♰♰♰ 保健室からの脱出 ♰♰♰
保健室の中にいる餌達が保健室の中が覗けないように敷居のカーテンを締め、本棚や薬品棚のバリケードを貼られ保健室の電気まで消されて中の様子が真っ暗になるとやけに保健室の中は静かになった。
先程までは外の運動場まで罵声や悲鳴など様々な感情が響いていたのに。今じゃ肌寒い風が隙間から通る音しか聴こえてこない。廊下側からは保健室の中から窓を画鋲でとめられた布で覆い隠されて中の様子を廊下にいるゾンビ達にわからないようになっていたが、男子生徒のゾンビが窓ガラスに手を突っ込むと簡単に窓ガラスが割れて割れた穴の中から腕を入れて生前の記憶を頼りにドアの鍵を開けたらいとも簡単にドアが開いて保健室の中へ侵入した。
運動場側の割れた窓ガラスから保健室の中に侵入するのを拒もうとしているバリケードの積まれた椅子を崩すと椅子はジェンガのように簡単に崩れた。外にいるゾンビ達が次から次へと割れた窓の穴から保健室の中へと侵入した。
まるでわざと自分達を保健室に招いたかのように簡単すぎる侵入だが、文明を捨てたゾンビ達は罠とは考えずに次々にと餌を求めて保健室に入ってきていた。だが、保健室にいるはずの目当ての餌達がいない。突如消えた餌達を探して屍達は保健室をさまよった。するとどこからか音が鳴った。
『愛している~お前の事を愛している~愛している~愛している~世界で一番、愛している~愛している~愛している~世界で一番、愛している~愛して~ピッ!』
安い歌詞と安いメロディのポップミュージックが部屋中に響き渡り、その音がする方を見ると保健室の奥にあるベッドの中が見えないように囲まれた敷居のカーテンに二つの影が浮かんでいた。二組の人間のような形をした物が向かい合わせになってベッドに座り、まるで口づけをしているかのように見えた。
餌だ!ゾンビ達は餌がいる保健室の奥のベッドに向かい、ベッドを取り囲むと大勢のゾンビ達が敷居のカーテンを力まかせに引っぱるとフックからカーテンを引き離した。ゾンビ達はベッドを視て驚愕した。
そこには自分達が待ち望んでいた餌ではなく、保健室にあった人体模型の吉田くんと骸骨の田中さんが向かい合い、まるでキスをしているかのようにベッドの上に座らされてあった。じゃあ自分達が探し求めていた餌達は今どこへ?とゾンビ達は周りを見渡した。
中には人体模型の体の中にある内蔵を本物だと思って食べようとしているゾンビもいた。周りを見渡してどこかへと消えた餌を探している最中に一匹ののゾンビが床に滑って尻もちを突いた。床についた手に何やらぬるぬるした感触とアルコールの臭いがした。シュッといきなり風を切るような音がした。
ゾンビ達はそろって音がした方へと顔をむけた。音は保健室の廊下側のベッドの方からしたのに廊下側のベッドの上を見ても餌が見当たらない。いや、いた。ベッドの上にではなく、ベッドの下に黒川と黒川を挟むように左に名城と右に神宮西がうつ伏せになっていた。そしてその横にある掃除道具箱の中からスマホを片手に持った上社が出てきた。黒川達が下にいるベッドと向い合せの壁に置いてある薬品棚の棚の中身が外に出てあり、薬品棚の中から池下とみきがそろって外に出てきた。
黒川の手には先端に灯火がやどったマッチの棒を掴んでいた。黒川は灯火がついたマッチ棒を挟む親指と人差し指の二本の指を離すとマッチ棒はゆっくりと黒川の顎の下にある液体がおちている地面に堕ちた。ボォォ!と液体が激しく燃える音がすると炎は床にこぼれている液体の道を辿って炎の花道を作りながら道のゴールとなっているゾンビ達がいる保健室の奥のベッドの方へと向かっていた。
ゾンビ達が足元で液体を踏んでいる事に気付いた後にはもう遅すぎた。液体はゾンビ達が集まっているのベッドの周りを囲むように流れていた。ベッドも、先程無理やり剥がした敷居のカーテンも、抱きしめ合う骸骨と人体模型まで液体が塗られてあった。
ゾンビ達は気がつけば自分達は明るさにつられ、燃え盛る炎に飛び込んでしまった虫となっていた。ゾンビ達は燃える人体をどうしようもなくあたふたと動き回って保健室のありとあらゆる所に火を付け回した。吉田くんと田中さんも口付けをしたままロマンチックに二体の愛の炎で燃えていた。その様子を見て上社が口を開いた。
「さて、そろそろお暇にするか。」
先に上社が廊下に出ると後から池下とみきも保健室から外へと出た。神宮西が両手を使って仰向けのまま後ろへと下がりベッドの下から外へと出ると隣の真ん中のベッドの上にいる炎につつまれたゾンビと目があった。
「ヤバイ!ゾンビが来る!」
名城も後に続いてベッドの下から出ると隣のベッドの上にいる炎に包まれたゾンビがこっちのベッドへと飛び込んで来た。まだベッドの下には黒川がいる。
名城と神宮西が急いでまだベッドの下にいる黒川の片足ずつを手に持つと強引に黒川をベッドの下から引き釣りだした。炎に包まれたゾンビは黒川達が先程下にいたベッドの上へと飛び移った衝動でゾンビの燃えた衣服や皮膚や肉の火の粉を撒き散らした。
三人は火花が体のあちこりに当たり煙と灰を少し吸ってしまい咳込みながらも保健室から廊下へと脱出した。その後で黒川達の後を追って炎にまみれたゾンビもあきらめずにベッドから保健室を出るドアへと飛んだ。
だが、池下が素早くドアを閉めた為に炎に包まれたゾンビは保健室から餌がいる廊下へと出る直前に閉まった扉に阻まれて顔が扉に当たり、体が黒い灰となって飛び散っていった。廊下にいる神宮西があらかじめヒトミ先生が使っている机の中から取っておいてあった鍵で保健室のドアに鍵を閉めた。
安心する間ももったいないともう体に身に付いている上社と池下とみきと名城はすぐに職員室用玄関へと廊下を真っ直ぐに突き進んでいった。元々廊下にいた殆どのゾンビ達は保健室のドアが開いた時に保健室に入った為に廊下には金山先生の手によって体の一部を欠落してしまい保健室に入りそびれたゾンビくらいしかいなかった。
黒川も先に進んだ人に続こうとしたのだが、廊下に転がっている先程までは生きていた筈の丸之内と金山先生の骨と衣服だけを残している遺体にしばらく目が張り付いて離れないでいた。体の一部が欠落したゾンビ達は肉の一部がこびりついる一本の骨をしゃぶり、はらわたを食いちぎっていた。神宮西が黒川の制服の裾をつまんだ。
「行こ。」
神宮西が心配する間でもなく黒川の目には先程の丸之内が死んだ後のようにゾンビのような死んだ目ではなく、前へと向かおうとする目で金山先生と丸之内の事を見ていたのだ。
「ああ。」




