F as in Fluent (ペラペラのF)、I
『ペラペラ』
なんて罪深い言葉なのだろうか。
英語のFluentは『流暢な』という意味だが、口語として訳すなら『ペラペラ』に当たる。
He is fluent in English.
テストの回答として訳すのであれば、『彼は流暢な英語を話す。』となるが、カジュアルな会話であれば、『彼、英語ペラペラなんだよ。』で十分だ。
さて、英語で『ペラペラ』を目指す日本人は多いけれども、実はペラペラって何なのだか、よく考えたことはあるだろうか。
何をもってペラペラだ、ペラペラでない、と判断するのか。
それは、誰が判断するのか。
自己評価なのか。
それとも、周りに「あの人、ペラペラだよね」と言われて、初めて成立するのか。
英会話教室――というか教育を売りにしたサービス業――は、どこもそうだと思うが、サプリメントのようなものである。薬ではない。
どういうことかと言うと、サプリメントは薬ではないので、効能効果を謳うことはできない。「血圧が下がる」とか、「血糖値が下がる」とか、「痩せる」とか、「皮膚のシミがなくなる」とか、そういった文言を書いてはいけない。薬事法で禁止されているからだ。
その代わり、「朝スッキリ」とか、「体軽々」とか、「輝く素肌のために」などといった、何となく明るい未来を想像させるような言葉が躍っている。
そして、サプリ愛用者様の『嬉しいお声』というものが載っている。「これを飲み始めてから、朝起きるのが楽になりました」とか、「肌が綺麗だねっていつも後輩女子に褒められます」とか。愛用者様の写真付きならさらに良し。そして、必ず小さく注釈が付いているものだ。「これは個人の感想です」と。
英会話教室でも、効果効能を謳うことはできない。政府認定の教育機関ではないため、受講しても何らかの資格が得られるわけではないからだ。つまり、「このクラスを取ったら、英語の試験で何点取れますよ」とか、「このレベルのレッスンまで受けたら、ネイティブと問題なく話せますよ」といったようなことを言うことはできない。
ではどうやってその教室に通う利点を宣伝するか? サプリと同じ戦法を取るところが多い。つまり、ふんわりと明るい未来を想像させるのだ。そして、ダメ押しとばかりに生徒様の体験談。「三ヶ月でTOEICのスコアが300点アップしました」とか、「海外出張にも自信がつきました」とか、「〇〇大学に受かりました」とか。もちろん、「これは個人の感想です」と下の方に小さく書いてある。
そして、新規の生徒様を集めるための広告によく使われるのが、この『ペラペラ』という言葉。
なんだかよくわからないけど、ペラペラ話している人ってかっこいいし。
ペラペラ話してる人がいると、英語が上手く聞こえるし。
ペラペラ話してる人って、頭良さそうに見えるし。
ドラマや漫画でも、営業などで『デキる人』というのは、たいてい語学が堪能だと相場は決まっている。
さらに、留学帰りともなれば金持ちそうな印象も強く、箔がつく。
その辺りのふんわりとした(つまりよく分かっていなさそうな)一般人のイメージを利用して、英語教材や英会話教室は『ペラペラ』という言葉を乱用するのだ。
そしてそのイメージに釣られて英会話教室に入ってきたはいいけれども、いつまでたってもペラペラにならない、だから自分は駄目なんじゃないか、と思い悩む生徒さんは結構多い。
でもよく考えてみてほしい。ペラペラって何なのか。
「今日、暑くね?」
「超ー暑い」
「すげえ暑いし」
「まじ、暑いわ」
「あつーい」
「あっちー」
こういった内容の薄い言葉だって、その会話が円滑に流れているのであれば、聞いてる分にはペラペラに聞こえるだろう。
だが、内容があるかと言われると、決してそうではない。だって、「暑い」しか言っていないのだ。
この『ペラペラ』でいいのか。
これで、満足なのか。
そもそも、『ペラペラ』とは『薄っぺらい』という意味ではないのか。
ペラペラした紙は薄くて持ち運びも楽だろうが、重厚感には程遠い。
いい年した大人が、若者に混じって「あちー」などと言っていてよいのだろうか。
言語に関しては、大人の生徒さんは特に、軽さよりも内容がしっかりしたことを言える、ということを目標にした方が現実的である。
子供に習わせるのであれば、なるべくネイティブに近い発音で流暢さを求めてもいいかもしれないが、大人になってくれば、脳の構造も、自分の思考回路も、かっちり固まってしまっている。だから、「新しい言葉をインストールすればそれでOK」というわけにもいかない。
そしてどう頑張っても、ネイティブと遜色ない発音を身につけるのは無理だ。
会話の基本は、相手の言っていることがわかって、それに対して自分の意見が言える、ということ。
大人になってから第二言語として外国語を習うのであれば、それだけで十分なのではないか。
が、残念ながら、『ペラペラ』にこだわる人は多い。そしてペラペラであることこそがすべてだと思っている人の考えをシフトするのは、結構難しい。




