H as in Happy(ハッピーのH)、VI
良い感じに落ち着いたところで、瑛子は執事……じゃなかった、店員さんにお礼を言ってから、幸せを噛み締めた。
いい。
フルーツやホイップクリームなどのデコレーションには一切頼らない、このシンプルさ。
焼き色にもややムラがあるあたりに、手作りのよさが感じられる。
腕と素材で勝負する、その潔さに乾杯だ。
瑛子はナイフとフォークを持って、ホットケーキを大きく切った。
中はふんわり。切れ目にとろりとバターとはちみつが流れていく。
こんなに分厚い生地なのに、中までしっかり火が通っているのがあっぱれだ。
無言ながらテンションが上がりまくった瑛子は、ホットケーキを口に入れて頬張った。
熱々のホットケーキにやや舌を火傷しながらも、夢中で瑛子は咀嚼する。
ごくりと飲み込んで、「あー……」と目をつぶった。
「美味しいー」
そう呟いて、紅茶を一口飲む。甘くなった口の中に清涼感が突き抜ける。瑛子は唸りつつまたホットケーキを口に入れる。
はちみつ買って帰ろうかな。
店内で使っているのと同じものが販売されているらしい。だが、小瓶でなかなか良いお値段だ。子どもに食べさせたら一瞬で消えてなくなるだろう。無理だ、と瑛子は一瞬でそのアイデアを却下した。
Honeyといえば、ハニトラ。honey trap 。
スパイ小説などに出てくる、女性が男性に色仕掛けで迫って機密情報などを盗む、アレだ。
側から見ていると、こんな美人がそんなに簡単に手に入る訳ないだろうがと思ってしまいがちだが、人というのは自分に都合の良いように物事を解釈する生き物である。
瑛子だってさっきの店員さんにハニトラを仕掛けられたら、ころっといってしまうかもしれない。
男性が仕掛けてもハニトラなのかな?
そんなことを考えながら、またホットケーキを口に入れる。
ハニーと言えば、新婚のお決まりは
Honey!
Darling!
と夫婦がお互いを呼び合うことだ。
日本では、ハニーと奥さんを呼ぶのは旦那さん、ダーリンと旦那さんを呼ぶのは奥さん、と相場は決まっているものだが、英語だと特に性別の差はない。
つまり、奥さんが旦那さんを「Honey」と呼ぶのもアリだし、旦那さんが奥さんを「darling」と呼ぶのアリなのだ。
また、honeyとdarling が対になっているわけでもない。
「私があなたをdarling と呼ぶから、あなたは私をhoney と呼んでね」と決め事のようにする必要もないのだ。
Honey と呼ばれたらsweet pieと返事をするのもよし。
Sweetheart と呼ばれたらhoney と返すもよし。
こういったものは、いわば究極の内輪受けなので、呼ばれている当人たちが分かっていればそれでいいのだ。
Honey 、darling 、その他もろもろ甘めの言葉(sweetie, sweetheart, sweet baby など)は、「可愛い人」や「最愛の人」という意味で、友人同士で使うこともある。
女性同士が使う場合が多いだろうか。
例えば、女友だちで話しているときに、「彼氏とうまくいっていない」、と悲しんでいる友人にアドバイスをするとき。
Honey, he’s cheating on you.
ねえ(可愛いあなた)、彼は浮気してるのよ。
といった具合に使う。
言い方と使い方にもよるが、ここでの『honey 』は、やや上から目線というか、親が子どもを嗜めるうようなニュアンスが出てくる。だから間違っても、上司や学校の先生には使わない方がいい。
Honey をHonと短くして使う人もいる。
Hey, hon!
のような呼びかけにすることもある。瑛子はそういうキャラではないので使わないが。
またハニーといって忘れてはいけないのは、honeymoonだ。
日本語でハネムーンといえば新婚旅行のことだが、蜜月という意味もある。結婚直後の甘々の時期、という意味だ。つまり、当人たちがラブラブだと思っているうちは、honeymoon中だということ。
そんな時もあったわねえと考えながら夢中になって食べていると、ホットケーキはあっという間になくなってしまった。
瑛子は名残惜しげに最後の一切れを口に入れる。味わうように、ゆっくりと咀嚼した。




