L as in lady(レディのL)、III
「ああ……あれでしょ、『女はいいねー、女ってだけで上に上がれるもんねー』みたいなやつ」
瑛子の生徒さんにも、そういうことを会社で言われている方もいる。
「そ。女は茶でも汲んでればいいんだってマインドの人、今だにいるからね。忙しいのは本当だけど、昼休みに外でランチ(lunch)してるだけで、『丸の内のOLさん』扱いよ。自分の金で、自分の昼休み(lunch break)に、自分の好き(like)なもの食べて何が悪いっつーんだよ。かといって、コンビニでお弁当(lunchbox)買って自分のデスクで食べてたら、『料理もしない女』扱いよ。誰も直接は言ってこないけど。陰口って光(light)のスピードで広まるからね」
「あらあ……」
瑛子は気の毒そうに友人を見た(look)。
「しかも我々ってビミョーなお年じゃない。年上部下もいれば、年下部下もいてさ。やることがあまりにも多いから、リスト(list)化して、優先順位の高いほうから片付けていってるっていうのに、それをニヤニヤしながら見てる年上部下がいてさ。構ってちゃんなのか何なのか、よくわかんないんだけどさ、まったく役に立たないアドバイスしてくるんだよね。長々と(for a long time)。で、最後に(at last)、『ま、俺レベル(level)になるとこれくらい朝飯前だけど』って言って立ち去るんだよ。人の話聞け(listen)よ。お前が言ったことやんねーから、こっちが尻拭いしてるんだよって、仕事終わりにロッカールーム(locker room)でめっちゃため息出てくる」
「うわあ、お疲れ」
「じゃあ年下部下は使えるかっていうとほんと個人差あってさ。鋼のメンタルなのか何なのか、間違ってても『自分は正しいです』ってゴリ押ししてくる子がいるんだよ。しかも、ちょくちょく嘘(lie)ついてくるの。それがまた、すぐにバレるレベル(level)でさ。その度に、『嘘つくんじゃねーよ、ガキが!(Don’t you dare lying to me, kiddo!)』って言葉がね? 喉元まで出かかってね? もちろん言わないですよ? そんなことしたら、一発アウトですからね? でもさ……私も人間ですからね」
由利はティーカップを焼酎のロックグラスのように持ち上げる(lift)と、くいっと紅茶を飲み干した。
瑛子はすかさずおかわりを注いであげる。
まあ、飲みなよ。と目で合図をする。
由利はかたじけない、と黙礼した。
このやりとり、学生時代にもよくやったものだ。
「こういうこともセクハラになっちゃうから言っちゃいけないんだろうけどさ、女の子のほうが扱いやすいことは、扱いやすいんだよね。きちんと言ったことをやってくれるし。報告もまめだし。それはいいんだけどさ、でも、言われてもどうしようもないこととかも言ってきたりして。この前なんか、『〇〇さんが、係長のことおばさん(old lady)って言ってましたよ』って言ってきてさ。えーっと、確かに私は係長で、年齢的にはおばさん(old lady)かもしれないですけど。私本人に言う必要ある? 私にどうしろと? って思ってさ」
「困るわね」
「困るよ」
『おばさん(old lady)』という言葉は、日本社会においてなんとも微妙な位置付けにある用語だ。
昔は、ざっくり言って子どもがいそうな年齢の女性のことは、おばさん(old lady)と言えばいい、という時代だった。
子どもも、同年代の人も、『おばさん(old lady)』よりも年上の人も、おばさん(old lady)のことをおばさん(old lady)と呼ぶことに、何の抵抗も感じなかったのだろう。
だが、言われる側としては、やはり気持ちの良いものではない。子どもに言われるならいざ知らず、自分より年上の人に「おばさん」と言われれば、「そういうお前はなんなんだよ」とキレたくもなるというもの。
それに現代では、ハラスメントの問題も関わってくる。おばさん(old lady)は、年齢と性別という、ハラスメントに引っかかる二大項目が入った言葉なのだ。




