フォロワーの数だけ
通知音が、鳴り止まない。
一件、また一件。
規則性のない振動が、机の上で小さく跳ねる。
スマホを伏せたまま、私は深呼吸した。
逃げても無駄なのは、もう分かっている。
画面を開く。
「観測が保留されています」
淡々とした文字。
責めるでも、急かすでもない。
それが、余計に怖かった。
タイムラインには、真琴の投稿が固定表示されている。
「最近、私、ちょっとおかしい」
その下に、新しい表示が追加されていた。
「観測者:1人」
私だ。
私が見ている。
それだけで、数字が付く。
別の通知。
「あなたをフォローしました」
知らないアカウント。
アイコンは、初期設定のまま。
プロフィール欄は空白。
投稿数、0。
でも、フォロワー数だけが、異様に多い。
次の瞬間、また通知。
「あなたをフォローしました」
「あなたをフォローしました」
増えていく。
一人、二人、五人、十人。
怖くなって、フォロワー一覧を開いた。
見覚えのない名前ばかり。
でも、どこか引っかかる。
大学の掲示板で見た名字。
講義で呼ばれた気がする名前。
思い出そうとすると、
頭の中で、何かが滑る。
指先が冷たくなった。
そのとき、画面が切り替わる。
「観測ネットワークが拡張されました」
説明文が続く。
「フォロワーが増えるほど、
あなたの選択は共有されます」
共有?
嫌な予感しかしない。
さらに下。
「観測者が複数の場合、
多数派が結果を決定します」
私は、息を呑んだ。
つまり。
私が何かを選べば、
それは“私だけの選択”じゃない。
フォロワーの数だけ、
重さが増す。
真琴の投稿が、更新された。
「今日、大学に行くのが怖い」
その瞬間、
画面下に選択肢が現れる。
・見る
・見ない
シンプルすぎる二択。
でも、もう知っている。
見る=観測。
見ない=拒否、あるいは切断。
そして、
拒否された側がどうなるかを。
フォロワー数が表示される。
32人。
いつの間に。
選択肢の横に、小さなバーが伸びている。
「現在の傾向」
見る 68%
見ない 32%
私が何もしなくても、
もう流れは決まりつつあった。
胸が、ざわつく。
誰だ。
誰が、選んでいる。
でも同時に、
私もその一人だ。
スマホが震える。
DMが届いた。
真琴から。
「ねえ、最近変じゃない?」
文字を打とうとして、止まる。
何を言えばいい。
何を言っても、
それは“介入”になる。
画面上で、投票バーが動く。
見る 70%
見ない 30%
決まりかけている。
そのとき、
突然、新しい項目が表示された。
「あなたの重み」
説明が続く。
「最初の観測者には、
通常より高い影響力が付与されます」
指が、震えた。
つまり。
私が選べば、
一気に傾く。
フォロワーの数だけ、
責任が増えていく。
私は、
この状況を作った。
何もしなかった。
見ただけだった。
流れてくるものを、
眺めていただけ。
それだけで、
ここまで来てしまった。
講義室の光景が、頭をよぎる。
空いていた席。
思い出せない名前。
あれも、
誰かの「見ない」の結果だったのかもしれない。
投票バー。
見る 72%
見ない 28%
制限時間が、表示される。
残り、10秒。
9
8
真琴のDMが、もう一件届く。
「もし、私に何かあったらさ」
続きは、表示されない。
7
6
私は、
スマホを強く握った。
ここで、
何もしなければ。
多数派に流される。
でも、それも“選択”だ。
5
4
指が、
画面に触れる。
3
2
選択肢が、
光る。
1
決定。
画面が、白くフラッシュした。
「結果が確定しました」
表示された文字。
「観測:実行」
見る。
それが、
多数派の選択。
そして。
「あなたの影響力が反映されました」
フォロワー数が、更新される。
48人。
増えた。
真琴の投稿が、消えた。
代わりに、
新しい通知が出る。
「本日の観測対象は終了しました」
私は、
スマホを落としそうになった。
それで、終わり?
不安のまま画面を見つめていると、
最後に一文が表示される。
「フォロワーが増えるほど、
あなたは“個人”ではなくなります」
そして。
「次の対象は、
あなたの近くにいます」
背筋が、凍った。
顔を上げる。
講義室のドアが、
静かに開く音がした。
誰かが、入ってくる。
でも、
それが誰なのか、
なぜか、すぐには分からなかった。




