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♰♰♰ プロメテウスの火 ♰♰♰

消しても変わりはいくらでもいるかのように生きている者の前には必ず死んだ者が現れてくる。ゾンビ達は圧倒的な数でいつの間にか生徒達と距離を縮めて生徒達を囲んでサンドイッチのように挟もうとしていた。ゾンビ達に迫られるにつれて生存者側も逃げ場がなくなり、お互いに身を寄せ合うように集まってきた。


「もう、ゾンビがここまで・・・!」


校舎でゾンビと対決していた時はゾンビの数が少なかったおかげでうまく逃げ出せたのを自分達の能力のおかげだと過信しすぎた。気がつけばゾンビの大軍は円になって餌を囲んでいた。逃げ道すら埋まっている。火炎瓶代わりの試験管はもうない。


「強力な武器よりもゾンビの人海戦術の方が上なのね。」


家庭科部の子がつまらなさそうにハンドミキサーを回してこびりついたゾンビの肉を周辺に撒き散らしながら言った。


「しょせん武器になる物がないとなにも出来ない子供なのだと嫌でも自覚させられる。」


夏樹が素直に降参を認めて拳をおろした。


「いや。」


夏樹が突如声がした先を見た。囲碁将棋部の少年が校舎の地面に放りっぱなしだった使い古した竹ほうきを拾い上げた。


「そんなボロっちいほうきで何をするの?ゾンビの顔でも掃除する気?」


麻子が馬鹿にしたように言うと囲碁将棋部の少年はほうきを高く持ち上げた。


「武器や人海戦術よりもさらに強力な物。それはすなわち知能。」


囲碁将棋部の少年は手に持った竹ほうきの先を地面に倒れているゾンビラグビー部員の体から燃えている炎に触れた。ほうきの先に火が灯るとそれはまるでオリンピックの聖火トーチのように炎は天へと登る為に上へあがった。燃え上がる炎を見ながら囲碁将棋部の少年はぽつっとつぶやいた。


「これが人間に知恵を与えたプロメテウスの火だ。さぁ、僕の後に続くのだ!」


ただの竹ほうきがプロメテウスの聖火へと変貌した。囲碁将棋部の少年はトーチの先を自分が進む先へと向け進路の行く手を邪魔するゾンビ達を聖火トーチで追い払い、道が開くと目的地である駐車場へと向かって走った。囲碁将棋部の少年の後を生徒達が続いた。燃え尽きたプロメテウスのトーチの火の粉が風に乗って囲碁将棋部の少年の横をホタルのように飛び散っていった。火の粉の熱さも忘れてまるで時が緩やかに進んでいるかのようだった。しだいに通行の妨げとなるゾンビが減っていき目的地である駐車場がだんだん大きくなってきている。囲碁将棋部の少年は後ろを振り返りながら仲間を安心させようと叫んだ。


「駐車場まで近いぞ!!」


囲碁将棋部の少年が後ろにいる仲間たちが歓喜しているのを見ていつもしかめ面した顔をほころばせて顔を駐車場がある前へと向き直した。すると突然目の前に横から全身炎にまみれたゾンビが囲碁将棋部の少年の前に立ちふさがり襲いかかってきた。


「わあああああああ!!!!!!!!!!」


つい自分は死んだかと思ったその時、横から目にも止まらないスピードで2t平ボディトラックが全身炎にまみれたゾンビを跳ね飛ばした。囲碁将棋部の少年はあまりにも速さに自分の頭が追いつかずに一瞬、何が起こったのかわからなかった。2t平ボディトラックの助手席のドアの窓ガラスが下へ引いて行くと見覚えがある顔が助手席から外を覗いた。


「みんな~!!!おまたせっ!!!」

「ふくぶちょぉぉぉぉぉ!!!!!」



家庭科部の子達が顔を見ただけで安堵する副部長の名を呼んだ。トラックの中は窓側の助手席に副部長が座りその隣の真ん中の席に豊田がそして運転席には大型免許を取ってはいないが普通自動車の免許なら持っている家庭科部の部長がトラックを運転した。


「急いで来たから申し訳ないのだけど荷台にある荷物を片付けてもらってもいいい?」


トラックの荷台の中には学校でいらなくなった机や椅子など廃棄物におまけとしてダンボール箱を被せられたまま死んでいる原先生のゾンビの死体があった。生徒達が荷台から余分な物を外へ全部取り出すと荷台の中に生徒達が全員乗った。副部長は開いた窓から顔を外へと出して背後を見渡し、まだ校舎に残っている黒川達を除く全員がトラックに乗ったのを確認すると部長に聴こえる声で言った。


「おっけぇーい!全員乗った!もう出発できるよぉー!」

「よしっ!これからパンナコッタを作る為にコンビニに行って牛乳を買いに行くぞ!」


部長がまるで合図のように言うと車にエンジンをかけた。


「パンナコッタ食べたいっ!」

「パンナコッタ!!」

「パンナコッタ!!」


荷台の中では家庭科部部員の奇妙な連帯感が生まれていた。部長はアクセルに載せた足を踏むとハンドルを回した。


「わわわっ!危ないっ!!!!目の前に女子生徒のゾンビがっ!!!」


豊田が家庭科部部長の荒れた運転のせいで体がよろめきながら警告した。


「私達の車にブレーキなんていらない!あるのはアクセルだけでおっけぇーいっ!!」


部長は躊躇する事なく女子生徒のゾンビを車で引き飛ばした。車に轢かれた女子生徒のゾンビは体が何回転も宙を舞った。そして地面に落ちて横向きに転がっていった。

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