N as in Name(名前のN)、VII
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「ね、ママ、ノート(notebook)買って」
家にノートはあるというのに、息子は新しい(new)ノート(notebook)が必要(need)だと言う。
ノートは、『note』とするだけでは、ノートにはならない。ややこしいが、notebook と『本(book)』の部分を付けて初めて、我々がイメージするノートとなる。
『note』だけだと、『覚え書き』や『注意』という意味になる。
さらに動詞としても使えて、『書き留める』、『留意する』という意味にもなる。
さらにややこしいのが、ノートブックのパソコン。『notebook PC』と言わないこともないが、どちらかというと、あのタイプのPCのことは『laptop』と呼ぶ方が主流だ。
ノートなのか、notebook なのか。
ノートブックなのか、laptop なのか。
カタカナ語が混じると、混乱する。
「分かった。じゃあ、次に(next time)文房具屋さんに行った時に買ってくるから」
「やだ! 今すぐ必要なの!(No! I need it now!)」
「そんなこと言ったって。今は必要ないでしょ(You don’t need it now.)」
「必要だもん!(I need it!) 僕は今から、のーぼるしょうの大発明をするんだから!」
のーぼるしょう?
瑛子は首を傾げた。
「ノーベル賞(Nobel Prize)な」
娘が突っ込む。
「それ! のーべる(Nobel)!」
息子は拳を握りしめた。
「……なるほど。大丈夫よ。昔のすごい人はね、ノート(notebook)がなくてもノーベル賞(Nobel Prize)を獲れたんだから。清貧って言ってね。ほら、夜(at night)に爪に火を点したりしてね」
瑛子は指をひらひらとさせて子どもたちを見た。が、娘も息子もキョトンとした顔をしている。
「え? 学校で習ってない? ことわざ……でもないけど。それくらい節約するって意味なんだけど」
「爪に火を点けたら焼けちゃうよ、ママ?」
「てか、爪に火なんて点くの?」
「……いや、まあそうなんだけど。え、じゃあ、蛍雪は? これは習ってるでしょう?」
無表情で瑛子を見てくる子どもたちに焦った瑛子は、「蛍に雪と書いて『けいせつ』よ」と付け加えた。
「蛍光マーカーで塗った雪?」
息子が聞く。
「違う(No.)」
瑛子は即答した。
「そうだよ。雪が塗れるわけないじゃん。反対だよ。雪色の蛍光ペンでしょ」
娘は胸を張って答えた。
「違うわよ(No.)。あんた高校生でしょうが」
さすがに高校ではやっているだろう、と瑛子は娘を見る。ふざけているのかと思ったら、本気でそう思っていそうな顔をしていることに、瑛子は心配になってきた。
「そうだよお姉。雪色ってただの白じゃん」
息子のツッコミに、思わず瑛子も「それな」と言いそうになる。
「うっさいな。別にそんなの、調べようと思えばいつでも調べられるし」
娘はそっぽを向く。
ここで瑛子が、「そうやってね、何でもかんでもネットに頼るとね――」などと小言を言っても、響かないのは目に見えている。ネットに頼りきりなのは大人も同じだからだ。
さて、『ネット』は『インターネット』の略だが、英語で『net』と言っても通じない。『インターネット』は『internet』であり、一語だ。なので、あえて言葉の後ろ側の『net』だけを切り抜いて使う、ということはまずしない。『net』と言えば最初に思い浮かべるのは『網』だろう。
じゃあ、前側だけ取って『inter』と略すかと言うと、それもしない。『inter』は色々な言葉に使われている接頭辞だからだ。
日本語で『ネット』と略されるのは、『インターネット』が外来語であり、カタカナ語だからだ。普段使うには長すぎる、じゃあ略しますかね、ということだろう。
瑛子は諦めて夕食の支度に取り掛かることにした。冷凍庫を開けると、中は空だった。
何にもない(nothing)。
冷凍麺(frozen noodles)があったはずなのに……?
瑛子は鼻(nose)をくんと鳴らして匂いを嗅いだ。ほんのり香る、醤油だしの匂い。
「ねえ、冷食のうどん食べた?」
「うん」
「今日の夕飯にしようと思ってたんだけど」
「だってお腹空いたんだもん」
「……なるほど」
まあ、育ち盛りは常に空腹なのが普通(normal)ではあるけれど。
なんでも、友だちが家に遊びにきて「お腹すいたからなんか作ろう」という話になったらしい。
ちなみに、今日は国民の祝日(national holiday)なため、学校は休みだ。




