんらかんら無事に駐車場まで辿り着いた。駐車場にはゾンビの姿はいなかったが代わりに飛び散っている血の嵐が駐車場で起きた酷さを現していた。後は車に乗り学校から出るだけだ。だが、神宮西が重要な問題がある事に気がついた。
「で?どうやって車に乗ればいいの?」
「そういえば車の鍵を開けるピッキング技術を持っている豊田に頼んで車に乗る計画だったか。で、肝心な豊田は俺達よりも先に学校を出て行ったというワケか。」
上社はまるで自分自身を責めるように片手で額を叩いた。
「つまり、みきは車に乗れないって事!」
「漫画で何度も使い古された缶詰はあるけど缶切りがない状態にまさかなるとは・・・。」
神宮西は車のない今後の事を想像するだけで気が疲れてしまった。
「じゃあ!みき達はまだ化物達がうろちょろいる外を歩かなきゃいけないワケ?」
上社が黙ったまま深くうなずいた。
「いやああああ!!!!!みきはもう歩けないのにっー!!!!!」
今回は誰もみきがわがままだと思う者はいなかった。皆同じ気持ちだった。もうこれ以上危険に巻き込まれるのも気力的にも体力的にも限界だ。
「ほれ。」
黒川の声がした途端、神宮西の胸にいきなりの小さな物が向かってきた。神宮西があわてて小さな物を手に取ると、それが何なのか確認した。
「鍵???」
「さっき廊下で金山先生が俺に車の鍵を渡していたのをもう忘れたのか?」
「そっか!」




