↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/143

♰♰♰ 策は尽きた ♰♰♰



声までもが以前の金山先生とは変わってこの世の者の声には聴こえない。


「素直に従うわけがない。」


上社の強い反論の声にはかすかに緊張と震えが感じ取れた。それは上社が今までネットの広大な海で知り尽くしたオカルトの他人事の恐怖ではなく、実際の空気で、実際の肌で直に感じる恐怖だ。


「お前らもあいつらのようにはなりたくないだろ。」


黒川は金山先生が指した後ろを振り向いた。そこにいたのは先程見た生徒用玄関にいる体の一部を欠落した生徒のゾンビ達だ。


「先生がやったのかっ!」


黒川は前を向き金山先生に向けて怒りと悲しみが入り混じった感情をぶつけた。化物が人を襲うのは理解できる。だが、化物ではない人間が残酷な行為をするのは信じ難い事だ。金山先生は黒川達が恐怖で固まっている姿を見て満足した顔を浮かべた。


「大人しく先生の言う通りに従った方が懸命だな。」


黒川は親指で後ろを指して言った。


「いいや、むしろ俺はああなりたくないから先生には絶対に従わない。」




丸之内は床に倒れてから除々に正気を取り戻していた。痛みはある、頭の中で船の汽笛のような音が鳴り響いて耳の鼓膜が砕けそうだが思考だけはいち早く正常に戻ろうとしていた。

丸之内はまだぼんやりとした視界の中で殴られた痛みのせいで顔を動かせずに目だけを上げるとぼやけた大人の体格をした男が自分の横に立っている。声からして金山先生だ。


金山先生は今、亮ちゃん達に話し掛けている。亮ちゃんは金山先生と言い争っている。何があったのだろう???丸之内に好奇心が芽生えたその時、思考が正常に戻った。そうだ僕は何者かに背後から殴られた。


この場にいなかった金山先生がいるって事はつまり・・・僕を殴ったのは金山先生っ!丸之内は自分の横にいる金山先生は自分が目覚めた事を知らずに亮ちゃん達に話し掛けている。今が反撃のチャンスじゃないかと丸之内はこっそりと片手を伸ばして床に手放したちりとりを掴もうとした。


「呆れだな。お前達は先生や大人の言う事には絶対に従わなきゃいけないと親か教わらなかったのか?」


丸之内の伸びた中指の先がちりとりの柄に触れるまであと少し。名城は丸之内が復活して金山先生に反撃を狙おうとしている事に気がつくと金山先生の注意を自分に向かわせようと皮肉を込めた言葉を金山先生に向けて言った。


「生徒を後ろから殴る先生以外はね。」


名城が金山先生の注意を自分に向けてくれている間に丸之内はついに一度は手放してしまった武器であるちりとりを掴み取った。さぁ、これからが反撃の時だ!


「わかってないようだな。なら先生が今から出来の悪い生徒はどうなるか実戦してあげようじゃないか。」


金山先生の片足がまるでクレーン車の大鉄球が大空の見える高さから捨てられた車を潰すようにちりとりを掴んだ丸之内の片手を踏み潰した。丸之内の痛みが黒川達にも伝わってくる悲痛な叫び声をあげた。


「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」


黒川が校舎中にまだ潜んでいるゾンビ達に気づかれる心配も考えずに吠えた。金山先生は自分に反論するならさらなるバツがまっているぞと言わんばかりに丸之内の片手を踏みつけている足をあげると今度は丸之内の頭の上を踏んだ。


丸之内は再び頭を攻撃され、さらに顎を床に強く当たった為に口の中で苦い鉄の味が染みてきた。先程、金山先生に踏みつけられた中指と人指し指の二本の指がかすかに震えているだけでそれ以上は動けなかった。きっと指の骨が折れたのかヒビが入ったのだ。これで丸之内がちりとりを手に掴み金山先生に反撃するチャンスはなくなった。


「おぉーい!やめて欲しいのなら『やめろ』じゃないだろ?『先生、お願いします。』とまず、頭を下げてお願いするのが礼儀だろ。」


黒川は何も出来ない自分に唇を噛み締めた。上社は先程までは金山先生に従うべきじゃないという判断だったが、丸之内が苦痛で顔が歪めているのを見たら判断が揺らいだ。


「どうする?丸之内が人質に取られている以上、理科室の時のように下手に動けん。」

「どうするって?こうするのよ。」


神宮西は自身が手に持っている武器のゴキブリ退治用のジェット噴射スプレーとその前に火のついたチャッカマンを金山先生に向けて構えた。


「先生、その汚い足を丸之内からどかして。」


神宮西の手作り火炎放射は接近戦だと自分も炎にまみれてしまうリスクがあるが、遠距離になると相手の攻撃が届かない場所から一度に複数の敵を火炎放射で倒せて便利だった。黒川は頼もしい味方がいる事に自分でも誇らしげな気持ちになった。


だが、金山先生の閉じた口は両端を持ち上げて真っ赤に染まった歯を見せ不気味な笑みを浮かべると床にしゃがみ込み、丸之内の髪をつかむと丸之内の頭を持ち上げ、無理矢理自分の顔の顎のあたりまで丸之内の顔を持ち上げると丸之内の口から血が吹きこぼれた。神宮西は武器を持つ手をゆっくりと下におろした。


「駄目だ・・・・。これじゃあ丸之内にも火があたる・・・」


希望の火は火をつける前に消えた。神宮西もこれ以上どうすればいいのかと口を閉じたまま黒川に目線を向けた。黒川は握り拳をぎゅと握った手に汗が流れた。丸之内にはまだ使える片方の手がある。


だが丸之内を警戒して見張っている金山先生がそばにいる限り丸之内は下手なマネをしたらまたやられる。黒川は悪に従っては駄目だという自分の意志をつらぬくべきだと思っているがこれ以上親友のコウちゃんを自分の意地のせいで苦しませるわけにもいかなかった。黒川は握った拳をゆっくりと解いた。


「仕方がない。オレ達に策はつきた・・・・。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。