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D as in Dog(ドックのD)、I

 真夏の夕方。


 すれ違った犬(Dog)が、必死な顔をしながら歩いている。

 暑いのだろう。口を目一杯開いて、舌を目いっぱい伸ばして、ヨロヨロと飼い主に引きずられるように歩くその姿は、もはや『散歩』という軽やかなものではなく、修行に近い。


『日中(daytime)は高温で危険(dangerous)ですから、散歩や運動は、早朝か、夕方以降にしてくださいね!』と天気予報士に繰り返し言われる毎日だが、夕方になろうと気温は下がる兆しを見せない。

 暗く(dark)なったって同じことだ。この分だと、夜明け(dawn)前だって大差ないだろう。


『dog day of summer』 (盛夏)とは、まさにこのこと。


 これで十二月(December)になったら、「寒い寒い」と言っているのだから、季節の移り変わりというのは目まぐるしい。


 お犬様にとっても厳しい季節みたいねえ。


 瑛子は額の汗を拭いながら、犬に同情の眼差しを向けた。


 常々、乳母車みたいなものに乗っている小型犬はなんのだろうと思っていた。


 犬って、散歩をしたい生き物じゃないの?

 乳母車に乗ってたら、動けなくないか?

 それって、散歩って言う?


 と。


 でも、乳母車に乗っている犬も、それを押している飼い主も、とってもハッピーそう(delightful)な顔をしているから、そういうのもありなのかもねと思っていた。


 それに、この灼熱のアスファルトを自らの足で歩いている中型犬や大型犬の方が、よっぽど悲しそうな顔をしている。

 乳母車。いや、違うけど。アリなのかもしれない。


 昔とは犬の扱いも変わってきたよなあ、と思うのはこんな時だ。

 瑛子が子どもの頃は、犬といえば屋外の犬小屋(doghouse)にいるものと相場は決まっていた。

 でもさすがにこの暑さだと、外で過ごすのは難しい(difficult)のかもしれない。犬はもはや、ペットではなく家族の一員なのだから。

 外に繋いでおくなんてもってのほか。冷暖房完備の家の中で快適に過ごしてもらうことが飼い主の義務(duty)なのだろう。


 犬の服もデパート(department store)で買う時代だし。

 ドッグフード(dog food)も美味しく(delicious)なってるみたいだし。


 昔とは違う(different)のだ。


 なぜ暑い暑いと言いながら、あえてこんなに暑い時に瑛子が外を歩いているかというと、息子が体調を崩したからだ。瑛子は薬局(drugstore)に処方箋の薬(drugもしくはmedicine)を貰うために、こうして果敢にも灼熱のアスファルトの上を歩いている。


 車を運転(drive)したいのは山々だが、残念ながら夫が出張に使っている。

 さすがに病院にはタクシーで行ったが、吐きそうになっている息子を見て運転手(driver)が迷惑そうな顔をしたので、息子を家のベッドに寝かしつけ、落ち着いてから瑛子は外に出たのだ。


 まあ、今夜の夕食(dinner)の買い出しもあるから、いずれにせよ外出しなければならなかったのだけれど。


 ああ! そういえば、今日は子どもの歯医者の予約(dental appointment)が入っていたんだった。変更をお願いしないといけない。

 いろいろとわちゃわちゃしてたから、すっかり頭から抜けていた。


 瑛子は鞄からスマホを取り出した。連絡をしようとスマホをタップしても、うんともすんとも言わない。


「Oh, my. My phone is dead.」

 瑛子は空を仰いだ。

『My phone is dead.』

 直訳すれば、『私の電話は死んだ』だが、この場合は電源が点かなくなったことを意味する。つまり、バッテリー切れだ。


 仕方がない。やや遠回りになるが、直接歯医者に行くか。


 瑛子自身も寝不足の頭で、フラフラと歩いていく。

 ここを曲がれば近道になるはず、と思った先は、なんと行き止まり(dead end)。瑛子は泣く泣く、今来た道を戻っていった。

 こういう疲れている時には、余計なことをするべきではない。

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