L as in lady(レディのL)、VII
「そっか。そうやって単語を増やしてくのかあ」
「ネットで調べてみると、接頭辞とか接頭辞とか、いくらでも見つかるわよ。リスト(list)になってるページが」
「そうなんだ。それはちょっと考えたことがなかったわね。ありがとう、助かるわ」
「学校では習わなかったものね。特に私たちの世代なんて、『とにかく書いて覚えろ、丸暗記しろ』っていう時代だったから。今はもう少し工夫されてるだろうけどね。漢字と同じように『とにかく書いて覚える』っていう、根性で覚えるようなものじゃないのよ、英単語は」
「根性論の時代だったからねえ。そりゃ頭にも入らんわ」
「そうそう。まあ先生たちも、どうやって教えたらいいか分からなかったんでしょうね。ネイティブの人だって、アルファベットがランダムに並んでいるだけだったら、とても覚えられるもんじゃないだろうし。英単語がそんなにランダムなアルファベットの羅列だったら、ここまで国際的な言語(language)にはなってないわよ」
「だよね。頭の良さなんてどの国の人でも大差ないだろうしね。そっかあ。イメージで覚えていくのかあ。それ、もうちょっと早く知りたかった」
由利は悔しそうに顔を歪めた。学生のときに知ってたら、ここまで苦手意識がなかったのかもしれないのに、と。
「まあ、闇雲に覚えなくても、コツを掴めば結構ノリでいけるもんよ」
瑛子は肩をすくめた。
「そうか。……そうかなあ。この老いてきた頭に、これ以上知識が入るのか……?」
「入る、入る。それからもう一つ。『もう無理』って思っても、そこで辞めちゃだめよ。ダイエットと同じで、必ず停滞期はくるから」
体重にせよ、学ぶことにせよ、その成長は直線(linear)ではない。上がったり、下がったり、停滞しながら、時間と共に進むもの。
地味で、面白みもなくて、派手でもなければチートでもないが、結局のところ、こつこつと積み重ねていくしかないのだ。
「確かにそれもそうね……でね、私、前々から気になってることがあるんだけど」
由利は深刻そうな顔から一転、ニヤリと笑って瑛子を見た。
何だ? と瑛子は目をぱちくりさせた。
「『レス』って言うじゃない?」
由利は真面目な顔をしようとしているが、口元が引き攣っている。
レス?
瑛子は首を傾げた。
「『レス』って、レスのレス?」
瑛子はずいぶんと話が飛んだなと思いつつ、そう聞いた。友人が何の話題を振っているのか、まあこれだなと検討はつくが。
「そ。今の瑛子の話だとさ、レスも接尾辞ってやつでしょう?」
「そうねえ。-lessっていう接尾辞はあるわね」
Meaniglessとか、heartless とか、toothless とか。
瑛子は頭の中で-lessがつく言葉を思い浮かべる。-lessが付いていれば、その前の単語を否定する場合がほとんどだ。
Meaningless なら、意味(meaning)がない(less)という意味だし、
Heartless なら、心(heart)がない(less)という意味だ。
「私いっつも思うんだけど。レスってさ、まったくしてないんだと思う? それとも、数が少ないんだと思う?」
由利は真顔で聞いてくる。
瑛子は思わず吹き出してしまった。真面目な話をしていたというのに、何を言い出すんだ、この子は。
「それって、」
「セックス」
由利は即答する。
瑛子は声を上げて笑った(laughed)。
こういう単刀直入なところは、昔から変わらない。
嘘(lie)のつけない性格で、曲がったことはしない。明るくて(lively)で、エネルギッシュ。目立つからか、大学生にもなって先生にはよく怒られていたけど、頼りになる子だった。今でもその真っ直ぐな性格は変わらないのだろう。
「いわゆるセックスレスって、まったくしていないことなのか、それともちょっとはしているけれど、自分がしたいほどしていないっていう意味なのか。私、未だによくわからないのよね」
「うーん、どうなんだろう。英語の観点から言うと、lessっていう言葉自体は、little の比較級で、『より少ない』っていう意味なのね。だからこれを額面通りに理解するなら、sexlessは、セックスする回数とか機会が少ないというふうに受け取れるけど。ただ、接尾辞として見るなら、-lessは『〜のない』、もしくは『〜できない』って意味なの。こうなってくると、微妙なところよね。まったくしてないのか、それとも少しはしてるのか」
「そうかあ。微妙なところなんだね」
「それからそもそもとして、日本語のセックスレスと、英語のsexlessって、若干ニュアンスが違うのよ。sexって性別っていう意味だから。それがないってことは、つまり性別がないということなの」
「性別がない? どういうこと?」
「ほら、雄も雌もない生き物とか植物とかあるじゃない? あれのこと」
「ああ、なるほど。じゃあ、下ネタではないのね?」




