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F as in Fluent (ペラペラのF)、VI

 ◆◇◆◇


 家に帰ると、息子が「ママママママー!」と駆け寄って来た。ちょうど五分前に学童から帰ってきた息子は、元気いっぱいだ。


「ママっ! 花火大会(fireworks)行こうっ!」

「花火大会?」

「そう! 今日の夜! 川で見ようねって言ったでしょ!」

「ああ……」


 いろいろあって、すっかり忘れていた(forgot)。いやに電車に人が多いなとは思っていたけど、金曜日(Friday)だからかと気にも留めていなかった。よく考えれば、浴衣姿の若い子もいたか。すっかりスルーしていた。歳をとると、こうやって周りのことが見えなくなっていくのだ、と恐ろしい気持ちになる。


「僕、天気予報(weather forecast)も見た! 天気良い(fine)って!」

 どおーん! と、息子は花火が弾ける真似をして部屋を走っている。床(floor)がドタバタと揺れる。


「め……」

 面倒くさい、という言葉をかろうじて瑛子は飲み込んだ。今それを言うほど、瑛子は鬼ではない。


 まあ、出店で夕食にすればいいか。


「何食べよっか?」

「フライドポテト(french fries)!」

「それはいつでも食べれるでしょうが」

「じゃあ、唐揚げ(fried chicken)とピザ!」

「それもうちに冷凍(frozen)のが……うん、分かった。今日は好きなもの食べていいわよ」


 わあーい! と息子は飛び跳ねる。


 つい口から出るのは、普段から馴染み深い(familiar)食べ物なのだろう。まあ、出店に行けばあれもこれも食べたい、と始まるだろうから。


 お祭り(festival)なんて久しぶりだ。去年は息子が熱(fever)を出して行けなかったことを思い出す。

 だからこんなにハイテンションなのか。また熱出さなきゃいいけど。


「ね、パパは?」

「……あなたのお父さん(father)は出張中よ」


 本当かどうかは分からないが。事実(fact)かどうかなど、確かめる気も起きない。夫婦として誓いを立てれば夫は浮気をしない(faithful)なんて幻想、とっくに破れている。

 だって、問い詰めて何になる? 無駄だ(futile)だと思うようになったのは、いつからだろうか。


 もう夫婦というより、家族(family)という位置付けだから。

 それが言い訳として成り立つのかはわからないけど、どこの家でも似たり寄ったりなのではないかと瑛子は思っている。


「ね、早く行こう!」

 息子が瑛子の服を引っ張る。どうやら、お友だち(friend)も花火大会に行くそうで、会えたら会おうと約束したらしい。


「着替えるからちょっと待って」

 仕事着では外出したくない。スーツは体にフィット(fit)するようにできているから、きついのだ。特にお腹周りが。

 着替えようとする瑛子の後ろを、息子がついてくる(follow)。この熱心さを普段にも活かしてほしいのだけど。


「英語で十まで言えたら、りんご飴買ってあげる」

「わかった! えっと……one! Four! Ten!」

「飛ばしすぎでしょ。oneの次はtwo」

「two, five!」

「two, three, four」

「five! Ten!」

「five, six」

「ね、もういいから行こうよお!」


 焦れた息子に背中を押されながら、瑛子は外に出る。

 花火大会の会場は人でごった返していた。息子は案の定、「あれが食べたい、これが食べたい」と目をキョロキョロさせる。

「落ち着きなさい。そんなに一気に食べたらまたお腹壊すわよ」

 瑛子は息子を宥めた。


「ね、ママ。あれやりたい」

 息子が指差したのは、小さなプールに浮か(float)んでいるおもちゃのカエル(frog)だった。なんでも、時々ぴょんと飛び跳ねる(fly)カエルを網でキャッチするらしい。


「ええ……」

 瑛子は尻込みした。

 だってこのカエル(flog)、柄が妙にリアルなのだ。質感はぶにっとしていそうだし、お腹はぽってり。大きな目は今にもまばたきしそうなほど艶めいている。

 ゼンマイ仕掛けらしいこのおもちゃのカエルが家のシンクに浮かんでいる様子を想像して、瑛子は考える。


 これ、いきなり飛び跳ねたら、夫はびっくりして心臓麻痺でも起こすんじゃ。

 まあそこまでの歳ではないが、ひっくり返った声でも聞けたら御の字。


「いいわよ。いっぱい捕まえなさい」 

 瑛子は心の中で笑って、ゴーサインを出す。

 わーいと息子は店に駆け寄っていった。



 息子は戦利品のカエルを手に持ってご満悦だ。

 花火(fireworks)にも大満足のようで、「すごい(fantastic)!」と大興奮だ。


 花火が終わると、娘も合流した。友だち(friends)と花火は見たけど、お腹が空いたからファミレス(family restaurant)に行きたいらしい。


 こんな時間に食べたら脂肪(fat)になるわよ、なんて無粋なことは言わない。今日は祭り(festival)なのだ。瑛子もフローズンヨーグルト(frozen yogurt)を頼む。


 やはり花火大会だったからか、家族(family)連れも多い夜のファミレス。夫婦と子ども、という家庭も多いが、瑛子のところのようにお母さんと子どもの組み合わせも多い。


 家族の在り方もそれぞれだ。

 家族(family)っていいものだなと、瑛子は楽しそうに話す娘と息子を見て目を細めた。

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