♰♰♰ 闇から声が聞こえる ♰♰♰
玄関前で夜の澄み切った空気を吸った。外へ出るのが随分懐かしく新鮮に感じた。とは言えすぐに駐車場へと向かう無鉄砲なマネはしなかった。
まずは用心して周りを見渡す事から始まった。右側にある第一校舎と第二校舎の間にある駐輪場に目をやると複数のゾンビが床にしゃがみこんで死体を貪り食べているのに夢中だ。一匹のゾンビが自転車をゆっくりと乗り回しながらいったい何処が抜け道なのかわからない様子で駐輪場の周りをずっと自転車で回っていた。
ゾンビ達はこっちの存在にまだ気づいていない。安堵した豊田は次に左側にある運動場へと目をやった。放課後の運動部で騒々しかったのに今や静まり返った運動場は日が暮れてスポットライトの光がグランド照らしていたが底知れぬ深い霧がグランドを覆っていた。そして深い霧の中から一つの黒い人影が現れてきた。人間の足をひきずった野球部のゾンビが横切っている姿が現れてきた。
「なんだ。たった一匹か・・・・これなら駐車場まで楽勝か。」
「いーや、そうは言い切れないかも。」
家庭科部の副部長の声を聴き再び運動場を見ると霧の中から一匹のゾンビが出て来ると後から黒い蜂の大群のような影が霧から現れてきた。
「ああっ!なんてこった!あんなにゾンビがいるのかっ!?」
堀田は思わず声を大きく上げた。校舎の中では一箇所に多くても20匹ほどのゾンビがいただけだが、今までは運に恵まれていただけだったと認めずにはいられない。広い運動場に集まっているゾンビ達はざっと100を超す勢いだ。
「運動場はゾンビの売れ残りセールでいっぱいだな。」
豊田の口から出てきた皮肉も冷静さが失われつつあった。
「でも、向こうはうちらの存在に気づかれていないだけでもまだマシだよね?」
真由がゾンビ達に気づかれないように小声で訪ねた。
「いや、視界が広い分、見つかりやすい。」
夏樹の自信に満ち溢れていた顔も曇り初めていた。
「うーむむむ・・・・仕方がない。集団で駐車場へ行ったら目立ってゾンビ達に気づかれる。少人数だけで車を取りに行くか。」
豊田も運動場にいるゾンビの数には予想外だったようで頭を悩ませられているようだ。校舎の外へ出た生徒達は誰が駐車場へと向かって車を取ってくるか話あっている間、丸之内は運動場にいるゾンビ達が気になっていた。
「まるでゾンビの大運動会だ。」
運動場にいるゾンビの数だけでも背筋がゾッとするが、ゾンビ達が人間だった頃の習性で部活動をしている滑稽な姿が理由のわからない恐怖を煽った。
「亮ちゃん???」
隣にいる黒川の返事がなくて妙に感じた丸之内は隣を見た。すると黒川は隣におらず神宮西とまだ校舎の中にいて緊張した顔付きで廊下を見つめている。丸之内も校舎の中に入り廊下を見たが奥を見つめても底知れぬ闇が深まっているばかりで何がそんなに興味を惹き付けているのかわからずに黒川に尋ねた。
「どうしたの?亮ちゃん??」
「声がした。」
「声?」
「私も聴こえた。『助けて』って。」
三人は黙り込んで遠くから聴こえてくる声に耳を傾けた。外にいる生徒達の声や外の風の音を遮断して廊下の奥から聴こえてくる音だけに耳を集中させるといつの間にか背後に回っていた名城が真っ先に声を出した。
「確かに声がするな。廊下の突き当りの方だ。」
校舎に残っているのは黒川と神宮西と丸之内に名城とその横にいる上社だけとなった。だが、校舎の中にまだ人がいると神宮西がいきなり思い出したように顔色が徐々に青ざめていった。
「そ、そういえばさ・・・・・あの、生意気な女の子いたじゃん。」
「『みき』の事か?」
5人とみきが出会ったのは今日が始めてではあるが、あまりにも強烈すぎる個性の為に生意気な女の子が誰の事を言っているのかすぐにわかった。
「そういえば階段にいた時から姿を見ていないな・・・・」
上社が言うと嫌な想像が頭の中を駆け巡ってきた。
「放っておけよ、いない方がかえってスムーズに行っただっただろ。」
名城がこれ以上ない冷めた声で言った。
「廊下の突き当りに行くとあそこには生徒用の下駄箱がある。ゾンビが集まりやすい場所で非常に危険だと生き残った女の子達が言っていたぞ。」
上社も忘れた方がいいと念を押しているように言った。
「だからって見捨てられるか!」
黒川が皆に止められるよりも先に闇が深い廊下の突き当りへとまるで闇に飲み込まれるように走って行った。今まで当たり前のように黒川に突き合わされた神宮西と丸之内も黒川の後をすぐに追った。後に残された上社と名城はお互いに顔を見合わせてやれやれ迷惑だ言いたげな表情でお互いに意思を疎通し合うと闇の奥へと入って行った。




