F as in Fluent (ペラペラのF)、V
「……結果が出ないかもしれない、ということはお伝えしましたか?」
瑛子は低い声で聞く。
「はい! もちろんです!」
マネージャーは校長先生の前に立った小学生のように返事をする。
「レッスンのスケジュールは組んできたの? ペラペラになりたいなら、外国人の先生のほうが良いんじゃなくて?」
「『僕は納得できないことは頭に入らない』とおっしゃるので……日本人講師のほうが良いかと……」
「……それで、私にお鉢が回って来たと」
瑛子は独り言のように低く呟いた。
若い先生に任せたら言い負かされるだろうから、中年の瑛子に回って来たに違いない。
「瑛子先生が一番ここで優秀な先生ですから! 素晴らしい(fantastic)な先生と言えば、瑛子先生ですから!」
マネージャーが慌てたように言う。
クレーム処理として一番優秀ってことだろう、と瑛子はしらっとした顔をする。
無言が続くオフィス。
時計の秒針の音が響く。
「ずっ、ずいまぜんっ! 私がバカ(fool)なごどを、ガウンゼリングでいっだがらぁ!」
それまで黙って泣いていたカウンセラーが、鼻を詰まらせながら叫んだ。
すっかり彼女の存在を忘れて(forget)いた瑛子は、びくっと肩を揺らした。
「まあそうね。カウンセリングでテキトーなこと言うから、こういうことになるのよ」
泣き落としにも動じず、幸子先生はぴしりと言う。
大きな目に涙を溜めていたカウンセラーは、おそらく「そんなことないよ」待ちだったのだろう。ショックを受けたまま、固まってしまった。
きっとこの子は、蝶よ花(flower)よと育てられてきた子なのだろう。若者特有の鼻にかかった舌っ足らずな話し方をする彼女は、失敗しても泣くか謝るかで今まで乗り切ってきたのだろうな、と思われる。
泣くカウンセラー。
気まずげに目を泳がせるマネージャー。
言うこと言ったらすっきりしたわと、我関せずな幸子先生。
カオスだ。
が、これをなんとかしないといけないのが、中年、もしくは中間管理職 (でもないのだが)の瑛子の役割。
「……分かった。三ヶ月ね」
瑛子はこめかみを揉みながら声を絞り出した。
「瑛子先生っ!」
マネージャーが歓喜の声を上げる。
「でも! それを過ぎたらあとはそちらでなんとかしてくださいね。私にも、私の生徒さんがいるので」
一応許す(forgive)が、釘はしっかりと刺しておかなければならない。
「ありがとうございます!」
マネージャーとカウンセラーに頭を下げられて、瑛子は曖昧に笑った。
「瑛子先生、モテモテねえ。できる先生は辛いわね。まあ、私が鍛えてやってもいいんだけど」
先生がちゃめっ気たっぷりに瑛子にウィンクする。
幸子先生と生徒さんのバトル、見てみたい気もする。けんけんがくがくで、格闘(fight)のようなレッスン。それはそれで面白そうな気もするが。
「とりあえず、できるところまでやってみます」
瑛子は弱々しく(feebly)微笑んだ。




