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♰♰♰ 届かない声 ♰♰♰


 神宮西が漫画がたくさん入っていた本棚を窓の前へとずらして外にいるゾンビ達が保健室に入ろうとするのを防ごうとしたが、本棚が重すぎて一人の力では押すのは難しかった。


「誰か手伝って!」


神宮西の声を聴いた上社が神宮西の元へとかけよって一緒に本棚を押すのを手伝った。二人の力で本棚を窓の前へとずらす事ができたが、それは本棚が置いてある窓の所だけでゾンビ達は本棚が置かれていない別の窓ガラスに移られて次々に窓ガラスを割られるだけだった。


そしてついに一匹分のゾンビの体が侵入できるくらいの大きさに窓ガラスが割られた。外にいる一匹の女子バスケ部ゾンビの上半身が保健室の中に侵入してきた。


池下がすぐにかけよると先程、神宮西がギャル男を倒すのに使った椅子を手に持ち、割れた窓ガラスから保健室の中へと侵入してくる女子バスケ部ゾンビを椅子で叩いて追い払っていたのだが、一匹のゾンビを追い払っても別の所でもう一匹の男子生徒のゾンビがまた割れたガラスから頭を保健室に侵入してくる為に池下はまるで永遠に終わらないモグラ叩きをしているように思えた。


外側の窓ガラスに皆の注目が向いていたその時、背後にある廊下側のドアの引き戸がいきなり勝手にゴトゴトと揺れだした。


「今、ドアが揺れなかった?」


神宮西がゆっくりと後ろを振り向いた。すると廊下側のドアが外から激しく叩かれて揺れだした。亡者達がそろって雄叫びをあげた。それは今まで聴いた事がないこの世には存在しない未知の音だ。窓を割る音、ドアを叩く音、亡者の雄叫びと悲鳴が混ざり会い地響きのように保健室は揺れた。


保健室の中はまるで人間が手に持ったケースの中に入れられているハムスターのような気分だ。上社はドアの前に来てゾンビが保健室に入ってこないように体でドアを抑えた。すると上社の顔の隣から木製の何年も修理していないドアを突き破りゾンビの手が保健室の中へと飛び出してきた。


「うわっ!」


神宮西はひとみ先生が利用していた机をバリケードが貼られていない廊下側の窓ガラスの前まで運び、その上に椅子や電子レンジなどを置いてバリケードを貼ろうとしたのだがゾンビ達が割れた窓ガラスから手を出して外からバリケードを押してきた。


「人数があっちの方が上回る。バリケードを作っても破れられるのは時間の問題だ!」


上社が保健室の中にいる皆に向けて言うと名城がいきなり激しい咳払いをした。次にみきまでもが手で口を抑えて激しい咳をしながら合間に言った。


「げほっ!げほげほっ!・・・・なんかここ息苦しくない?」


みきの咳払いはいずれ止むだろうと楽観視していた上社だが、自分までも喉がやけに焦げ付いてきた。池下は思う所があるのか顔を真上にあげた。


「煙がみえる・・・・。」


上社は天井を見上げた。天井の壁の隅の隙間から灰色の煙が保健室へと入り込んでいる。


「やばいぞ!炎がもうすぐそばまで来ている!」

「どうするのよっ!?このままじゃあゾンビに食べられる前に丸焼きにされる!」


ずっと冷静でいた神宮西ももう自分自身を誤魔化し続けるのが無理になってきた。


「いやっ!ゾンビと炎に焼かれる前に煙に殺られてしまう!とにかく煙を吸わない事だ!一酸化炭素中毒になる!なるべく腰を低くした方がいい!」


上社がズボンのポケットに入ってあったハンカチを取り出してハンカチを口の周りに巻きつけた。神宮西も上着のポケットからハンカチを取り出して自信の口を抑えようとしていたら自分の斜め後ろにいたみきがパニックを起こさずに妙に落ち着きながら言った。


「無理ね。もうお手上げ。奴らの勝利よ。みきは焼け死ぬのとあの不細工なゾンビになるのだけはゴメンだから煙をいっぱい吸い込んであきらめる事にするわ。」


本当にここで諦めていいのだろうか?今まで起こしてきた奇跡は果たして運がよかったからなのか?神宮西はふと保健室に入ってからまったく動きを見せない黒川を見た。


黒川は壁に背をもたれて床にしゃがみこみ、理科室で学校から出ようと皆に呼びかけていた頃の元気はどこへ行った?奇跡にしろ、偶然にしろ神を待つよりも自分から行動を起こさないかぎり何も起こらないではないか。だから神宮西は行動に出た。うずくまっている黒川に近寄ると黒川の両肩を揺らした。


「黒川っ!何ぼやぼやしているの!?このまんまだと皆、死んじゃうのよっ??」


黒川の耳には化物達がすぐそばまで迫ってきている音も神宮西の声も届いていなかった。幼馴染の親友を亡くし、抜け殻のようにすっかり廃人と化していた。


名城はバリケードを作る事もゾンビの侵入を阻止しよともせずにベッドの上にあぐらをかいて座っていた。怪我のせいで熱が出はじめて汗を流し、依存症のせいでしびれた手で早くタバコを吸おうと口に加えたタバコに堀田からパクったライターで火を何度もつけようとしたが、カチッカチッと自分達に残された物はなにもないと知らせる狂わしい音だけが鳴り響く。


名城は自身の苛立ちを他へ向けるかのように外で窓を突き破っているゾンビ達に向けてライターを投げつけた。行動を起こそうとしているのに何も出来ない程、悔やむ事はなかった。

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