G as in Grammars(文法のG)、V
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God is in details.
『神は細部に宿る』という。
目につきにくい細部に、物事の核心があるという意味だ。
どの神か、という疑問はこの際、問うまい。が、一言付け加えるなら、Godが大文字で始まる場合(たとえ文章の途中でも)、そのほとんどがキリスト教の神を表す(常にGodとなる)。その他の神の場合は、文章の初めでない限り、小文字で表す(godとなる)。
God is in details.
これを『神』の代わりに、『悪魔』と言い換えることもできる。
Devil is in details.
神にしろ、悪魔にしろ、細部をおろそかにすると痛い目に遭うという意味だ。
天才とは、細部にまで物事をこだわるものである。
凡人は詰めが甘い。
突拍子もなく、瑛子が神だの悪魔だの言い出したのには理由がある。
スーツをクリーニングに出してほしいと夫に頼まれたのだ。
自分の分のスーツもちょうどクリーニングに出す予定だったから、いいよと瑛子は引き受けた。
クリーニングに出す前に、スーツのすべてのポケットをひっくり返して中を確認する。以前、自分のスーツのポケットに生理用品を剥き出しのまま突っ込んでいたことをすっかり忘れてクリーニング屋さんに持って行ってしまい、ポケットを確認されてとても恥ずかしい思いをしたことがあるのだ。
だからスーツのポケットは、絶対に確認してからクリーニング屋さんに行くようにしている。
さて、夫のスーツである。背広の内ポケットから、何やらレシートが出てきた。
ほう。面白い。
瑛子は片眉を上げた。
都内の誰もが聞いたことがあるような有名なホテルのバーのレシート。お会計の時間は、深夜。なかなかのお値段である。
まさか同僚と言ったのだろうか。
こんな深夜に?
それとも、接待?
これが経費で落ちるようなものだったら、このレシートはとっくの昔に会社に提出していて、手元にはないはずである。
というか、この日は出張だと言っていなかっただろうか?
いや、ゴルフ(golf)接待だったか? たいしてゴルファー(golfer)でもないくせに、一式良いセットを持っている夫のゴルフセットは、その日、家にあったか、それともなかったか。
記憶がない。
それにしても、夫は詰めが甘い。天才には、一生なれないだろう。『いい人(good person)』であるとこが唯一の美点だと思っていたが。実は結構、肉食男子だったのか。
そういえば、学生時代はギタリスト(guitarist)だったと言っていたけれど。「バンドを組んでギター(guitar)やってたんだ」と見せてもらった写真は、結構パンクなノリだったことを思い出す。
出会った頃には、どちらかとコンピュータ系のオタク(geek)という印象を受けたが。そのくせ、電子機器(electronic gadget)にはめっぽう弱い。
パンク魂が再燃したのか?
瑛子はそう推測する(guess)。
中年は時としてエネルギーを変な方向へと爆発させるものだ。
その日の夜、瑛子はさりげなさを装って夫に言った。
「クリーニング出しといたよ」と。
「ありがとう」
夫は新聞を読みながらそう答えた。
「レシートが入ってたけど」
瑛子は夫が新聞を置いているテーブルの上にレシートを滑らせた。
「えっ!」
夫はすっとんきょうな声を出した。アニメの声優か。
「都内のホテルのバーみたいね。どうしたの?」
瑛子は普通の会話のリズムを崩さずに聞く。
「しっ、知らないな。僕のじゃないよ」
夫はわかりやすく、肩を跳ねさせながら言った。目が合わない。鼻がピクピクと動いている。
「そう。知らないの」
「うん。知らない。知らないよ、僕のじゃないんじゃないかな。きっと、会社の人の誰かのが、入っちゃったんだよ」
「あなたのスーツの内ポケットに? そんなに誰かと仲良しなの?」
「えっと、いや、違うよ。あっ、そうだ、思い出した。接待だったんだ。最近物忘れがひどくてね。はは」
「まあ。接待なら、レシートは提出しなくていいの?」
「会社のクレカで切ったから大丈夫。勝手に管理してくれるんだよ。便利な世の中だよね!」
「でもこれ、あなた個人のクレカじゃないかしら?」
「ど、どうして僕のクレカ番号知ってるの……?」
「どうしてって、いやねえ。この前みんなで旅行した時の宿、あなたのクレカで決済したじゃない。そのサイトに番号が保管されているのよ」
夫は冷や汗をかいている。
瑛子は穏やかに、少しづつ夫の退路を絶っていく。
いつもなら旅行の予約などは瑛子がやるが、今回はなぜか夫がやりたがったので、好きにさせていたのだ。安いプランを比較して、『最安値保証(guarantee)』のものを探してきた。
「どうだ! パパ、すごい(great)だろう。こんなにリッチなプランを予約したんだぞ! ゴールド(gold)プランだぞ!」と子どもたちに自慢していたのだが。
が、予約をしたらそこで満足してしまったらしく、当日に予約番号が分からないと言い出した。なので瑛子がそのサイトに入って、旅程をスクショしたのだ。
その時に得た(got)パスワードが、こんなことに使われるなんて夫は思いもしなかっただろう。
「あー……そうだったっけな? うん、そうだね。僕のやつだ。後輩がさ、相談があるっていうから。ほら、安い居酒屋だとカッコつかないだろう? 頑張って働けば、こんないいところに来れるんだぞって若者に夢を見させてあげるのが、大人(grownup)の責任っていうかさ」
「そう。後輩思いなのね」
接待のくだりどこいった? と思いつつ、瑛子は夫の話に頷く。
ほっと夫の肩の力が抜けたタイミングを見計らって、瑛子は畳み掛けた。
「そのままそのホテルに泊まったの?」
「いや、あんな高いところ無理だよ! ホテルは他のところを……あっ!」
夫は口を塞いで固まった。




