L as in lady(レディのL)、II
ウィークエンドシトロンに合わせて、ストレートの紅茶をいただく。茶葉(tea leaves)で淹れた紅茶は、やはりティーバッグのものより美味しい。
『葉』のLeavesは、leafの複数形だ。日本語だと、ティーバッグではなく、茶葉そのものだと言いたい時は『リーフ』とする場合が多い。
だが、当然だが、茶葉が一枚だけ提供される場合などほぼない。そのため、leavesと複数形にするのが一般的だ。
由利としばらく他愛のない話をする。たいして変わり映えのない日々を送っているとは言え、話し出すとそれなりに話題は出てくるものだ。
「ーーそれでさ、私、家を買ったんだけど」
由利がなんてことないように言う。
「すごいじゃない! おめでとう。これであなたも、一家の主ねえ」
由利はずっと賃貸物件に暮らしていたが、常々、早く持ち家が欲しいとこぼしていたのだ。
そして、確か彼氏と同棲していたはずである。
「うん。よかったんだけどさ。まあ、中古なんだけどね。 なんかちょっといろいろあって、『もういいや!』って思って買っちゃったの」
「そうかそうか。それは思い切ったね。調べものとか、いろいろ大変だったでしょう」
「いやー、それがさ、ちょっとノリっていうか、勢いっていうか? 初めて行った不動産屋さんで、そのまま内見して買っちゃったのよ」
由利は、声をあげて笑った(laughed)。
由利はそういうところがある。思い立ったら一直線というか、決断も早いし、行動も早い。
その分、いろいろと後悔することも多いらしく、しょっちゅう泣きながらお酒を飲んでいたものだ、昔は。
「わお。それで、どうなの? マンションの住み心地は?」
「とってもいいわよ。 ついでに猫ちゃんも飼っちゃったの。もう、おうちに帰るのが楽しみで楽しみで」
ニヤニヤした顔しながら、由利はにゃんこの写真を瑛子に見せてくる。
愛くるしい子猫が、『構って!』というように、まん丸な目で、スマホの画面の方を見上げて(look up)いる。
羨ましい……
瑛子はスクリーンに映る子猫を撫でたくて、手をにぎにぎした。
「 でさ、会社でも昇進したんだけど」
スマホを置きながら、由利は言った。
「すごいじゃない。おめでとう!」
瑛子は拍手をした。
「全然おめでたくなんかないわよ。私はずっとそこそこのところでいたかったのに。なんかほら、昨今はさ、とにかく女も昇進させろとか、何人くらいは役職付きにしないといけないみたいなさ、目標数が出てきちゃったじゃない? まさに、それ。まあ要するに頭数合わせよ。だから、とりあえず長くいた私に白羽の矢が当たったみたいなのよね。こっちとしては、そんなに給料も変わらないのに、いろいろ大変になっちゃって。本当面倒くさい。リーダー(leader)になるための心得とか、『人を導く(lead)強いリーダー(leader)とは』うんちゃらセミナーとか行かされてさ。あんなにぽやっとしてた会社なのに、いきなり意識高い系っぽくなっちゃったの、うち」
ああ、と瑛子は同情の目を友人に向けた。
話としてはよく聞くが、これがいわゆる、 官民が推進する、女性進出というものなのだろう。
何だかどうしたいらいいかわからないから、とりあえず女性を役職につけてしまえ、という企業がかなりあるらしいというのは、以前新聞で読んだことがある。
「まあ、私も悪かったっていうか、家買っちゃったじゃない? で、猫も飼っちゃったじゃない? だから、ちょっとでもお給料が上がるならいいかなと思って、軽い気持ち(light heart)で引き受けちゃったんだ。でも、こんなに大変と思わなかったんだよぉ。周りからは、こいつ良いところ取り(get the lion’s share)しやがって、って目で見られるし」
友人は割に合わないわよ、とため息をついた。
『The lion’s share』
直訳すると、「ライオンの分け前」となるが、これは、『分け前の一番大きなところ』を意味する。
どこから来た表現なのか正確には分からないが、サバンナなどでは、肉食動物のライオン(lion)は食物連鎖のトップにいるため、一番良いところを食べられるのだろうな、というイメージで瑛子は覚えている。
『The lion’s share』は、「本当はそれに見合う働きをしていないくせに、うまいところを取りやがって」という、ネガティブでやっかむようなニュアンスを含む表現だ。




