L as in lady(レディのL)、VI
「必勝法?」
由利は怪訝な顔をして瑛子を見た(look)。
「英単語ってね、ある意味、漢字みたいなものなのよ」
「どこがよ。あんなの、全然漢字みたいじゃないじゃない」
由利は、記号にしか見えないって言ってるじゃん、という顔をしている。
「見慣れれば、そう見えるってこと。例えばだけど、漢字だと、さんずいが付いてると、何となく水っぽいでしょ」
「うん」
「草冠がついていれば、何となく草っぽいと思うじゃない」
「うん」
「土がついてたら土っぽいし」
「そういうの、小学校でやったよね」
「やった。国語の先生が教えてくれたわね。でもこれ、実は同じことが英語でも起こってるのよ」
「ええ? ほんとに?」
由利は疑わしそうな目で瑛子を見る。
「そう。私達日本人は、漢字の読み方がわからなくても、何となくニュアンスで雰囲気を感じ取ることができるじゃない。英語のネイティブも、同じことを英語でやってるの」
「どういうこと?」
由利は首を捻った。
「例えば一番有名なのは、re-ね。単語の始めにreが付いていれば、ほとんどの場合は、『再び』っていう意味になる。だから、reの後の言葉の意味が分からなくても、とりあえず何かが再び起こるんだなっていうことがわかるの。例えば、returnっていう言葉。turnは回転するとか、方向を変えるという意味だから、re再び、turn方向を変えるっていうことで、『再び方向を変える』という意味になる。再び方向を変えるってどういうことかって考えると、ああ、戻ってくるっていう意味なんだなって分かる」
「たしかに」
「あとはメールでよく使うのが、reply。メールに返信するときに返信ボタン押すと、題目のところにREって入ってくるでしょう? あれも『再び』っていう意味。簡単な言葉にreをつけるだけで、結構語彙は増やせるわよ。replay, relive, react, retakeとかね」
「なるほど」
「あと有名なのは、bi-ね。数字の『二』という意味。自転車はbicycleでしょう。これはbiとcycleの二つの要素から成り立ってるの。サイクル(cycle)っていうのは輪っかのこと。そのcycleが二つある乗り物、つまり自転車っていうわけ。bisexsualは両性愛だし、bilateralだったら二国間のという意味になるし。binaryは二進法」
「なんか、学生の頃そういうのもうっすらやったような気が……英語苦手だったから、かなりスルーだったんだよね」
由利は頭を抱えて考え込んだ。
「由利は理数系だもんね。すごいよね」
「すごくないわよ。実生活にまったく役立たない」
「そんなことないよ。今はリケジョの時代じゃない」
「まあ理系で食べていける人はそれでいいのかもしれないけど。大学なんてどこを出ても、結局ほとんどの人はまったく関係のないオフィスワークでしょ」
「それねえ。本当にもったいないわよね」
瑛子も子どもたちには是非とも理系に進んでもらいたいと思っているが、将来何が役に立つのかなんて、誰にもわからない。
一つわかっていることがあるとすれば、バブル期のように、金回りのよさに日本中が酔っ払ってテンションが高かった状態の『至福の世界』(これをLa-La Landと呼ぶ)は、この先ぜったいに訪れないのだろうなということだ。
「まあ、気を取り直すとして。そうやって英単語の頭の部分に付いているのを接頭辞って言うんだけれど。これを読み取るだけで、何となくニュアンスが分かるようになったりするものよ。逆に、尻尾の部分についてるのは接尾辞って言うんだけれども、これも結構使えるわよ。例えば、playに-erをつけたらplayerでしょう。playerっていうのはつまり、プレーをする人っていう意味」
「コスプレーヤーのplayerね。なんか、コスプレする人はレイヤーとか言うよね」
「そうね。不思議なところで切るわよね。日本人のこういうセンスは面白いわよね。で、-erが『〜する人、物』というのが分かったら、ここからさらに広げていけばいい。gameに、-erをつけたらgamerでしょ。useに-er付けたらuserでしょ。speakに-er付けたらspeakerになるし。こうやって単語は増やしていくのよ。それに、読解問題でも、-erの前に書いてある単語が何だかわからなかったとしても、これが付いていれば、とりあえずその前の単語のことをする人か物なのかなっていうのがわかるじゃない。そうやって読み解いていくの」
「まったくわからない状態よりはだいぶマシよね」
「まさにそれ。まあ、英語はいろいろな言語がごっちゃに混じってる言語だから、必ずこの法則が使えるとは限らないけど。でも使えるシチュエーションは結構多いんだよ」




