表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/98

F as in Fluent (ペラペラのF)、IV

「行けるうちに行っとけ、というのはまったく同意です」

 瑛子は頷く。


 海外旅行なんていつでも行ける時代ではあるが、それは金と時間と気力と体力があって初めて成立するもの。このすべてが揃っているタイミングなんて、人生でそうそうないものだ。『いつか』なんて言っているうちに、人生などあっという間に終わって(finish)しまう。

 時間も金も、待っていたって転がってくることなどない。自分から見つける(find)ガッツが必要なのだ。人生の終わり(finish)のファイナルアンサー(final answer)が、『もっといろいろやっときゃよかった!』なんて切なすぎるではないか。


 それに、地球環境問題でカーボンフットプリント(carbon footprint)にも敏感な時代だ。飛行機なんて、CO2の排出量が多い行動の最たるものの一つ。化学燃料(fossil fuels)を燃やしながら、飛行機は飛ぶのだから。そのうち『偉い人しか飛行機には乗れません』という時代になってしまうかもしれない。


「ふふふ。瑛子先生ならそう言ってくれると思ったわ」

 先生は嬉しそうにタッパーを開けて、瑛子に差し出した。中に入っていたのは、色とりどりのフルーツ(fruits)だ。

「ほら、お食べなさい。食べないと、午後持たないわよ」

 手渡されたフォーク(fork) をありがたく瑛子は受け取った。こういった緩い友情(friendship)もいいものだ、とほっこりしながら、瑛子は新鮮(fresh)な梨を咀嚼した。



「……お疲れ様です……」

 げっそりとした顔(face)のマネージャーと、泣きじゃくるカウンセラーの女の子がオフィスに入ってきた。どうやら、永遠(forever)に終わらないかと思われたカウンセリングは終わったらしい。


「お疲れ様」

 瑛子は労るように声をかけた。カウンセラーの女の子のために席を引く。彼女は指(finger)で涙を拭いながら、大人しく席に着いた。幸子先生はその子の前にティッシュの箱を置く。カウンセラーは鼻水を啜りながら、ティッシュを何枚か抜き取って顔に押し付けた。


「……どうだった?」

 瑛子は遠慮がちに聞いた。


 これは退会案件だろうな。最悪、レッスン料の一部返金か。


「……継続していただけることになりました」

 マネージャーが重々しく言う。


「あら。よかったじゃない」

 幸子先生が片眉を上げた。


「いや……その……それが……瑛子先生にお願い(favor)がありまして……」

 マネージャーは瑛子のほうをチラッと見ては目を逸らす、ということを繰り返す。なにかしでかしてしまった子どもが、お母さんにどう言おうか迷っているようなその仕草に、瑛子は嫌な予感に襲われた。


「瑛子先生に、マンツーマンレッスンをお願いできないかと……」

「え」


「あら。グループレッスンでも高い高いって散々ぼやいてたのに、プライベートレッスンにするの。そんなにお金ありそうに見えなかったけどね。まあ、あの生徒さんと同じグループに入れられたら、他の生徒さんも迷惑よね」

 幸子先生は西瓜を口に放り込みながら毒を吐く。


「いや、えーっと、その、お代金はいただかない感じで……」


「「はあ?」」

 瑛子と幸子先生の声が揃った。


「今までのレッスン料はご返金で、これから三ヶ月、瑛子先生にマンツーマンをお願いできないかと……」

「無料で(for free)?」

 瑛子の眉間に皺が寄る。

 マネージャーは瑛子の剣幕に蹴落とされたように、一歩下がった。


「もちろん瑛子先生のお給料はお支払いしますっ!」

「そりゃそうでしょ、アンタ」

 幸子先生が突っ込む。


「今までの半年のレッスン料を返金して、なおかつ無料のプライベートレッスンを三ヶ月? それって、三ヶ月後に結果が出なかったら、また同じことを繰り返すんじゃなくて?」

 瑛子は冷蔵庫(fridge)並みの冷たい声で問い詰めた。

「次にだめだったら、もうご退会いただきますのでっ!」

 マネージャーは土下座せんばかりに頭を下げた。


『だめ』という言葉に、瑛子のこめかみが引き攣る。こいつ、先生方の苦労をなんだと思って。


「無理よ。無理無理。半年で『僕ちゃんもうできないぷー』ってなってる甘ちゃんが、三ヶ月でどうにかなるわけないじゃない。機械じゃないんだから、修理に出したら直ります(fix)ってわけじゃないのよ。誰がやっても結果なんて出ないわ。その役割を瑛子先生に押し付けるのは、瑛子先生に失礼じゃないかしら?

 あなた、何も悪くない瑛子先生に将来(future)、頭を下げろって言ってるのよ? それはあなたの役割なんじゃなくて?」


 幸子先生がばっさり言ってくれて、瑛子としても、とてもありがたく、心強い。

 瑛子はイラつき(frustration)を分散させるように、腹から息を吐いた。


 マネージャーがそれにぴくっと震える。が、そんなことに気を使う余裕などない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ