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A to Zで綴る瑛子の日々  作者: 上条ソフィ


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B as in Big(大きいのB), III

 さて、それは置いておくとして。


 瑛子が働いている教室はブラック(black)企業だとは言わないが、とても忙しい(busy)。英会話学校大手のブランド認知力(brand recognition)によって、そこそこ生徒さんも入っている。


 うちの教室はベストスクール(best school)に選ばれたこともある、というのがセールスポイントの一つだ。県内でわりかし大きい教室だ。


 だから、忙しい。というか、人手が圧倒的に足りていない。


 教室のマネージャーは、ちょっと煮え切らない今時の男の子だ。けれど、二十代後半にしては、このそこそこ大きな教室をまとめるくらいの実力はあるのだろう。

 よく胃薬を飲んでいるのを見かけるが。

 ここの歴代のマネージャーは、みんな胃薬とお友だちになるのがほぼお約束となっている。



 瑛子が教室のドアを開けると、軽やかなベル(bell)の音が鳴り響く。入り口の先はロビーだ。カウンターにいる受付のスタッフが、にこやかに挨拶してくれる。生徒さんはまずここでチェックインをする。


 ロビーの奥には廊下があり、生徒さんは各々、自分のレッスンがある小部屋に入っていく。


 瑛子はレッスン用の小部屋には入らず、「おはようございます」と挨拶しながらカウンターの後ろにあるバックオフィスに入った。


 オフィスは狭く、相変わらず混沌としている。ここは、スタッフ一同の荷物置き場であり、さらに休憩所(break room)でもあるため、狭いオフィスの中は、常に人や物であふれかえっている。


 部屋の端にあるのは、二台のデスクとパソコン二台。一つはマネージャーの席、もう一つは生徒さん管理用のPCだ。

 マネージャーのデスクの横(beside)の壁には、今月の売り上げ目標と講師別の売り上げ金額が書かれたグラフが貼ってある。


 オフィスの壁には本棚(bookshelf)が備え付けられてあり、これがなんとも圧迫感がある。

 なぜかというと(because)、本棚には、成人の生徒さんが使うテキストや、キッズクラスで使うおもちゃなどがぎゅうぎゅうに詰め込まれているからだ。


 部屋の中心を占めるのは、最大六人が座れる丸テーブルだ。その下(below)には、いつか処分しなきゃね、でもとりあえず置き場がないからここに置いとくか、と積み上げられた古い教材類が、茶色(brown)の段ボール(cardboard box)にぎっしり置かれている。


 瑛子は人の合間を潜り抜けて、空いているスペースに自分のカバン(bag)を置いた。


「ふう」と息をついて(breathe)、額の汗を拭う。

 朝ごはん(breakfast)を食べ過ぎたかもしれない。胃がきつい。だが(but)、今日のスケジュールは昼休憩(lunch break)までが長いのだ。レッスン途中でお腹が鳴るのは、さすがによろしくない。

 若い頃はそんなこともよくあり、その度に頬を赤らめて(blush)いたが。流石にこの歳になると開き直ることも覚えた。

 こうして人は経験を積み、図太くなっていくのだ。



 この教室のレッスンは五十分の構成だ。

 グループレッスンか、個人レッスンかのいずれかを生徒さん自身が選択する。


 レッスンの間の休憩時間(break time)は十分間。

 なんとも世知辛いことに、この休憩十分間は時給が発生しない。だが、皮肉なことに、レッスン中よりむしろこの時間の方が忙しい。


 まず、今まで使っていた自分の教材をオフィスに戻す。そして、次のレッスンで使う教材を次の教室にセットアップする。


 ちなみに教材を早く元に戻さないと、他の先生に怒られる。

「なんであんたちゃんとに戻しておかなかったのよ」とベテランの先生に責められる(blame)のは、新人の常である。

 ベテランの先生も意地悪で怒っているわけではない。次の時間には、次の先生がその教材を使うからだ。


「テキストがない!」と大慌てしていると、教材を持ったまま生徒さんのカウンセリングに入ってしまった先生が持っていて、なんて事件はしょっちゅう起こっている。


 慌ただしく教室のセットアップを終えたら、次はロビーに出て生徒さんをお出迎えする。


 生徒さんの中には緊張しがちな人もいる。

 その方々にとっては、レッスン中は『butterflies In the stomach』だからだ。


 これは緊張状態を表す表現で、直訳すると『お腹の中に蝶々がいる』。


 緊張する時には、胃がきゅっとなったり、キリキリするものだ。そのお腹の違和感を、『お腹の中で蝶々がパタパタと羽を動かしているようだ』と表現する、日本にはない面白い表現方法だ。


 こういったものが感覚的に身についてくると、英語はより面白くなる。


 使い方は、haveを用いて、

 I have butterflies in my stomach.

 と言えばいい。


 そんな緊張しがちな生徒さんとロビーで少しお話をして、いかに和やかな雰囲気を作り、そのままレッスンに持っていけるかが肝だ。


 そんなこんなで一日中立ち仕事をして、生徒さんに英会話を教えるのが瑛子の仕事だ。

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