表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A to Zで綴る瑛子の日々  作者: 上条ソフィ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/65

K as in Kill(殺すのK)、IV

 ◆◇◆◇


 たまたまニュースのネタが少ない時期だったからか、『夫に浮気された妻、殺人未遂!』と大々的にマスコミに取り上げられる事態となってしまった。ついには、人間相関図まで登場して、アナウンサーの解説まで入る事件となり。


 瑛子の教室は完全にとばっちりを受けた側なのだが、なにせ『殺人未遂』の事件現場ということで、セキュリティの甘さを指摘されたり、『同僚』の倫理観の欠如は教室全体の雰囲気が悪いから、などという全体責任を押し付けられ。

 あまつさえ、『殺人教室』という悪名のレッテルまで貼られてしまった。


「『Killer class』、ねえ」

 瑛子はため息をついた。

 ちょうどここが英会話教室だったこともあり、誰かが呼び始めたのが、この 『Killer class』というキャッチフレーズだ。

 文法的なことを言えば微妙に不正解なのだが、分かり易さという点であっという間に広がってしまった。


 killerは、Kill (殺す)という動詞に、『〜する人や物』という意味の『-er』をつけたものだ。

 つまりKillerは直訳すれば、『殺す人』や『殺す物』という意味だ。

 日本語でも、刑事ドラマなどで『シリアルキラー(serial killer)』という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。これは『連続殺人犯』のことを指す。


 さて、killerをどう訳すか。

 殺人者と呼ぶか、それとも殺人犯か。


『殺人犯』とすると、『犯人』の意味合いがあり、これは罪である。

 だが、『殺す(kill)』という言葉自体は、日本語でも多くの場面で使われている。


 感情を『押し殺す』

『殺処分』する

『殺菌』する


 など。

 殺すという言葉と倫理観は、興味深い関係にあると瑛子は思う。

 殺すという言葉――およびその行為――そのものが、悪というわけではないのだ。その対象が問題になるだけで。


 例えば、『殺菌』。

 菌という生き物を殺しているわけだが、この行為に心を痛める人はいないだろう。植物だって細菌だって動物だって、等しく生きているわけであり、殺すという行為そのものが悪であるなら、人間は菌すら殺せなくなってしまう。そうなれば、人間などとっくに絶滅しているだろう。


 特にコロナ禍では、『殺菌』は正義に格上げされた。殺菌をすることで、人間が生き残れる。そうなれば、むしろ殺菌をしないことが悪であったわけで。誇張表現をすれば、いわば世界中が殺菌という殺しを推奨していたわけだ。


 とはいえ。

 現代の『殺菌はオッケーで殺人はダメ』という枠組みに、瑛子はなんの不満もない。せっかく平和な時代の平和な国に生まれてきたのだ。このまま平穏に生涯を終えたい所存である。



「あのクソヤロウが」

 若い先生の一人が吐き捨てる。


 瑛子の教室のバックオフィスに集まっていた他の先生たちも、まるで呪いを吐くように同意する。


「Yeah, I knew he was a jerk.(ああ、あいつが嫌な奴だって僕は知ってたよ) 」

 普段は人の悪口など言わないマークも手厳しい。


 Knewはknowの過去形。knowedとはならない、不規則変化の動詞なので、注意が必要だ。ちなみに、過去分詞形はknownとなる。


「I didn’t know he was that bad. Though I thought he was kind of weird. (彼がそんなに悪い人だなんて私は知らなかったな。ちょっと変わってるなとは思ってたけど)」

 ハワイ出身の日系、Mina先生が肩をすくめた。


 Kind of 〜で、『ちょっと〜』とか、『ある程度〜』という言い回しになる。直接的な表現を避けるために、少し柔らかくするために使う表現で、Mina先生のように『変わっている』を『ちょっと変わっている』とオブラートに包む時によく付け足される。


「私はいい人だと思いましたけど。UFOキャッチャーで取ったって、コアラ(koala)のぬいぐるみ、くれましたよ」

 若いスタッフが言う。この子は働き始めてまだ一年経たない新人さんだ。若者らしく、キャピキャピしている……という言い方は古いか。


「それ、あなたがぴちぴちギャルだからよ」

 同じようなことを思っていたらしい幸子先生が突っ込んだ。


「不倫相手とゲーセンで取って、家に持って帰れなかったんじゃね?」

 雄太先生も突っ込む。


「え! やだ! それこわっ! 教室に持ってきてもいいですか!?」

 若いスタッフはあわあわしながら叫んだ。


「そういうところが、おっさんの心を掴むのよねえ」

 幸子先生がそう、目で瑛子に訴えてくる。

 瑛子は苦笑しながら曖昧に頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ