タイムラインに流れる告知
フォロワーが二人になってから、タイムラインの空気が変わった。
見た目は、何も変わらない。
相変わらず、どうでもいい日常の投稿が流れている。
朝起きた、眠い、課題やばい。
それなのに、画面の奥に、薄いノイズみたいなものが混じっている気がした。
私は、無意識に更新を繰り返していた。
理由は分かっている。
次が来るのを、待っている。
例のアカウントからの投稿は、まだなかった。
けれど、代わりに「おすすめ」に、見覚えのない投稿が紛れ込んでいる。
「今日、講義に来なかったら、そのまま来なくなる」
一瞬、意味が分からなかった。
投稿主は、知らない名前。
普通のアイコン。
フォロワーも、それなりにいる。
どこにでもいそうな、大学生のアカウント。
でも、その文章だけが、浮いている。
私は、指を止めて、もう一度読んだ。
「今日、講義に来なかったら、そのまま来なくなる」
予言、みたいだった。
自分に向けたものじゃない。
誰か一人の未来を、切り取ったみたいな言い方。
いいねは、まだゼロ。
プロフィールを開くと、固定ツイート――じゃなくて、固定投稿が目に入った。
「最近、覚えてない時間が増えてきた」
胸の奥が、きゅっと縮む。
その人の名前に、見覚えはなかった。
でも、なぜか「知っている気がする」。
大学に着いてからも、その感覚は消えなかった。
講義室に入り、席に座り、周囲を見回す。
……あれ?
一つ、空席がある。
いつもなら、必ず埋まっている場所。
「ねえ」
小声で、真琴に話しかける。
「あの席、誰かいたよね?」
真琴は、少し考えてから首をかしげた。
「え? そうだっけ」
心臓が、嫌な跳ね方をする。
私は、さっき見た投稿を思い出していた。
講義に来なかったら、そのまま来なくなる。
講義は、何事もなく進んだ。
教授の声が、遠く感じる。
終了のチャイムが鳴ったとき、私は、もう一度スマホを見た。
あの投稿に、いいねが一つ付いている。
押したのは、誰か分からない。
でも、その数が増えたという事実だけが、はっきりしている。
その直後、通知が来た。
「@___が新しい投稿をしました」
呼吸が、浅くなる。
投稿は、短かった。
「観測開始」
それだけ。
私は、震える指で、さっきの予告投稿に戻った。
更新。
文章が、変わっている。
「今日、講義に来なかったから、もう来ない」
確定形。
いいねは、二つに増えていた。
講義室を出るとき、私はもう一度、あの空席を見た。
誰も、気にしていない。
最初から、誰もいなかったみたいに。
「ねえ、あの人さ」
真琴が、急に言った。
「あの……前に一緒にレポート組んだ人」
名前が、出てこない。
真琴は、困ったように笑った。
「顔は思い出せるんだけど、名前が出なくて」
私は、喉の奥が、ひりつくのを感じた。
覚えているのに、欠けている。
欠けているから、修正されていく。
その夜、私は、自分のフォロワー一覧を開いた。
二人目のフォロワー。
空白の名前。
その下に、小さく表示されている。
「あなたが見ている」
見ているだけ。
助けてもいない。
止めてもいない。
でも、このSNSでは、
見ること自体が、参加だった。
画面を閉じようとした、その瞬間。
タイムラインに、新しい予告が流れた。
「次は、ミュートされる」
誰のことか、書いていない。
でも、なぜか分かってしまう。
私は、もう
無関係な閲覧者じゃない。
フォロワーであり、
観測者で、
そして――。




