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♰♰♰ 白鯨へと導く光 ♰♰♰

先生という職業は生徒から尊敬と畏怖の存在であり続けた。それは昔から未来永劫に失われない物だ。だが、今やこの学校での先生の存在は廊下でかつての教え子でもある生徒の死肉に群がり、死肉を食べ尽くすハイエナ集団に変わり果てた。


ハイエナの数が多いと死肉が減るのも早い。ゾンビ達は残り少ない肉を取り合っていたが、一部のゾンビ達は新たな肉が見つからないかと職員室前の廊下を歩み始めた。一匹のハエが月明かりにつられて窓に張り付いてしまった。その時、ハエは保険医のひとみ先生のゾンビの手に捕まってしまいひとみ先生ゾンビに捕食されてしまった。ゾンビはハエさえも食べるほど肉に飢えていた。


ゾンビ達が次の餌を探そうと廊下の周りを見渡したその時、階段と職員用玄関の廊下の間になにか素早い影が横切った気がした。影は一つや三つだけだったが、しだい十名ほどもいる大勢の影が移動しているのが見えた。餌だ。あそこに大量の餌がある。飢えたハイエナ達は餌の影が向かった職員用玄関へと来た。電気がついていない職員用玄関は青白い月の光に照らされた下駄箱が大きな影を落としていた。


先程見た影は身を潜めているのか動きが見えない。ただ、外の世界と学校の世界を通じているガラス製の二つの扉の間から漏れる肌寒い風だけだヒューヒューと音を立てて動いているだけだ。ひょっとしてもう外へと出たのか?風の音に誘われゾンビ達は外の世界へと通じる扉を見た。その時、扉の前に二人の人影を見た。影のシルエットを見るからに自分達よりも小柄で制服のスカートのような形をしている。女子生徒に違いない。


かつての教え子だろうがゾンビになった今は単なる餌なだけ。ゾンビ達は餌に向かって下駄箱と下駄箱の間を進んだ。生きていた頃は自分達が毎日利用していた玄関も今や使い方をすっかり忘れてゾンビ達は靴を履き替えもせずに玄関へと足を降ろした。自分達の身長よりも高く、手に届きそうなほどの高さがある下駄箱がまるで刑務所の壁ように自分達に覆いかぶさってくるかのような威圧感を感じた。


すると鼠が天上の上を駆け走っているような音とまるでこれから落石が崖の上から自分達の頭の上に堕ちてくるような音が聴こえてきた。ゾンビ達は下駄箱の上を見上げた。


すると目の上に外の世界へと出る時に何度も履きつぶしてきた靴達が自分達に復讐でもするかのごとく今度は靴が元人間たちを潰してやろうとゾンビ達の頭上に大量の靴が落ちてきた。さらに靴が入っていた両側にある下駄箱もゾンビ達の頭へと落ちてきた。


視界が暗転するとゾンビ達は両側にあった靴と下駄箱に押しつぶされていた。倒れた下駄箱が立てられてあった場所から複数の生徒達が現れた。一人では難しくても複数いれば下駄箱を押し倒すのは簡単だ。下駄箱が倒れた拍子にホコリが舞ったせいで生徒達は咳をしていた。


だが、すぐに気を取り直してホコリを払う暇もなくすぐに校舎から外へ出る事に専念した。動きの早い野球部の部員の一人が先に校舎から外に出るガラス張りの両開きのドアに辿りつくと重い扉を開けた。わずかな隙間が開き外からまばゆい光が中へと漏れだしてくると生徒達は早くここから抜けさなければならない事も忘れて感動していた。


外はもう真夜中で夜遅くまで部活に勤しむ生徒達や学校に残る教師の為に街灯の光がついていた。街灯の光が生徒達を駐車場にまで導かせるかのように足元を照らしてくれている。わずかしかない光でも絶望から逃げようとする生徒達にとってはあまりにも眩しすぎた。


「まるで白鯨へと導く光のようだ・・・。」


最初に校舎から出た豊田の口から感想が漏れた。生徒達はしばし幻想に酔っていたが、立ち止まったままではゴールへと辿り着けない。気持ちを切り替え、少しでも希望に近づけるようにと生徒達は次々と職員室用玄関から校舎の外へと出た。

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