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N as in Name(名前のN)、VII

 ◆◇◆◇


「ね、ママ、ノート(notebook)買って」


 家にノートはあるというのに、息子は新しい(new)ノート(notebook)が必要(need)だと言う。


 ノートは、『note』とするだけでは、ノートにはならない。ややこしいが、notebook と『本(book)』の部分を付けて初めて、我々がイメージするノートとなる。

『note』だけだと、『覚え書き』や『注意』という意味になる。

 さらに動詞としても使えて、『書き留める』、『留意する』という意味にもなる。


 さらにややこしいのが、ノートブックのパソコン。『notebook PC』と言わないこともないが、どちらかというと、あのタイプのPCのことは『laptop』と呼ぶ方が主流だ。


 ノートなのか、notebook なのか。

 ノートブックなのか、laptop なのか。


 カタカナ語が混じると、混乱する。


「分かった。じゃあ、次に(next time)文房具屋さんに行った時に買ってくるから」

「やだ! 今すぐ必要なの!(No! I need it now!)」

「そんなこと言ったって。今は必要ないでしょ(You don’t need it now.)」

「必要だもん!(I need it!) 僕は今から、のーぼるしょうの大発明をするんだから!」


 のーぼるしょう?

 瑛子は首を傾げた。


「ノーベル賞(Nobel Prize)な」

 娘が突っ込む。


「それ! のーべる(Nobel)!」

 息子は拳を握りしめた。

「……なるほど。大丈夫よ。昔のすごい人はね、ノート(notebook)がなくてもノーベル賞(Nobel Prize)を獲れたんだから。清貧って言ってね。ほら、夜(at night)に爪に火を点したりしてね」

 瑛子は指をひらひらとさせて子どもたちを見た。が、娘も息子もキョトンとした顔をしている。

「え? 学校で習ってない? ことわざ……でもないけど。それくらい節約するって意味なんだけど」


「爪に火を点けたら焼けちゃうよ、ママ?」

「てか、爪に火なんて点くの?」


「……いや、まあそうなんだけど。え、じゃあ、蛍雪は? これは習ってるでしょう?」

 無表情で瑛子を見てくる子どもたちに焦った瑛子は、「蛍に雪と書いて『けいせつ』よ」と付け加えた。


「蛍光マーカーで塗った雪?」

 息子が聞く。

「違う(No.)」

 瑛子は即答した。


「そうだよ。雪が塗れるわけないじゃん。反対だよ。雪色の蛍光ペンでしょ」

 娘は胸を張って答えた。

「違うわよ(No.)。あんた高校生でしょうが」

 さすがに高校ではやっているだろう、と瑛子は娘を見る。ふざけているのかと思ったら、本気でそう思っていそうな顔をしていることに、瑛子は心配になってきた。


「そうだよお姉。雪色ってただの白じゃん」

 息子のツッコミに、思わず瑛子も「それな」と言いそうになる。


「うっさいな。別にそんなの、調べようと思えばいつでも調べられるし」

 娘はそっぽを向く。


 ここで瑛子が、「そうやってね、何でもかんでもネットに頼るとね――」などと小言を言っても、響かないのは目に見えている。ネットに頼りきりなのは大人も同じだからだ。


 さて、『ネット』は『インターネット』の略だが、英語で『net』と言っても通じない。『インターネット』は『internet』であり、一語だ。なので、あえて言葉の後ろ側の『net』だけを切り抜いて使う、ということはまずしない。『net』と言えば最初に思い浮かべるのは『網』だろう。

 じゃあ、前側だけ取って『inter』と略すかと言うと、それもしない。『inter』は色々な言葉に使われている接頭辞だからだ。


 日本語で『ネット』と略されるのは、『インターネット』が外来語であり、カタカナ語だからだ。普段使うには長すぎる、じゃあ略しますかね、ということだろう。


 瑛子は諦めて夕食の支度に取り掛かることにした。冷凍庫を開けると、中は空だった。

 何にもない(nothing)。

 冷凍麺(frozen noodles)があったはずなのに……?


 瑛子は鼻(nose)をくんと鳴らして匂いを嗅いだ。ほんのり香る、醤油だしの匂い。


「ねえ、冷食のうどん食べた?」

「うん」

「今日の夕飯にしようと思ってたんだけど」

「だってお腹空いたんだもん」

「……なるほど」


 まあ、育ち盛りは常に空腹なのが普通(normal)ではあるけれど。

 なんでも、友だちが家に遊びにきて「お腹すいたからなんか作ろう」という話になったらしい。

 ちなみに、今日は国民の祝日(national holiday)なため、学校は休みだ。


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