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いいね、の向こう側  作者: 櫻木サヱ
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10/11

フォロワーの数だけ

 通知音が、鳴り止まない。


 一件、また一件。

 規則性のない振動が、机の上で小さく跳ねる。


 スマホを伏せたまま、私は深呼吸した。

 逃げても無駄なのは、もう分かっている。


 画面を開く。


 「観測が保留されています」


 淡々とした文字。

 責めるでも、急かすでもない。


 それが、余計に怖かった。


 タイムラインには、真琴の投稿が固定表示されている。


 「最近、私、ちょっとおかしい」


 その下に、新しい表示が追加されていた。


 「観測者:1人」


 私だ。


 私が見ている。

 それだけで、数字が付く。


 別の通知。


 「あなたをフォローしました」


 知らないアカウント。

 アイコンは、初期設定のまま。


 プロフィール欄は空白。

 投稿数、0。


 でも、フォロワー数だけが、異様に多い。


 次の瞬間、また通知。


 「あなたをフォローしました」

 「あなたをフォローしました」


 増えていく。


 一人、二人、五人、十人。


 怖くなって、フォロワー一覧を開いた。


 見覚えのない名前ばかり。

 でも、どこか引っかかる。


 大学の掲示板で見た名字。

 講義で呼ばれた気がする名前。


 思い出そうとすると、

 頭の中で、何かが滑る。


 指先が冷たくなった。


 そのとき、画面が切り替わる。


 「観測ネットワークが拡張されました」


 説明文が続く。


 「フォロワーが増えるほど、

 あなたの選択は共有されます」


 共有?


 嫌な予感しかしない。


 さらに下。


 「観測者が複数の場合、

 多数派が結果を決定します」


 私は、息を呑んだ。


 つまり。


 私が何かを選べば、

 それは“私だけの選択”じゃない。


 フォロワーの数だけ、

 重さが増す。


 真琴の投稿が、更新された。


 「今日、大学に行くのが怖い」


 その瞬間、

 画面下に選択肢が現れる。


 ・見る

 ・見ない


 シンプルすぎる二択。


 でも、もう知っている。


 見る=観測。

 見ない=拒否、あるいは切断。


 そして、

 拒否された側がどうなるかを。


 フォロワー数が表示される。


 32人。


 いつの間に。


 選択肢の横に、小さなバーが伸びている。


 「現在の傾向」


 見る 68%

 見ない 32%


 私が何もしなくても、

 もう流れは決まりつつあった。


 胸が、ざわつく。


 誰だ。

 誰が、選んでいる。


 でも同時に、

 私もその一人だ。


 スマホが震える。


 DMが届いた。


 真琴から。


 「ねえ、最近変じゃない?」


 文字を打とうとして、止まる。


 何を言えばいい。

 何を言っても、

 それは“介入”になる。


 画面上で、投票バーが動く。


 見る 70%

 見ない 30%


 決まりかけている。


 そのとき、

 突然、新しい項目が表示された。


 「あなたの重み」


 説明が続く。


 「最初の観測者には、

 通常より高い影響力が付与されます」


 指が、震えた。


 つまり。


 私が選べば、

 一気に傾く。


 フォロワーの数だけ、

 責任が増えていく。


 私は、

 この状況を作った。


 何もしなかった。

 見ただけだった。

 流れてくるものを、

 眺めていただけ。


 それだけで、

 ここまで来てしまった。


 講義室の光景が、頭をよぎる。


 空いていた席。

 思い出せない名前。


 あれも、

 誰かの「見ない」の結果だったのかもしれない。


 投票バー。


 見る 72%

 見ない 28%


 制限時間が、表示される。


 残り、10秒。


 9

 8


 真琴のDMが、もう一件届く。


 「もし、私に何かあったらさ」


 続きは、表示されない。


 7

 6


 私は、

 スマホを強く握った。


 ここで、

 何もしなければ。


 多数派に流される。

 でも、それも“選択”だ。


 5

 4


 指が、

 画面に触れる。


 3

 2


 選択肢が、

 光る。


 1


 決定。


 画面が、白くフラッシュした。


 「結果が確定しました」


 表示された文字。


 「観測:実行」


 見る。


 それが、

 多数派の選択。


 そして。


 「あなたの影響力が反映されました」


 フォロワー数が、更新される。


 48人。


 増えた。


 真琴の投稿が、消えた。


 代わりに、

 新しい通知が出る。


 「本日の観測対象は終了しました」


 私は、

 スマホを落としそうになった。


 それで、終わり?


 不安のまま画面を見つめていると、

 最後に一文が表示される。


 「フォロワーが増えるほど、

 あなたは“個人”ではなくなります」


 そして。


 「次の対象は、

 あなたの近くにいます」


 背筋が、凍った。


 顔を上げる。


 講義室のドアが、

 静かに開く音がした。


 誰かが、入ってくる。


 でも、

 それが誰なのか、

 なぜか、すぐには分からなかった。

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