B as in Big(大きいのB), IV
そりゃ腰痛(back pain)にもなるだろう。
一日八時間以上は立ちっぱなしなのだから。
でもきっと骨(bone)のためには、座りっぱなしのオフィスワークよりいいのではないと瑛子は信じている(believe)のだけれど。
来るべき老後に向けて、体(body)のためにできることはやっておかなければ。
そして忙しい日はトイレ(bathroom)に行く暇もなかったりする。
……いやほんと、体に良いんだか、悪い(bad)なんだかよくわからないわ。
この日も瑛子はロビーから生徒さんたちを案内して、教室に入った。
「Open your book, everyone. 」
瑛子は生徒さんに告げる。
本(book)を開いたら、レッスン開始だ。
今日のレッスンのテーマはWhat do you want to do? (あなたは何をしたいですか?)だ。
「一日お休みがあったら、何がしたいですか?」という質問を、生徒さん一人一人に聞いていく。
生徒さん一人一人、個性が出て面白い回答が返ってきた。
「瑛子先生は、何がしたいですか?」
生徒さんにそう聞き返されて、瑛子は脳(brain)が一瞬フリーズした。
『ビール(beer)片手に動画見放題(binge watching)』
頭に思い浮かんだのはそんなセリフだった。
それか、ゆっくり風呂(bath)に浸かって、早く就寝(go to bed early)できるだけでもありがたい。
だが、それをそのまま言うわけにもいくまい。
「そうですね、美容院(beauty salon)にでも行きますかね」と曖昧に笑って答えてレッスンは終わった。
教材を片付けながら、瑛子はそう言えば、と手を止めた。
美容院。久しく行っていない。そろそろ行かないと、白髪が。
黒髪(black hair)に白髪が何本かあるだけで、なぜこんなにも老けた印象になってしまうのか。
いや、それより今日は夫の給料日だから、銀行(bank)に行かないと。
銀行のアプリで何だかいろいろなことができる便利な世の中らしいが、瑛子はその辺りのことがよくわかっていない。
なので、ATMでお金を引き下ろし、今度は他のカードを使って、今出したお札をまたATMに入れる、という非生産的なことをいまだに瑛子は毎月している。
毎回、結局同じATMにお金が吸い込まれていくことに、「何やってるんだろうなあ」という気持ちになるのだが。
そういえば、息子が今朝バナナ(banana)を食べたいと騒いでいたっけ。
そしたら、bankに寄ってから、スーパーでbuy some bananasをして、ああ、そうだ、息子のサマーキャンプのbackpackも買わなきゃいけないんだった。あの子ったら車で送って行くって言ってるのに友だちとbusに乗っていくなんて言い出して。
Bus stopまでの行き方を教えて、時刻表も調べなくては。
そうだ! bicycleのタイヤがパンクしてたんだわ。
ああ! そういえばもうすぐ夫のbirthdayだわ。
ケーキをbakeする時間などない。市販のスポンジに子どもたちにデコレーションでもさせるか。
baked goods(焼き菓子)繋がりで思い出したけど、breadもなかったわ。それに、butterも。
じゃあ、bakery(パン屋)に寄って、それからスーパーか。
ああ! 洗面台のbulb(電球)が切れてたんじゃなかったっけ?
それから、脱衣所の体重計のbatteryも切れていたんだわ。
今朝、息子にbathtub(浴槽)の掃除を頼んだけど、やってくれたのか? いや、やってないな。
そうだ、息子が蚊に刺された(bitten、biteの過去分詞形)と騒いでいたんだった。痒み止めもかっていかなければ。
やることの多さに、血圧(blood pressure)が上がってきそうだ。
仕事と家庭の間(between)に、主婦はやることを詰め込んでいるのだ。そりゃあ時として、ビター(bitter)な気持ちにもなるもいうもの。
Busy.
ほっとうに、busy(忙しい)だわ。
今夜は夕食を作る時間がない。
しょうがない。最終手段のbento box(弁当)を買って帰るか。
完全なBilingualではないがそこそこ英語が話せる瑛子は、レッスン後はこのように頭の中が日英ごちゃ混ぜになる。
やっぱりbeerを買って帰ろう。
A big one. (大きいやつ)
大きい方がいいのは、どうやら胸だけではないようだ。
瑛子は暗くなる前に(before getting dark)、足早に職場を後にした。




